184 レウス・テック
「さて、最初にどこへ行きましょうか」
「特に決めてない」
エスペランサと、スズナリに到着したときとまったく同じ反応をしつつ町の中を歩く。
スズナリのこう、なんというかカオス具合のする場所ではなく、完全に科学的な場所である。
工業系というか、なんというか。
とにかく、ロマンをかなり詰め込んだような、町だ。
「さきほどから、シルバさんの目のきらきらが止まらないのですが」
「ほんとう、いいところだけどなぁ」
できれば、ここに拠点を構えたい。
そう直感的に思ってしまう程度には、心をくすぐられるものになっている。
「なかなか」
何よりそも、なんというか。
歯車が、本当によさげで恐れ入る。
「まずは、技武具を見に行きますか?」
「そうだな」
「ええと、【技武具】は技術のみ。それさえあれば可能性関係なく出来上がるものです」
簡単な説明を終え、エスペランサははふぅと息をつくとちょっとだけよそ見をして、指をさした。
「たとえば、あの場所とかどうでしょうか?」
指差した先には、技武具屋だろうか。
看板すら歯車で、少しずつ動いているところをみると、技術力が高いのがうかがえる。
やっぱり、実力社会なのか。とか思ったり。
そう思ってしまえば、俺はエスペランサからもらった能力で魔武具を作っているわけで。
申し訳ないな。本当に。
「失礼しますー」
カラン、と小気味のいい鈴の音。
エスペランサがドアを開けると、そんなおとともに、店内の奥から「いらっしゃいませー」と爽やかな声が聞こえた。
「いらっしゃいませ。【レウス・テック】へようこそ」
エプロンを見にまとった青年が出てきて、ニコリと笑った。
械刃族の部分は……おそらく両手だろう。
先ほどまで作業をしていたのか、変形途中でここまで来たという印象を受ける。
「……なかなか、珍しい組み合わせのお客様ですね」
それは、俺の種族である龍眼族と、謎法族であるエスペランサを見てのことだろうか。
なんというか、ラン・ロキアスといい勝負の顔だが、思った以上に悪い印象は受けない。
って考えれば、最初のほうもラン・ロキアスは好青年だったわけなのだが。
まさか、あんなことになるとは。
「ここにあるのは……」
「はい。すべて僕の作品ですよ」
ということは、簡単に察すればこの人がここの店主か。
見た目は俺と同じくらいの歳だろう。おそらく実際もそこまで変わっていないはずだ。
械刃族の精神年齢と肉体年齢の齟齬がどのくらいあるのか分からないが。
と、彼は今思い出したと声をあげ、手をポンと叩く。
「申し遅れました。……レウス・ゼグゼスです」
ほぉ。
ていうか、そもそも「レウス」の部分は名前なんだな。
苗字かと思っていたんだが。
「この店に、お客さんがいらっしゃるなんてそもそも珍しいことですからね」
「そうなのか」
「こんな若造の作った作品なんて、買う人はいないでしょう?」
と、ここで初めて俺は彼の作った技武具を見た。
……ちょっと圧倒された。
いったいどんな仕組みになっているのかは分からないし、俺には現時点では知る由もないのだが。
「凄いオーラを放ってるんだな。……店主の作品って」
俺が呟くと、彼は一気に神妙な顔をして悟ったようにこちらを見た。
「特別な、眼を持ってらっしゃるんですね」
「龍眼族だから、な」
答えると、彼はもう一度悟ったようにこちらを向くと、そういえばと話を続ける。
「貴方のほうからも、オーラを感じますが? 特に、同業者の匂いが」
……わかってる、っていうことか。
俺は観念したように首を振って、取りあえず何を彼に見せようかと思って……。
考えるのをやめた。
「これが一番の新作だね」