185 旅の途中
前半:ゼロ視点
後半:???
闇を切り裂くようにして馬をはしらせ、俺はついに機械樹の森を抜けた。
途中で魔獣が襲ってくることは多々あったし、食料も思った以上に足りなかったが俺は械刃族、四肢の動きを制限すれば問題はなかったし、特に他の問題があるわけではない。
「エグゼ、大丈夫か」
「……」
いたわるように馬に声をかけると、意思表示するように彼は体を二回、発光させる。
一回で肯定、二回で否定。
そう領主であるルークエルリダスさまがしつけてあるため、少し体力的な問題があるということだろう。
俺は馬から降りて、エグゼを見上げる。
そして残っていた食料に彼に注ぎこむと、そばにあった宿屋をみやった。
「そろそろ、俺たちの故郷だぞ」
「……!」
決して口には出さないが、もし彼が話すことを可能とするならば喜んでいるのだろう。
しかしその喜びもつかの間、後ろでかすかなうなり声がした。
エグゼはそれに反応したようだが、残念ながら戦えるだけの余力は残っていないだろう。
「エグゼ、ここで待っていろ」
「……!!」
強い発光を3回。たしか警戒の合図だったか。
今すぐにでも本能的に逃げ出したいだろう彼を待機させ、森の中を睨み付ける。
2つの巨大な眼光。どうも、機械樹の森を駆け抜けたときに森の主を怒らせてしまったらしい。
たしか、ここの森の主は……殺したらオウラン帝国では死罪か。
俺は自分の身体を変形させ、一見すると騎士の鎧のような形となる。
魔導変形部分はここ、つまり頭を含めて心臓以外すべてだ。
ここまで俺が自分を強化できたのは、領主のおかげである。
そして、俺はレイカー家に仕えたときから、すべてをあの家に捧げている。
俺の身体は、レイカー家のみんなを守る盾。
そして、レイカー家に仇なす者共に攻撃される鉾となる。
「森の主……【古然狼(エンシェント・ヴォルフ】か」
体長4メーティアはありそうだな。
……まあ、殺さない程度に調理した方がよさそうだ。
「死んでないか? 大丈夫か?」
「くるるぅ」
森の主として3千年はここにいるというのに、実際のところまだ子供らしいというのだから驚きである。
あまり傷つけたくはなかったため、取りあえず懐かせることに成功した。
彼? 彼女? の金属毛を許可をとって数本抜き取り、ポケットの中に仕舞う。
そして丸まった森の主に「戻って」と声をかけ、「くぅ」と寂しそうな声をあげながらも見えなくなったところでエグゼのところに戻った。
「とりあえず、シルバ・エクアトゥールに渡す手見上げはできたぞ」
「……」
柔らかく、1回発光。
ちょうどいいものができたという意味だろうか、簡単に抜き取ることができたが、普段はこうも行かないだろうな。
それにしても、龍眼族と謎法族のペア、か。
俺は目の前の先、地平線沿いに広がっている巨大な都市を見て、そっとつぶやく。
俺と、エグゼの故郷だ。
昔はいい思い出なんて一つもなかった。
が、ここで俺が領主様に見初められて迎えられたように。
今回は、俺が二人を迎えるのか。
「……とにかく、あと少しだ」
ゆっくりでいい、すこしずつでいいから。
魔導都市に向かって、歩みを進めよう。
「はっはっはっ」
雪の森を走りぬく。
ここを抜ければカエシウス聖王国の王都、アリアだ。
そして、もう少しすればレイカー領にたどり着く。
「もう少し……」
「そうだな、もう少しだ。……今ならシルバとエスペランサはオウラン帝国にいるし、大丈夫だろう」
カレルにそう言われ、俺は今一度気を引き締めた。 この世界が実力主義というのなら、俺はそれを実行して見せる。
レイカー家の当主になる、なんていう夢はないが。 少なくとも、二人の姉妹は頂こう。
「俺は勝てるさ」
何に、とは言わないけれども。
問題はなさそうだな、特に。