166 能力
「何やら、レオと仲良く話をしていたみたいだが、何を話していたんだ?」
遊園地を後にして、そうクインに訊かれた。
俺は遊園地になんの面白みも感じられなくてほとんど乗らなかったし、レオは護衛で仕事中ということもあって他に話す人もおらず、そのあとも前の世界についてとか色々と話し込んだ。
そんなことをしながらも、レオは周りに気を張り巡らせていたらしい。
完全な感知能力とか、持っていてもおかしくないはずなんだが。
「もしかして。妬いてる?」
「嫉妬しているといったら? その分相手をしてくれるのか?」
既成事実を作っても構わんのだぞと、クインは脅しているのか脅していないのか微妙な言い方をした。
既成事実ということは、……ああ、夜の相手っていう意味か。
純粋なのに、そういう言葉はちゃんと知っている。
つまり、偽装しているのかよくわからない。
「クイン、レオを引き抜くっていったらどうする?」
「そうだな。……魔剣15本」
「おう……」
最低価格15億。そう言いたいのだろう。
まだ、聖国王とはいえレオはやとわれの身だから、ということだろうか。
思わぬ商談を持ちかけられて、一瞬面喰う俺。
その状態を、怪訝な顔で見つめるエスペランサとアンセル。
いや、そういう意味じゃないから。
「ほら、シルバの彼女たちもご執心のようだぞ」
「いや、そういう意味じゃないから安心してくれ」
今のところは、そういう意味じゃない。
ラン・ロキアスは気に食わないが、レオのほうは相性がよさそうな気がしただけなのだ。
ていうか、どうも話を聞いている限り俺の世界と同じところから転生してきたらしい。
【属性能力】という、この世界でいう魔法のようなものも知っていたし、正直俺よりも詳しかった。
「レオはどうだ。シルバに口説かれたのか?」
「口説かれてないといえば、嘘になります」
ぺろっと、唇を俺だけに見えるように出してそう答えるレオ。
誤解されるかもしれないが、しかし確かにそういう意味でもあるのだから困りものである。
ちなみに、レオには俺の前の名前を教えていない。
もし知人だったとき、恐らく俺はショックを受けるだろうし相手もショックを受けるかもしれない。
そういう事も考えた上での、ものだった。
「シルバさん、手が早いです」
「違うって」
違うって言ってるのに、なんでこうなってるんだろう?
冗談ですよとエスペランサは笑っていたが、アンセルは本気でそうとらえてしまった感じはありそうだ。
本当に、そんなことはないのにな。
「まあ、いつ何が起こるかはわからないからな。その時は代わりの護衛を紹介してくれても構わない」
「さすがに、この世界に来て年月がかかっているわけでもないから人脈なんて限られてるけどな」
「人脈が限られているのに、カエシウスの王族とつながってるとか異例中の異例だぞ」
そうクインはいい、笑うと世界樹を見上げる。
「シルバも、数年したら世界樹のようになっていくんだろうか」
「どういうことだ?」
「いや、何でもない」
ちょっと、寂しく思えてしまっただけだと。
クインは俺には理解できない言葉を残すと、そのまま何も言わなくなる。
衝動的に何かの感情が噴き出しそうになったんだろうか。
よくある話だから、何も言えないけれども。
「恋って、難しいな」
「……クインが恋をしてるのか?」
「鈍感」
……いや、この言葉で察したけれども。
俺にその矛先が向かっているとか、普通の人は思わないものなんだぞ。
「鈍感って」
「いいんだ。……私の恋は、たいていかなわないものだと思っているから」
身分が身分だしな、とクインは悲しそうに笑う。
が、しかし彼女にそこは譲れないため俺は首を振るだけにとどめておいた。
「いろいろと、難しいものなんだな」
「そうだろうなぁ。……俺は、よくわからないけれども」
いや、よく知っている。
知っているけれども、前世での俺の周りの王族が特別すぎたのだ。
自由奔放だったから。俺も彼に少しは影響された節があるけれども。
あの人、結局どうなったんだろう? 俺が最後に彼の身体を見たとき、体の数か所がすでに神格化されていた気がする。
能力の使い過ぎによって、逆流し身体が侵されていたのだ。
結構珍しいことらしいけど、それもあの人らしい。
「ん、シルバ何を考えている」
「いや、なんでも」
「嘘だ」
うーん。
やっぱり、そういうことは簡単に見破られるか。
困ったな。