001 別れ
武器と武器がぶつかり合う音、怒号、叫び声。戦いの音が耳の鼓膜を叩くように繰り返されていく。
同時に、自分の体が今、どんな状態であるのかも理解している。
腹は刃で貫かれて臓物が漏れ出し、血を流しすぎているせいか意識も朦朧としている。
いわゆる、死にかけ……といったところか。
もう、何をしようが手遅れであることはわかっている。
そう、すべては死に向かっての片道切符。
……しかし、あきらめたくなかった。
死ぬ、という『運命』に対して何か、足掻きたかった。
遠くで、少女の叫び声が聞こえる。
本当は近くで叫んでいるはずなのに、遠く。
意識を手放せば、楽になれる。頭ではわかっていること、だが。
無理だった。
守るべき人を守れたのだろうか。
ここであきらめてしまって、本当にいいのだろうか。
それは否だろう。誰にも望まれずに迎える結末など、認められない。
「情けねぇ声出すなよ……。」
麻痺して感覚のない手を無理矢理動かし、俺は少女の頭に手を置く。
燃える業火のような色をした髪の毛は、不安そうに揺れ。
いつもなら苛烈ではないものにしろ、確実な火焔が宿っている、金眼はすでに涙で何も見えない。
「……俺の分も、頼んだぞ。世界を、変えろ。……そして俺たちの名前を永遠に刻め。」
視界は闇に閉ざされ、少女の泣き顔も、もう見えない。
これでいいのか、そんなはずがない。
あと数秒だけでも長く、この世界に……。
「やくそく、まもってね」
生きていたかった。
数年後、とある石碑がそこに建てられた。
《ダウンファール・ゼロ・デスムーン、享年18歳。
世界を守る戦士として生きた彼は、戦場で命を落とした》