013 進入
「エペ! どこに行ってたんだ!?」
エスペランサが、村の家のうち特に大きな、赤煉瓦の前に迫るとそこから中年の男が出てきた。
どうやら、その風貌から察するに彼女の父親らしい。
エペ父は俺のことに気づき、訝しげな顔を見せたが即座にエスペランサが説明をしてくれた。
「このお兄ちゃんが、私を守ってくれたんです!」
「そうなのか? ……れ、龍眼族だと!?」
この人にも驚かれた。
どうやら、今回は俺の手ではなく……目?
今まで鏡がないため把握できなかったが、俺の容姿にも多少差異が生じているようだ。
…こまったな、このままだと自分の容姿が確認できないのだが……。
「こ、言葉はふつうに通じるのか……?」
「通じますよ……。お父さん、龍眼族をなんだと思ってるんですか」
へぇ、この世界の一般的な龍眼族の立場がわかったぞ。
正直、このこそこそ話も聞こえているからな。恐らく隠す気がないのか、耳を傾けなくても聞こえていたけれど。
「うーむ」
「なに悩んでいるんですか。一旦家に入らせるのですよ!」
家に入れるかどうかで悩まれても。
どうでもいいが速くしてくれると助かるんだが。
なにより、近隣の方々の目が痛い。
興味半分、畏れ半分の目が容赦なく突き刺さってくる。
「そうだな。一旦中に入れるか」
「というわけですシルバさん。ようこそ」
頷き、エスペランサに連れられて家の中へ。
中は石造りに近い、ごつごつとした印象を受ける。
しかし、真冬だというのに家全体が暖かいのはいったい何故なんだろう。
竈は確認してみたが、リビングのような場所にも存在していなかった。
「そこの椅子に座っていただけると有り難いです」
「お、おう」
なんだかな……。
これまでにないほど下から言われた気がする。
なんというか、なんて言えばいいのやら。
とにかく、俺のことを人として扱っていないような感覚がして寒気がした。
龍眼族とは、こういう種族なのかと。
先ほどの少年らも、俺が龍眼族だと言うことに気づくとにげていった。しかも、まるで怪物をみたような顔でだ。
思ったよりも、この種族はやっかいなのかもしれないと思ってしまった。
むしろ、厄介なのだろう。
最強の種族というのも、やはり弊害があるようだ。
「……どうしたんですか、難しい顔をして」
「いや、エスペランサは俺のことを怖がらないのか?」
「出会ったときは怖かったですが、今は全く。龍眼族って、怪獣みたいに凶暴で、神のように気高い存在かと思っていましたが、全然違いましたし」
それは俺が違うだけで、ほかの同種族も同じかどうかはわからないがな。
と、そんな話をしていると、エペ父が部屋に入ってきた。