178 キス
目の前に、手の届く距離に彼女がいる。
手の届くどころの話ではなく、実際に考えれば……ちょっと耳を澄ませるだけでも彼女の息が聞こえてきそうな、そんな距離に俺たちはいた。
「……なんだか、こうやって改まると恥ずかしいですね」
彼女はそう呟くと、しかし右手を伸ばして俺の頬をそっとなでる。
もっとも、それはなでるというよりは当てるだけのようにも感じられたが。
「これ。いいかんじですね」
「どういういみ?」
「……こうやって、私はシルバさんの体温を感じていられる。……シルバさんは……」
「俺は、エスペランサの息を感じていられるってか?」
こくん、と頷いた少女に俺は微笑みかけると、また少女も微笑む。
それが、また一つ彼女の魅力を感じさせる大きな要因となった。
「ねえ、シルバさん」
「ん?」
その声は、耳に確実にはって侵入してくるような感じがする。
猫なで声、とはいかないがていうか。
おそらく精一杯色っぽい声を出そうとしたのだろう。
ぞくっとした。悪い意味で。
「あぅ、大丈夫です?」
「すごい声だな、それ」
俺の身体が震えたのが気になったのか、少ししょんぼりとした顔をするエスペランサ。
そんな彼女を見つめながら、右手を動かして彼女の頭を抱き込む。
「……無理しなくていいから、自然体でいなよ」
「はい」
しかし、彼女は俺の声ではなく、他の何かに反応したらしい。
「……交わりたいですか?」
「ん?」
爆弾発言を、してくるではないか。
交わりたいって。そういう意味だと思うんだが。
エスペランサは、俺の手を握って頬を摺り寄せるようにする。
「私と、交わりたいですか?」
「……聞いてくるのか?」
別に俺は肉欲にあふれているわけでも何でもないんだがなぁ。
しかし、それでもちょっと待て。
……エスペランサが、体変えやがった。
「だって、私は人間態とはいえ神ですよ?」
「……それもそうだな」
その前に、なぜ徐々に体が大人びていっているかの説明をしてほしいなぁ。
しかし残念ながらその説明はなく、俺がちょうど希望神ホープとして彼女を見ていた、あの神殿の時のような容姿になる。
「だから、いいんですか? 人間が耐えられるとは思えません」
「俺は転生者だからな」
転生者だし、神に力もらっているから大丈夫だろうという安易な考えだが。
まあ、間違って位はいないようだし大丈夫だろう。
彼女の唇に唇を重ね、すぐにはなす。
「んっ……」
「今日はこれだけでも」
いい香りがする。
どうも、エスペランサは俺の身体に異常がないか親愛なようで。
だからこそ、ここまでしかできなかった。
特に問題はないと思うんだけれどもね。
「大丈夫なんです?」
「何が?」
「……私との体液を交換したってことは、僅かながら神に近づいたってことなんですよ」
神に近づく、か。
そんなことも、まあ後々は考えていくべきことなのかもしれないけれども。
俺がこの世界での人生の満喫後は、ヘーハイスの部下になることなんだからな。
「……特にないから、大丈夫だろ」
今のところ、問題は何もない。
だからこそ、こうやって調子づいていられる。
「何かありましたら報告してください」
「大丈夫だって」
「そういってられないかもしれないんです!」
本気で心配してくれているようだが、まあ大丈夫だろう。
涙目になってうるんでいる彼女をみながら、しかし我慢できなくなってもう一度唇を合わせる。
「決めたことは、なんでもやるさぁ」