188 飛翔
「シルバ・エクアトゥール、初めまして」
次の日、取りあえずチェックアウトを済ませた俺たちの前に現れたのは、レイカー家の護衛の一人だった。
確か、名前はゼロ=オール。
械刃族の男で、体を鎧姿から順に変形させつつこちらに向かってくる姿は、特撮映画を思わせる圧巻振りであった。
「初めまして、ではないかな。この前顔だけ合わせた気がするが」
「そうだな」
彼と握手を交わして、取りあえず今の状況確認に入る。
ランがいなくなったのは昨日の事で、どうもカレル・アテラット先生が同伴しているらしい。
「さて、ここからどうやって行くかだが……龍は乗りこなせるか?」
「は?」
いきなり、とんでもない言葉を聞いて俺は思考を停止させた。
エスペランサはあわあわしているあたり、結構有名なことなのか。
しかし、俺が反応する前に相手は「わかっている」と首を振った。
「それなら、馬はどうかな?」
「それなら大丈夫だ」
馬なら、前世の時に何回か乗ったことがある。
ここのと仕様が同じならば、問題ないだろう。
ただ、問題なのは龍眼族が馬に触れて恐れないかどうかだ。
「心配事は問題ない、乗ってもらうのは【機械馬】だ」
そもそも、その名前を初めて聞くんだがいったいなんだろう。
と、考えたときに彼が乗っているそれに気が付いた。
……なるほどね。
「でも、それは械刃族にしか乗りこなせないはずです」
エスペランサの反論に、ふっと笑ったのはゼロ=オールだった。
「乗れないとは言わせない。……乗れなかったら、どうするつもりだ?」
「【龍化】して飛んでいく。そっちのほうが早い」
ということで、俺は自分の身体をゆっくりと変化させた。
ゆっくりといってもたった数分での出来事であり、周りにいた部外者はぎょっとした顔をして俺から離れたが。
俺は、どうも成長しているようだ。
前回にはなかった翼も2対は生えている。
「おいで、エスペランサ」
「はい」
彼女をお姫様だっこする要領で抱き上げて、俺はゼロ=オールに方向を聞く。
「じゃ、一足早く行ってくる」
「……さすがだな」
城でまた会う約束をして、俺は一気に飛翔する。
綺麗な魔導都市だったが、残念ながらここにいれなかったか。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「あ?」
彼に呼び止められて、ちょっと降りたのは既に魔導都市を出てからだった。
速度も申し分ない、そんなかでも、彼の話が聞こえたのは魔法とは、何か違う力が見えた気がした。
「これを渡しておく」
「これは?」
「材料だ」
俺に渡すものといえば、恐らく魔武具創造に関連するものなのだろう。
ありがたくいただいておくとして、さぁ。
「……今から、直線で行くぞエスペランサ」
「わかりました。……体力が尽きたら、言ってくださいね」
「出来れば、体力が危なくなったときに言う」
体力が尽きたら、何も言えないんだが……なぁ。
「あれが、レイカー城」
俺の目の前には、何とも言い難い純白の城がそびえたっている。
そして、その周りを囲むような城下町。
「俺がリンセル、アンセルと結婚すればここは俺のものか」
「そういうこと、だな」
カレルがうなずき、こちらを見つめた。
その顔が、いったい何を示しているのか分からない。
だけれども、悪いことではないと信じたいのだ。
「ああ、これを渡しておこう」
「これは?」
彼から、1本の鞘付剣を渡される。
抜くと、剣は金色に輝き綺麗に瞬いた。
「魔剣【夕暮れ時の太陽】だ。……持っていけ」
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パラレルワールドでのシルバとエスペランサの短編をあげさせていただきました。
読んでいただければ幸いです。