130 聖魔武具
今日も夜にもう一度更新しますー
いつも通りだが、魔剣鍛冶区画には人が一人ともいなかった。
普通の鍛冶実習室には、生徒が3人。
黙々とやっているところ申し訳ないが、エスペランサの結界により「自然と鍛冶区域から離れたくなる」効果を持って退場していただいた。
まあ、別校舎からは窓を通せばここは確認できるのだが。
だからこそ、休日を選んだといってもいいだろう。
もし今日が普通に授業なら、俺は日をずらすか放課後にするけれど。
「ここにある作業台は7個か」
「そうですね」
「真ん中にこれを置こう」
作業台は、一つの作業台をほかの6つが囲むような形状になっている。
そして、この7つを【聖魔作業台】というらしい。
おそらく、学園は意図してこの配置にしたのだろうが、学園の中に何人、そもそもの魔武具を作ることができる人が存在するのか。
そもそも教科書には魔剣の事は普通書いていないし、魔剣鍛冶は鍛冶とは違う授業。
受講者は多いらしいが……。ロマン授業だよな、まったく。
「さて」
俺は、自分のバッグから【氷結合金】を真ん中の作業台にセットする。
もちろん、魔力は流していないため鍛冶は始まらないが、その金属からは常にドライアイスのような白い空気が立っていた。
「エスペランサ、2セットずつ均等に流し込んでくれないか」
「はい」
てくてくと棚のほうに向かうエスペランサ。
すぐに俺も後をついていき、材料として使う金属を考えた。
リンセルは【火】属性の使い手だったか。なら属性のバランスも考えて全属性のものを使うことにしよう。
簡単に言えば、【氷結合金】を媒体にして、他の金属を触媒とする。
触媒とするものは金属でなくてもいい。非金属の触媒として一番有名なのは、魔石だろうか。
「うーん」
「どうしたんですかシルバさん」
「【火】属性の触媒は何にしよう」
こういうとき、優柔不断になるのはいただけない。
と、そばにあった赤い石に手を伸ばす。
「……赤石?」
「ええと、それは低ランクの魔武具に使うものですね。……ほら、これです」
エスペランサは、俺の持っていた魔法バッグの紐にあったアクセサリーを指差した。
これ、もしかしてアクセサリーのほうが本体なのか。
「それなら、こっちのほうがいいですよ」
「火廣金か。じゃあこれにしよう」
稀少金属らしく、会ったのは指先と同じくらいの小さなものだが、エスペランサによるとこれで充分らしい。
とりあえず、これ。
「【氷】属性はいいか」
「ですね」
【氷】属性の触媒は、媒体と同じものを削り出して使おう。
こうして、6つの触媒をじっくりと時間をかけて選び、それぞれを外枠の作業台に乗せる。
【火】属性は【ヒヒイロノカネ】、【氷】属性は【氷結合金】。
その他4つは、どれも希少材料。
というか、稀少なものはもちろん反比例して魔力を多く放出する。
あとで魔力が足りなくなったとき、俺から使う魔力をできるだけ少なくしようというわけだ。
「【虚無鉱】に【ミスリル】、【濃縮稲妻粉】」
聞いたことのない、というかいかにもファンタジーな金属だらけでなんのこっちゃよくわからない。
ほとんどエスペランサは辞書化していたし、少しひどいことをしてしまった気がする。
「一つの魔武具に、魔力7倍以上を注ぎ込むのか」
「そうですね」
これだけ見れば、どうみても訳の分からないものができてしまいそうだが。
これは、人を救うための楽器を作る作業である。
作るのは水瓶型の小さなハープ。
絵画では天使や女神が奏でているアレだ。
「さてさて。……作るとするか」
ほかの6つすべての作業台の起動を確認して、俺は写本を例にしながら真ん中の作業台を起動。
ただ上に漂っていた靄のような魔力は、それと同時に真ん中のへと、渦を巻きながら集合したのだった。
「さてさて。まってろよ」
アンセルさん。