012 会話
「な、なんだよお前!」
超高速で迫ってきた謎の人物に、その3人は度肝を抜かれたのか。
こちらから聞けば失笑が漏れ出てしまうような、情けない声で必死に威嚇する。
そして、俺の手の……甲に生えている、鱗に目をやって。
「れ、龍眼族……!?」
と、3人全員のけぞった。
アグルスの説明によると、龍眼族というのは大変珍しい種族で、ほぼ限られた地域にしか生息していないという。
つまり、この3人は話に聞いたことしかないのだろう。
そう考えると、納得もいくと言うことだ。
作戦変更。戦闘は不可能であると断定して、俺は3人を散らせることに専念する。
……いや、そんなことも必要なかったようで3人は悲鳴を上げながら走り去っていった。
「……大丈夫か?」
「……は、はひっ」
とはいえ、この少女も相当怯えているようで、声も震えている。
容姿が悪いのか、はたまた人相が悪いのか。
どちらも同じような気がするけど、あまり気にしない方針で。
「……家は?」
「あっち……ですっ」
少女の指さす先には、数軒の……煉瓦造りの家が建っている。
本当に数件で、村や町というよりは集落のような印象を受けた。
「あれは……村なのか?」
「……はいっ。えっと、お名前は……?」
そういわれて初めて、俺は自分が名前を名乗っていないこと。
そして、今さっきの情報展開のなかに、少女の名前が入っていなかったことに気づいた。
さて、この場合俺はなんて名乗ればいいのだろうか。
生前に使っていたダウンファール・ゼロ・デスムーンの名前はもちろんのこと、使えないだろう。
俺は戦士でも皇族でも無くなったのだ。
それなら、いっそのこと自分で名前を付けるか……。
「シルバ」
「ひぅ?」
「シルバが、俺の名前だ。よろしく頼む」
はい、と少女はほほえむ。
よく見ると、少女は金髪だった。
頭の上にちょこんと小さなとがった耳が、顔の隣にある耳とは別にあることを考えれば確か……腕獣族か。
思ったよりも端正な顔立ちで、希望神ホープや女神イデアとはジャンルの違う、どこか愛くるしさを含んだ美しさ。
麗しいというよりは、おそらく可愛いの分類に入るのだろうその容姿に。
俺は数秒、言葉が発せなくなっていた。
「あ、私の名前はエスペランサ。家までお連れしますね、シルバさん」
「いいのか?」
「はい」
当然だと言いそうなそんな顔で、彼女は笑う。
その顔に、警戒心という3文字がないことに気づき、俺は頭を抱えそうになった。
どうやら、このエスペランサという少女は……すぐに人を信用する性質らしい。
犯罪に真っ先に、巻き込まれるタイプの人物だと知った。
さっきの事態もあり、少し不安になってしまった。




