191 第二陣
ちょっと前に、30万文字超えてましたね。
そしてあと少しで200話、なのです!
ゼロ=オールとラン・ロキアスの戦いが始まった。
ゼロは、体の一部を全身の鎧からさらに変形させて本体から切り離し、一本の巨大な斧槍を生成。
それを構える。
ロキアスは、真っ白な剣を持っていた。
特に装飾はなされていなかったが、魔剣を作っている俺の目からはすぐにわかる。
あれは、【魔剣】だ。
「あれは」
「どうしましたか?」
となりで、落ち着きのない声を漏らしたのは当主本人であった。
何が恐ろしいのか、そのまま剣を、見つめている。
「あれを手に入れているということは、カレルは完全に彼を認めたのだな」
あきらめたような、ため息。
ルークエルリダスさんは、俺に先ほど渡した【闇夜の月】と兄弟剣である「それ」の話を始めた。
どうも、有名な剣であることは間違いないらしい。
「魔剣を作っているシルバ君には申し訳ないが、あっちのほうが上等だ」
兄弟剣が、神剣であることからそのような予感はしていたが、どうも俺の思い通りだったらしい。
俺はふぅと息を吐き、自分の実力不足を反省していると、右手をとる感触があった。
「大丈夫です」
エスペランサだ。
彼女は、俺の手を握ると柔らかい笑みをこぼす。
そして「彼とあなたは違います」と諭すように言葉を紡いだ。
「あの人は、新しく手に入れた魔剣すべての力を扱いきれておりません」
「それは、どういう?」
俺には、彼女の言っている意味がわからない。
希望は自分の胸から消えることはなかったが、不安もまた、自分の胸から消えることはない。
「シルバさんには龍眼魔法がありますし、その【龍眼】もありますからね」
あの人になくて、自分にしかないものはいくらでもあるではないか、と俺を安心させようとするエスペランサ。
「たしかに」
確かに、俺は転生した身だが。
神々に見初められて、手に入れた能力ならいくらでもあるではないか。
武器鍛冶神のヘーハイスからは【魔武具創造】をもらった。
それは今も魔剣づくりのために役立っている。
龍神アグルスからは、龍眼族としての身体をもらった。
その特典としてついてきた【龍化】と【龍眼】、【龍眼魔法】は、使いこなせてはいないものの自分の自信につながった。
運命神スロツ=トールからはこの境遇をもらった。
神にしてはスロットマシンという【運】に頼ったものだったが、ちゃんと今の状態を引き当てられた。
そして、希望神ホープからは。
俺にしか持っていない【引斥制御】をくれ、『エスペランサ』として俺の支えになっている。
「そうだな」
ここまでかんがえたところで、俺は何も自分に問題がないことを悟った。
心配することなど何もなかったのだ。
彼には持っていないものを、俺はいっぱい持っているのだ、と。
「それにしても、この状況はキツい、かもしれない」
ついに、ルークエルリダスさんは焦り出した。
その状態を見ながら俺が下のほうを向くと、そこには確かに魔剣に押されているゼロ=オールの姿がある。
あいまいにしか分からないが、どうも純粋に力だけで押されているらしい。
あの魔剣の基本能力は、見れば分かる通り瞬きによる目つぶしだろう。
しかし、械刃族にそれが通用するとは思えなかった。
……もしかして、彼は俺たちの知りうることのない、固有能力を持っているのではないかとどうしても感じてしまうのだ。
俺にも、あるのだから、彼にあってもおかしくないだろう。
「いえ、発動するような特殊能力を、ラン・ロキアスは持っていませんよ」
「でも、それならなぜ」
一時的に筋力を倍増させる、というような能力を行使しているのではないのか。
しかし、もしエスペランサの言っていることが事実だというのなら、俺はとんでもない勘違いをしているのかもしれない。
「もしかして、あれが醒眼族のそもそもの能力、なのか?」
「いいえ、彼は……」
エスペランサは、圧殺する勢いでゼロ=オールを抑えているロキアスに焦点をむけると、息をのんで後ずさる。
「彼は、三種以上の混種族なのです。……論理上、あり得ないのですが」
「三種以上? でも、親の親も混種族だったばあいは稀だがあり得るんだろう? ……あ」
ここまで考えたところで、俺は勘づいてしまった。
気づいてしまった、といえばいいだろうか。
彼は、俺と同じ転生者なのである。
親も、その親も。特に普通の人間である可能性が高いのだ。
「それが、彼の特殊能力というわけですか。現時点ですくなくとも、腕獣族・醒眼族・知勉族の種族は混同されているようですね」
龍眼族には及ばないが、物理原理に迫るほどの身体能力を持つ【腕獣族】。
魔法は不得手だが、それを凌駕する隠れたポテンシャルを持つ【醒眼族】。
逆に魔法以外は不得手、代わりに謎法族の次点で魔法的才能が高い【知勉族】。
なるほど、飽きれるほどバランスの取れた混種族構成である。
少しは見習いたい、といいたいところだが見習うところが何もない。
「それにしても、なぜゼロは降参しないんだ?」
ルークエルリダスさんの心配しているところは、別にあったようだ。
確かに、遠目からみても分かるほどゼロ=オールの身体は火花を散らせて半身以上が故障しているだろう。
魔導機械部分がほとんどな彼は、少しくらいなら平気なもののそれ以上は本当に危険なはず。
「ちょっと、止めてきます」
俺はガタガタと、自分の身を案じるのではなく彼の身を案じるように震えだしたルークエルリダスさんをあとに、窓から飛び出した。