182 デルエクス
オウラン帝国、王都からとりあえず出ることにした。
お土産は買うだけ買ったし、あまり深く考えないでチェックアウトも済ませる。
「ここから、北上します」
「うむ」
エスペランサに案内されて、俺たちが向かったのはオムニ停ではなくレンタル屋だった。
「いや、これならこっちでなく、普通に中古でもいいから買おう」
「そうですか? まあ、シルバさんが言うのなら私は構わないですけど」
と、次は中古ショップへ。
武器に中古という概念はないのか。
「こんな感じでいいです?」
「乗る感覚は?」
「ゲームで」
「ゲームか」
貴方の世界でいうのなら、という話ですよとエスペランサ。
そういう関係の事は、よくわからないため肩をすくめて機体を見やる。
近未来感を漂わせているものであることはよくわかった。
フォルムは角ばった流線形と称すればいいだろうか、想像するなら電脳世界に迷い込んだような雰囲気すら匂わせている。
「デザインも、いろいろあるんだな」
「シルバさんのお好みで決めてくださいな」
普通に考えたら、ブランドというか。
メーカーもいくつかあるのだが、いかんせんよくわからない。
「まあ、結局下の部分ですね。……この部分があるものは総称して【デルエクス】と呼ばれるので」
エスペランサが指差したのはエンジンを込めたユニットの部分だろうか。
機械関係の事は分からないが、エンジンと魔力風の放出口? の二つがあれば【デルエクス】として認められるということだろうか。
少々わかりにくいかも。
「何か性能差とかは?」
「最初は、何も考えないで好みでいかがでしょうか?」
それなら、そんなに考えなくてもいいか。
「そうそう、この世界でっていうか。この国でタブーとされている色とかはあるのか?」
「いえ、特に数日国はありません。でも色は、属性の色でもあるので結構な頻度で好まれます」
ほぅ。特に問題はないということで。
純粋に、好みである黒に赤のラインがはいったものを頼んだ。
「なんていうか、買うと気持ちがいいな」
「そうですね。シルバさんの【デルエクス】初購入ですね」
中古だからか、簡単な手続きも終了し。
予備の燃料というか、人工魔力も購入したところでエスペランサと店を出る。
「乗ってみますか」
「免許は?」
「……そうですねぇ、こうしましょう」
神というのはいろいろと便利なものだ。
だが、証明書をそのまま書き換えるのはやめていただいた方がいいかもしれない。
さすがに、やりすぎ。
「ん?」
「……どうしました?」
と、ここで虫の知らせといえばいいのだろうか。
何かの感覚が、俺の背中から尻にかけて流れていった。
俺を不思議がるように見つめるエスペランサ。
その「何か」には気づかなかったようで、しかし。
それを、俺が感じ取ったのはわかったらしい。
「いや、変な予感が、な」
「……未来予知、ですか?」
「分からないな。あくまでも第六感的なものだろうし」
「……あー」
と、ここで何か考え始めたエスペランサ。
そして「あとでお話が」というと、【デルエクス】の後部座席に座り込んだ。
「はやく、出発しないんですか?」
「でも、乗り方が分からないんだよなぁ」
「バイクと一緒です。ゲーム感覚で」
……本物の乗り物に、それはいかがなものかと思ったのだが。
やってみたら、意外とうまくいった。
目標が移動を始めたという連絡が入った。
ルークエルリダス様からだ、俺はそれを確認して馬を見下ろす。
「北か。大丈夫か?」
こく、と頷かれ前を向く。
機械樹。マドウマシンで構成された、永遠に増殖し続ける巨大な森林。
この中を、一気に駆け抜けるのが早いだろう。
「よし、いこう」
それにしてもラン・ロキアスとシルバ・エクアトゥールか。
後者は一瞬だけ見たことがあるが、中々気の強そうな男だったな。