180 スズシロ商事
「なあ、エスペランサ」
「はい、何でしょうか」
恐らく業務用にあるのだろう、 様々な材料が売ってある「スズシロ商事」の一角に、俺とエスペランサはいた。
「ホウオウの羽根と、不死鳥の羽根ってどう違うんだ?」
「ええと? なんですかー?」
とてとて、とこちらのほうにやってくるエスペランサ。
隣に並んだところで、俺はショーケースに展示されていた二つの羽根を指差した。
どちらも値段は、羽根1本につき7ケタ行くというとても高価なものではあったのだが。
「ええと、ホウオウの羽根は純粋な最上位の【火】属性としての役割でしょうか。不死鳥は、属性としての役割こそホウオウに劣りますが、【火】【光】の二つを属性として持っていますし、さらに使用者への回復効果もあるそうです」
つまり、純粋に魔法の属性だけを重視するなら【ホウオウ】。
副作用なども考慮に入れるのであれば、【不死鳥】というわけか。
「両方買って、一つにしたらどうなるんだ?」
「それは、シルバさんの運次第ですよ」
材料は魔武具になりませんから、とエスペランサは首を振ってその結果がどうなるかわからないと俺に言った。
まあ、両方買うわけだが。
「こっちは?」
「ゲンブ岩……は、化石ですよ」
化石の一部なんだとか。
ちなみに効用は、【地】属性に準ずるらしい。
「オウラン帝国は、元々生物の種類が多い場所ですから」
「そうなのかー」
そんなことを知らなくても、ショーケースに入っている高級そうなものを眺めるだけでも楽しい。
しかし、学園を卒業後どうしようか、決めなければならないのも一つ。
放 浪というか、旅をつづけながら所々で鍛冶屋をやるというのなら、そういう知識も必要なのだろう。
「ところで、エスペランサの手の中にあるのは?」
「【生命草】という、回復薬の原料ですよ。シルバさんに影響されて、私も何か作りたくなっちゃいました」
そんなことを言ってのけ、同時に柔らかく微笑んで見せるエスペランサ。
さすがである。なんというか、ごくごく自然な動きに圧倒されてしまう俺だった。
「全部俺が金を払うから、他にも何かほしいものがあったらとっておいで」
「はい、そうします」
そしてそばを通りがかった店員に声をかけ、商品を注文するエスペランサ。
どうみてもショーケースの中ってことは高価なのだが、俺の財布の中は大丈夫なのだろうか。
一応、身分証明書はキャッシュカードにもなっているのだから問題はないんだけれども。
魔 剣を一本売るだけで億は行く。でも、それを創るためにはいくら俺が成功率100%だとしても、数百万は材料費としてなくなる。
普通に生活する分には、その差分で充分なんだろうけれども。
「ええと、……私も作ったものは売った方がいいですか?」
「自分で使う分はちゃんと持っておくこと。他は制限しない」
それはエスペランサが決めることだろう。
神とはいえ、彼女も女の人なんだから買いたいものとかあるんだろうな。
「そういえば、シルバさんってこの世界での誕生日がありませんでしたね」
「この世界にも、誕生日なんていうのがあるんだ」
「ありますけれども、どうします?」
会計が終わり、そろそろスズシロ商事をでようかというところで、エスペランサは唐突に話しかけてきた。
誕生日か。……前世では結構祝ってもらったりしたけれど、この世界にもそんな記念日が存在するんだな。
「そんなこといったら、エスペランサもないじゃないか」
「私は、【神々の生誕祭】の前日ということにしているのですよ」
「なにそれ」
シルバさんのいた世界でいえば、「クリスマス」ですっ。とエスペランサ。
確かに、ねぇ。
「俺がこの世界に来た日を覚えているか?」
「はい。大丈夫ですよ」
じゃあ、その日でいいか。
取りあえず決めていた方が、いいかもしれないしな。
「ちなみに、アンセルさんとリンセルさんは、【神々の生誕祭】が誕生日なんですって」
「ほー」
豆知識も終わったところで、ちょうどスズシロ商事から出れた。
とりあえず買ったたくさんのものを、【次元袋】と名付けた重さ無視の袋の中に入れる。
「さて、次はどこに行きたい?」
「とりあえず、魔武具のお店に行って魔剣の相場を見てみましょう」
王都なら、さすがに魔剣の一本や二本くらいはあるだろう。
……鍛冶屋が、十数件立ち並んでいる通りがあるようだし。