146 暖かな朝
アンセル視点。
朝起きると、私はシルバさんの部屋にいた。
昨日、眠くてそのまま……見たいです。
「う……」
結局、私はシルバさんになんて言ったんでしょう。
シルバさんは、私の事を逆に考えてちゃんと考えてくれるのでしょうか。
「あ、起きたか」
目を横に向けると、そこには椅子を回してこちらを向いたシルバさんの姿がありました。
正直、シルバさんのサバサバした雰囲気に、龍眼族の鋭いフォルムはとても似合いますし、恰好がついています。
私はシルバ君自身が魔剣を振って戦うところを今まで見たことがないのですが、きっと輝かしいほど似合っているのでしょう。
「今何時ですか?」
「んー特に気にしなくていいんじゃないか? 夏休みだし」
そういいながらも、シルバ君は腕時計をこちらに見せてくれます。
部屋には時計がないようですね、それにしても簡素な……。
「今日は何か予定が?」
「ちょっとお昼にエスペランサと学園に行って。……それくらいかな」
「私も、ついていっていいでしょうか」
私の申し出にたいして、シルバさんは数秒考えてすぐに頷いた。
こちらのほうに身体を移動させると、私の頭に大きな手を乗せて微笑むと、シルバさんは「朝食残ってるか訊いてくる」と部屋から出ていきます。
……なんだか、子ども扱いされているような気がしますが、私の気のせいでしょうか。
部屋を見回して、机の上に小さな本を二つ見つけました。
……シルバさんの研究成果でしょうか、少々興味はありますが、見せてくれるときは見せてくれると思いますのでここは見ないでおきましょう。
「朝食、一応持ってきた」
ほどなく、シルバさんは戻ってきました。
持ってきたのはベーコンと目玉焼きでしょうか。使っているのはポラリス豚のようです。
ここ、都市国家ポラリスのオウラン帝国側で牧畜されている一般的な豚肉ですね。
質が良く、それに数も多いので比較的安値で手に入ります。
卵は……普通の鶏のようです。おそらく個体名はあるのでしょうけれど、卵だけでは私に判別はつきません。
ポラリス豚のほうは、少々肉に脂が少ないので見分けがつきました。
「あの、思ったのですが」
「ん?」
私がシルバ君を見つめると、シルバ君はいやな顔一つせずに私のほうを向きます。
たびたび研究の邪魔をしているようで非常に申し訳ないのですが、それでもやっぱり聞きたいことはたくさんあります。
「シルバさんって、この世界の住民ではないのですよね?」
「うん、そうだよ」
「えっ」
素朴な、ちょっとした疑問だったのですが、シルバ君はさらっと教えてくれました。
「知らなかったのか?」
「今さっき、思いつきで……」
「ルークエルリダスさんが一発で当てたから、もう知られているのかと思ってた」
お父様の洞察力は私の眼から見ても異常です。
「アンセルだからいいか。取り合えず俺は【チキュー】っていう世界から転生してきた」
「ということは、一度なくなられているのですか?」
「ん、そうだよ」
戦いに負けてね、戦死した。とシルバさんは顔色一つ変えずに淡々と教えてくれる。
……心なしか、シルバさんの眼は悲しそうでした。
いつもはあまりそういう目をしたことを見ることはなかったのですが、どうなのでしょうか。
私の知らないシルバさんも、かなり多いのでしょう。
特に、私は数か月間眠りについてくれていましたし。
「……なんだか、ごめんなさい」
「ん? 気にすることはないし、この世界に来てアンセルやエスペランサに出会えたから」
この時に、最初に私の名前を出すとは、やっぱりわかっているのですね、シルバさん。