118 グライノート
現代聖国王陛下。
その人が来たというのがどれほど大変なことなのか、俺にはわからなかった。
俺は転生者で、この国ではだれが頂点にいるのかすら知らない。
ルークエルリダスさんとスピラルさんの夫妻は、準王族だからこその落ち着きで表情を少々変えた程度。
代わりに挙動不審になっているのは、二人の先輩方だ。
ちなみにエスペランサは、眉一つ動かさなかった。
「とりあえず、迎えに行こうか」
君たちはどうする? とレイカー夫妻は俺たちに話しかける。
先輩方は血相を変えているため、無理として。
俺はどうすればいいんだ? 俺とエスペランサは。
「まあ、プライベートでの訪問だろうし、軽く挨拶をするだけでいいか」
ここで思ったのだが、もしかしてその「聖国王」とこの家って、親戚なんだろうか。
王族と準王族なのだから、普通に考えるとそうなんだろうけれども。
俺は、この国が王政であることしかしらない。
それが立憲制なのか、絶対王政なのかすら知らないのだ。
「とりあえず、迎えに行ってくる」
ルークエルリダスさんはそう呟くと、夫妻で部屋から出て行った。
そして取り残される俺たち。
「……現代聖国王って?」
「刃のような白銀の髪の毛に、雪のような白い肌を持つきれいな方だ。確か年は、シルバと一緒だったかな」
俺と同い年なのか。
……へっ? 確かもう何十年も戦争はないらしいし、ちょっと若すぎないだろうか?
俺が意味を分からず首をかしげていると、アイライーリス先輩がそれを察してくれたのか説明してくれた。
「前代聖国王様は、ご隠居なされているというか、すでに退位はなされているんだよ」
「なぜ?」
「わかんない」
そりゃあ、公開されていない情報を普通の人が知っているわけもないか。
うーむわからない。
「俺たちと同じ歳なのに、すごいなぁ」
「雰囲気もとても毅然とした方だぞ。……正直、私の口調とかは彼女に憧れて、だから」
聖国王に即位したのはごくごく最近らしいし、そもそも国内はともかく、国外では世代が変わったことすら知らないという人も多いんじゃないかと思うけれど。
それにしてもどういうひとなんだろうか。楽しみといえばちょっと違うのかもしれないけれども、少々気分が高揚してくるというのは語弊があるだろうか。
「こんばんは、シルバ。エスペランサ」
「……こ、こんばんは」
クインセシリアだった。
クインセシリアなんだが、いや、ここは違うのか?
「ああ、先ほどのはもちろん、偽名だ。フルネームはクレインクイン・ゲイボルグ・クライノートという」
改めてよろしく、と手を差し出されて少々戸惑うも、エスペランサがうなずいたため握手でいいと知り、そのまま差し出された手を取った。
「んん? 知り合いですか?」
「ルーク、頼むからプライベートの時は敬語を使わないでくれと何度」
「すまん」
やっぱり、サバサバしている人だなこの人は。
確かによく彼女のしぐさや、口調やそこから垣間見える性格をみると、ヴァーユ先輩が憧れているというのは納得できる。
とくに口調に至っては、そっくりじゃないかと思ってしまう。
「昨日の夜に王都の酒場で会ったんだ」
「またお忍びで王城を抜け出したのか?」
「……まあ」
ちょっとバツの悪そうな顔をして、同時に舌を出している姿を出しているところをみると、少々茶目っ気もあるのかな。
可愛いしぐさのはずなんだが、どうも可愛いと思えない。
美しいを通り越してむしろ神々しい印象すら受ける人だから、それもそうなのかもしれないが。
「それにしても、酒場で作った魔剣を見たときは、本当に……素晴らしかった」
とたんに、恍惚とした顔をしてウルウルとこちらを見つめる聖国王陛下。
……この人のキャラが分からない。