153 移動
海に来たから、とりあえずは何か食べようということになった昼ごろ。
海の隅にあった海の家みたいな、小さな小屋にてリンナアイデルさんはいろいろな料理を展開していた。
「美味しそうだな」
「シルバさんは、この辺の料理初めてなんですか?」
「うん」
初めて、とはいってもここの世界。
いろいろな場所が、【地球】と違うようで似ている。
だからこそか、少々驚きも……。
魔剣鍛冶がここまで難しいらしいことには驚いたが。
前の世界は、似たようなものを作るのは確率的にはもっと簡単だったのに。
まあ、俺は確率無視で材料さえあれば【魔武具】は作成できるから、そこは気にしなくてもいいんだけれどもな。
「はい、シルバさん」
みんなが思い思いの料理を食べているなか、ジュースを三つトレーに入れてきたのはアンセルだった。
一つを俺に、一つをエスペランサに渡してニコリと微笑む。
「美味しいですか?」
「うん」
味も呑んだ感触も、普通の炭酸飲料だが。
食べたこともないような、甘い味がした。
何かのフルーツだろうか。
アンセルに訊いてみると、彼女は「結構ありきたりな果物ですけど、シルバさん食べてないのですね」と笑う。
「シルバさんの元板世界だと、柑橘系のミックスみたいな感じでしょうか」
分かりやすく。解説を入れてくれるのはエスペランサである。
どうも、彼女の説明によるとオレンジのような形をした赤い果物ということだ。
真っ赤かぁ。少しリンゴのような色を想像して、おいしそうと思ってしまった。
実際美味しいんだろうけれども。
今度、ゆっくりと市場とか行くべきなんだろうか。
「アンセル、この後どうするんだ?」
「海に入りたい方は続行で、宿に先いく人は宿へ。二手に分かれようってことになっていますけれど、シルバさんはどうなさいます?」
もう、海はいいかな……。
宿、というかおそらくホテルだろう。
普通に散歩してみるのもいいかもしれないな。
「俺は観光で」
「はい、ではシルバ君は宿・観光ですね」
ちなみに、【オウラン帝国】【セリシト魔法王国】【カエシウス聖王国】の三つと、【都市国家ポラリス】の合わせて4国は同じ言語を使っているので、心配はいりませんよ、ということらしい。
もう、一つの国でいいんじゃないのか。そう思ってしまったがいろいろと込み合ったことがあるらしい。
アンセルは詳しく言ってくれなかったけれど、こんど歴史書を読んでみるか。
「そうですね。……カエシウス聖王国にこれからも絡むのであれば、必要かもしれませんね」
「知識が?」
「はい」
シルバさんの人生は自分で決めるものですが、私を妻にしてくれるというのなら、私は構いませんよとまたもや真顔で俺が思わず飛び退ってしまいそうなことをいうアンセル。
「うん、それは年末に決まるものだよ」
「んぅ? たしか年末って、アレですよね」
「おう」
アンセルにはすべてを教えておいたからな。
いいのいいの。俺が勝てればいいんだよ。
「観光、俺とリンセルだけか」
「……そうだね」
ほかのみんなは、まだ遊び足りないらしく。
俺とリンセルで、車に荷物を積み込むことになった。
まあ。俺が全部やったんだが。
さすがに女子に力仕事をさせるわけにはいかない。
「お疲れ様、ありがとね」
「何が?」
「……負担と思ってないあたりが凄いね」
まあ、元々力はあったほうだし。
……龍眼族の膂力補正も相まって、力仕事を力仕事と思わなくなっていた。
「なぁリンセル」
「ん?」
「一緒に観光しないか? 俺なら、護衛代わりにもなると思うし」
護衛っていうか。
こんな可愛い少女が一人で歩いていたら、手を出されるかもしれない。
うん。俺の判断は間違っていないはずだ。
「うん……お願い。一緒にいこっ」
……しかし、こうやって快諾されることも予想はしていない。
俺をただの男友達と思ってくれているのなら、それでいいけれども。
「……ロキアスの件は大丈夫なのか?」
「大丈夫、だとおもう。……クリーゼちゃんが言いつけない限りは」
……それ、一番危なくないか?
もう一回更新するかも、です