105 さわぎ
趣向を変えて一話だけエスペランサ視点。
「へえ、これが戦闘に使わない魔武具か」
「そうですねー、もっとも、ここにあるのは低ランクで子供でもお小遣いを少し貯金すれば変える程度のものなんですよ?」
私は、興味深そうに商品を見つめるシルバさんを見つめて、思わず顔を緩めてしまう。
魔武具、というものは種類だけで考えればこの世界ではいくらでも存在する。【武具】として言われているからシルバさんは価値がいしているようだけれど。
【魔法】で作った【武器】や【道具】、その他の総称が【魔武具】。つまり、魔法で作ったものは全部が魔武具となってもおかしくないけれど、普通の人はそう呼ばない。
「シルバさん、何かご購入なされるのですか?」
私がそう聞くと、龍眼族の少年は何か考え深い顔をしながら「うーん」とうなった。
いったい何にそんなにも好奇心を預けることができるんだろう。
シルバさんのその感情は、全知である私にとっては、おそらく感じられないものなんだろうけれど。
「ここにはさすがに、ないか」
「さすがにここに、膨大な重量・物質を圧縮するといった高ランクのものはありませんよ」
「それはわかってるが、どれ。……人口魔力って、質量あるんだよな」
「ありますね」
もっとも、龍眼族の膂力をもってすれば、ほぼないようなものですけど。
でも、魔武具自体には重量制限があるので、そこまではと言った感じですね。
まさか、作業台とその他もろもろ全部持ち運んで旅をしながら魔剣鍛冶師をしたいとは思いませんでしたけれど。
「魔剣鍛冶って面白いです?」
「面白いぞ? 自分の思い通りの剣が作れるっていうのは」
この場合、作れるじゃなくて創れる、かと言い直すシルバさん。
うー、英雄稼業はどうするんでしょう?
……嫉妬とかじゃ、ないですよ?
ないです……もん。
「うーん、少なくとも衣服を入れるものくらいは必要か」
こうして、シルバさんはその店で一番高いものを4つ購入。
そしてその中の一つを私に渡してくれました。
「ありがとうございます」
「エスペランサの荷物分くらいなら、俺が持ってもいいんだけどな。つい珍しかったもので」
物珍しいものをそのままキャッシュで払えますね……。
魔剣は、一番素ランクの高いものだと私も使いますし、まあ今回はシルバさんの贈り物で充分ですけれど。
「ん、なんか騒ぎがあるようだな」
店から出て少しあと、シルバさんに並んで街中を歩いていると、前のほうで少々の喧騒のような声が響く。
人だかりもできているし、中々大きな騒ぎみたいです。
「何をやってるんだ? ってヴァーユ先輩じゃないか」
……シルバさんが、驚きの視力でその渦中にいる人を判断する。
そして、私のほうを見ると手をいきなりつかんできた。
「ちょ!?」
「とにかく、中に入って聞かないと」
そしてぐいぐい、と私を引っ張るシルバさん。
私の【全知】の範囲は、ものにしか範囲を広められないため未来予知なんていうことはできない。
いや、できるかもしれない。でも、一回この世から身体全部移して、神界で時間を飛ばして……って非常に面倒なことになりますし。
可能ですけれど、私はシルバさんと離れたくないので未来予知は却下ですね。
人はどんな動きをするのかわかりませんし、ね?
だから、私は戦争が起こった時のために、今回はシルバさんを選んだのですから。
人を押し分け、シルバさんは人だかりを抜けるとそのままヴァーユ先輩に近づいた。
「何があった?」
「いや、なんだか少し。付きまとわれたから追い払ったらこうなった」
あぁ!? と相手は破落戸よりも下賤な顔でヴァーユウリンス・ヴァン・フロガフェザリアス先輩を見つめる相手がいた。
どうしようかな、この女の人に加担するのはそんなに好きじゃないですけれど。
シルバさんにくっついている何ともない人、と思われても仕方ないですし。
少なくとも今は、謎法族って名乗っていますし。
頑張りましょう。今回は。こんかいこそ。
シルバさんのためです。