179 スズナリでの朝
目を開けると、そこに広がるのは白い美少女だった。
広がる、という表現は少しおかしいのかもしれないけれども。
「エスペランサ、おはよう」
彼女に声をかけると、少女はうっすらと目を開き、こちらを見つめる。
そして、柔らかく微笑むとそのまま再度倒れこんだ。
すぅすぅ、と息の声が聞こえる。
取りあえず頭をあげて、窓の外をのぞくとそこにはスズナリの朝が風景としてあった。
「エスペランサ?」
「……はい。失礼しました」
と、むくっと起き上がるエスペランサの動きといえば、それはそれで人工物を感じさせるものがある。
ロボットみたいな動きかただった、が。
とりあえず、突っ込むのはやめた。
「早速着替えていきましょう」
エスペランサに部屋から一時的に追い出されて、同時に俺の分の着替えも投げてよこされて。
ちょっと布擦れの音も聞こえてくるが、気にしないようにして俺も着替えをする。
といっても、いつも通りの服装なわけなんだが。
この世界が前世と同じように発展してくれていて助かる、本当に。
「今日はどこに行かれるのです?」
とりあえず準備が完了して、部屋に鍵をかけて外に出る。
不器用な神様が不器用にコピーして混ぜて作ったようなスズナリの町で、取りあえず俺はあたりを見回した。
「とりあえず魔剣っていうか、魔武具の材料をなんとかしようかなって」
「ここでも一つ作るのです?」
創るかどうかは決めていないけれども。でも作りたいなぁ。
材料はおそらくあるだろうし。
「最初にそっちに行ってもいいのか?」
「私は構いませんよ。今日はまだまだ時間がありますしね」
まだ、正午にもなっていないし、ということか。
確かに、まだ店が開き始めているところだ。
「行くお店は決まっているのです?」
「まったく。とりあえずそこらへんをぶらぶらと歩く予定だから」
ガイドマップもあったし、別にそれに沿っていてもよかったのだが。
地図を見るよりは、自分たちでうろちょろしたほうがいいと思ったので。
「エスペランサは、どこかいきたいところないか?」
「私は、あとでも構いません」
そう言ってはいるが、その目はキラキラと輝いているし、そもそも首をせわしなく回しているせいか、目移りしすぎである。
それを指摘すれば、彼女は「今のうちに行きたい店を決めておくのです」と返答。
つまりはそういうことである。
エスペランサって、そういうのには興味がないと思ってたんだがな。
ほら、仮にも彼女は神様だから。
「私は全知でも全能でもありませんので、ていうか。年頃の女の子はこういうのに興味があるのでは?」
エスペランサが指差したのはアクセサリーショップである。
髪飾りとか、確かに興味をひかれそうなものはたくさんあるけれども。
「としごろ?」
「そうですよぅ」
まあ、いいか。
彼女がそう言うのなら、彼女に合わせよう。
俺は神のことなんて全く分からないけれどもね。
「先にそっちみる?」
「いえ。お先にシルバさんのほうをどうぞ?」
それなら、早く俺のほうを終わらせよう。
鍛冶屋とかはよく見かけるんだが、肝心の材料はどこにあるんだろうか。
「やっぱり、ガイドマップが必要だな」
「そういう感じのものは、やっぱり町の中心ではなく少し外れたところにあると思うのです」
うん、それはそうだと思う。
「フェニックスの羽根とか見つかればいいですね」
「そんなものがあるのか?」
「はい」
でも、俺の想像するフェニックスと、この世界にフェニックスって、絶対違うと思うんだよな。
ペットショップとかに売ってたりするんだろうか、今まで興味なかったけど。
「もちろん、売買には証明書が必要でしょうけれどもね」
では、早速探してみましょうと彼女が指差した先には、「スズシロ商事」と書かれた看板だった。