168 添い寝
「きょう、一緒に寝ないか?」
夜の飯も終わり、俺はそうエスペランサに告げると彼女は顔を赤らめることなく首を傾げる。
「それは、添い寝という意味でよろしいのです?」
ああ、これは理解していない顔だ。
でも、添い寝でも全然構わないため俺はうなずく。
「ここで添い寝するよりも、二人で旅行するときにした方がいいのではないのです?」
「いやだって?」
「いえいえ。気まずくならないと言うのなら、私は構いませんけれど?」
そんな話を経て、夜になると、本当にエスペランサはこちらの布団に進入してきたではないか。
上目遣いの使い方は心得ているらしく、ていうか完全に俺は彼女の虜になっていた。
ここはみんなとは違う部屋を取って、気まずいことなんて何一つないのだが……。
でも、結局はこうなるんだろうなと言うことを身をもって知らしめてくれた。
「どうですか、寝心地は」
彼女の声が、俺の鼓膜をなでるようにしてくすぐったい。
エスペランサの方をむくと、彼女はなんだか照れくさそうに顔を赤らめていた。
それは、完全に人工的な明かりをけして、月明かりのわずかなそれでも彼女の顔色が分かる。
ただ、その姿を見ていとおしく感じてしまうのは、俺だけではないはずだ。
同じ状況にたたされると、どうしても今まで意識していなかったのにこうなってしまう。
理性を保ち続けるのが困難になってしまうのだ。
「俺……」
「まあまあ、さすがに壁一つでは聞こえてしまうので、今はこれで我慢していただけます?」
と、エスペランサは恋人と手をつなぐように俺の手を握った。
ちょっとだけひんやりしていて、もうちょっとだけ心の中が暖かくなる。
そんな、小さな手。
「私はいつでも、覚悟済みですから」
そう言った彼女の口調というのは、それでも幾分か不安を抱えているように見える。
何を覚悟しているのか、これは二つの意味があるのではないかと俺は考えてしまうのだ。
「不安?」
「不安はありますが、シルバさんならと」
一つの意味は、この状況で次に起こり得ることについてのことだろう。
もう一つは、試練の旅で彼女が言っていたことだろうか。
転生者に毎度恋をする希望神ホープの、それがかなうことは今までに一度もない。
だから、彼女は俺に恋をしていたとしても、その思考は複雑なのだろう。
「安心して」
「……はい」
俺のいいたいことは、彼女に伝わっただろうか。
少しの不安は俺にも芽生えたが、大丈夫。
俺は、エスペランサのことが好きだ。
それを確認して彼女の手をいっそう強く握ると。
彼女は、俺の耳に息を吹きかけると俺が反応したのを目で見て笑った。
「やっぱり、耳が弱いんですね」
「五感が強化されてるからかな」
前から弱かったか。いや、耳が強い人なんて居るのか?
そもそも、吹きかけているということよりも、俺の耳に彼女の唇がぴとっとくっついたことに俺は動揺したんだが。
……エスペランサって、こんな女の子だっけ?
いつもよりもまして色っぽい気がする。
「……旅の予定は……」
「明後日、すぐにいくよ?」
唐突に聞かれたが、どこに行くかは決まっていない。
むしろ、宛のない旅の方がいい。
まだ学生だが、世界を回るまで時間はあるのだから。
エスペランサは、その言葉を聞いて俺の顔をまさぐる。
「はい」
そして、俺の唇を見つけると、そこにそっとキスをした。
ことりが餌をつつくような、一瞬だけだったが。
それが、刹那を感じさせてこれまたいい。
「……いつまでも、優しいシルバさんでいてくださいね」
「おうよ」




