186 高速便
「はふぅ」
一息ついて、エスペランサはこちらを向いてきた。
もう夕方だし、急ぐこともないためすでに旅館でゆったりしている。
技武具を作っていた少年、レウス・ゼグゼスとそこから数時間語り明かして、結局終わったころはほんの数分前だったというのだから、同業者同士で話をするのはかなり危険なことが分かるだろうか。
「シルバさん、お話しすぎです」
「結局、系統が違うだけで材料とかっていうのは最初な次男だなって思ったからさ」
「確かに、私の知りえないこともたくさん知りましたけど」
けど、それでもとエスペランサはなんだか腑に落ちない様子である。
どうも、彼女の呟いていることを察するに俺に渡した仮本に不備があっただとかなんだとかいろいろ後悔しているらしい。
俺としては、正直頑張ってくれただけでもすごく感謝しているんだが。
なんでそういうネガティブ的なことを考えてしまうんだろうか。
「大丈夫。今日はとりあえず休もうか」
「あした、どこに行かれるんです?」
「スズナリと一緒かな。……商事に向かってから、お土産を買いに行こう。逆でも全然いいけど」
そうですね、なら今回は逆でお願いしますとエスペランサは微笑む。
すごく、それは愛らしくて。
エスペランサは、そばにあった安楽椅子のようなものに腰掛けると、もう一度「ふぅ」とため息をついた。
よく見れば、それは安楽椅子ではなくマッサージチェアである。
魔導都市ギージックか、思った以上にハイテクだぞぉ、ここ。
「シルバさんもどうですか、とても気持ちがいいですよここ」
「……ん、俺はいいよ」
ここで一つ作る予定だったんだがなぁ。
……どんな魔剣を創るか、全くイメージが湧いてこないんだが、どうしようか。
「はふぅ」
集中しようとしているところに、そんな声が流れてきたら集中も吹き飛ぶというものだ。
……どうにか、ならないかな。
「ちょっと夜風に当たってくる」
「了解いたしました」
部屋を一回出た方がよさそうだ。
あんな無防備なエスペランサの姿を見てしまったら、なんだか最近変な本能が宿ってくるんだよな。
というわけで、いったんギージックの街並みを一人で見歩きながら夜風に当たることにした。
ここは、なんというか種族が入り乱れているせいか、俺が歩いてもあからさまに反応したりしない。
絶対数的にはすくなくても、ちらほら龍眼族をみかけるからだろうか。
それだけではなく、知勉族や異能族などといった、ここで見るのは珍しいかもしれないといった種族もみる。
種族のサラダボウルとでも称すればいいんだろうか、とにかくそんな感じになっているのだ。
何気なく空を見上げると、そこには驚くほど綺麗な夜空が広がっている。
電灯も明るく地面を照らしているというのに、それを無視しているかのごとく強く光を放っている。
紺色の夜は、光によって眩く彩られていた。
「そろそろ、戻るか」
夜空をテーマに一本作ってみよう、と思いついた俺はおおきく欠伸をしてきた道を戻ることにした。
その前に、まだ閉じていない【レウステック】に立ち寄るか。
と、ここまで考えたところで何か忘れているような気がして俺は首をかしげた。
何か、……連絡を怠っているような気がするんだが気のせいだろうか。
「……あ、アンセルに連絡するのを忘れ……た?」
同時に、俺のほうへ飛んできた便箋を見て、俺は思わずうぅとうなってしまった。
飛んできたのは魔法製の高速便だからだ。
高級品であるためめったに使われないが、それは発動とともに空を飛んで「直接」送った人へと届けられる。
勿論、さすがに人目にはついたようで、じろじろとみられた。
高級品を使ってまでということもあってか、畏れるような顔でこちらを見る人はいたし。
俺のそばにいた人は【レイカー家】の家紋が刺しゅうされているのを見て声をあげかけたのか口を押えた人も居た。
「ルークさんからか」
そんなことを考えながら、手紙を開いて中を一目見て。
俺は、そのまま直接エスペランサのところへ走り出した。
まったく、旅行中をわざと狙ったようにしか感じられないんだが!?