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義経伝奇  作者: 酒井順
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第2章 出会い

第1話 海


 海尊は海を渡り、大陸に向かうという。また、あの大皿を使うと言うのか。しかし、海尊が用意したのは、大皿よりも大きな船だった。海尊はいう。

「あの大皿では危険が大き過ぎる」


 海尊は、義経一行が蝦夷地に渡り修行をしていた5年の間、世界中を調べて回った。

「いくつかの宝器は、回収できた。しかし、未だ足りない。在り処が分かっても、わし一人では回収出来ないものもある。やはり、あの者達の助けが必要だ。それよりも、心配なことがある。この時代の様が少しずつ変わって来ている。特に海が危ない。このオホーツクだけでも、3匹のシーレスを確認した。この時代にシーレスが存在するはずはないのだ。宝器の飛散の影響なのか。この時代以前に宝器の飛散は、行われたはずだ。本部が確認している。しかし、本部も全てを把握しているのだろうか。エーレス、いやケムの者達も宝器の影響のはずだ。ケムの者達が一番扱いやすい。他の者達ではわしの手に余る。早くモンゴルに辿り着かねばならぬ。あの者と合流させ、宝器の回収を本格的に始めなければならぬ」


 大船に乗った義経一行は、空を飛んでいた。その時に海面に何かいるのが見えた。巨大な海蛇がこの大船を攻撃してくる。海蛇が放つ海水の激流が大船を襲う。弁慶は鬼に変化した。弁慶の破壊光線が海蛇を襲う。海蛇3匹は、少し怯んだようだったが、次の瞬間嵐と竜巻が襲ってきた。海尊は、大船にシールドを張った。

「やむをえまい。今は大陸に辿り着くのが最優先だ」


 義経らは驚いた。

「な、何が起こっているのだ。海に龍神がいることは聴いている。しかし、何故龍神が我らを襲うのだ。それにこの大船は何だ。海尊は何者だ」


 海尊が義経の郎党となったのが、いつのことか誰も覚えていない。海尊の戦死が伝えられると、数日後何事も無かったように海尊は義経の前に姿を現わす。特別な戦働きをしていたわけではない。そこいらにいる将と何ら代わり映えのしない存在だった。その海尊が変貌したのは、衣川館の襲撃の3日前だった。全ての手は打ってあるという。このままでは、ここで討ち死にすることになるという。では、どうすればよいのかと、訪ねると北へ逃れろという。理由は何も話さなかった。その場には藤原泰衡もいた。義経を討つことは、親不孝に繋がるという。義経は何かを感じていた。これから自分達に起こる何かを感じていた。逃れることに決めた。


第2話 金国


 大陸に辿り着いた一行は、海尊に何も訊ねなかった。どうせ、何も答えてはくれまい。それに、フチの姉に言われている。

「海尊に気を付けろ」と。


 ほどなく、村落を見つけた。やはり、不思議と言葉には不自由しない。ここは、何処かと尋ねると、金国の外れだという。一番近い大きな都市は何処かと尋ねると、上京会寧府だという。義経らは、この上京会寧府を目指した。海尊が言う。

「この地に国を構えろ」


 上京会寧府は、金国の1つ前の首都だ。現在の首都は燕京(北京)に移っている。金国の現在の皇帝は章宗である。金国は、女真族が立てた国だが、あまりにも版図を拡げ過ぎたため女真族の占める人口比率は、15%を切っている。おのずと、支配力は弱まり、軍事力も低下している。


 上京会寧府は、質素な都市だった。栄えているわけでは無かったが、それなりの文化を持っていた。支配者は、女真族の章宗の血筋の者だった。しかし、この人物は争いごとが嫌いで、穏やかな性格の持ち主だった。ここに、造反者達がいた。契丹人を中心とした被支配者層の中に地下組織があった。義経らは、海尊の手引きでこの者達と会った。


 上京会寧府は、あっけなく落ちた。北遼が復活した。皇帝には、耶律履がなった。後見人は義経だ。義経は、版図の拡大を抑制した。専守防衛を基本とした国家運営を耶律履に求めた。女真族を燕京に送り届け、金国との和解が行われた。金国には既に遠征軍を派遣し、上京会寧府を奪い返す力は残っていなかった。版図をモンゴルとの境まで延ばした。もともと契丹人の多く住む土地だ。版図の確定が行われた。これ以上の拡大も縮小も行わない。契丹人を中心とした豊かな街作りが行われた。


 この土地の問題は、寒さだ。金国が燕京に遷都した理由もここにあった。義経は、薄緑を振るった。実りの濃い土地が出来上がっていった。薄緑は、義経が持つ刀であり、元は膝丸と呼ばれていた。その薄緑は、義経の成長と共に進化し、今日に至っている。常は、隠霊壺の中に隠してある。


 驚いたのは、海尊だった。

「あれは、膝丸ではないか。何故今まで、気が付かなかったのだ。宝器は、非活性状態のものもあるのか。義経によって活性化されたというのか」


第3話 増援隊


 海尊は本部に連絡を取り、増援隊の出動を要請した。しかし、海尊は隠霊壺の存在を知らない。必然と要請は、非活性状態の宝器の検出器になる。しかしそれは、本部でも無理だという。エネルギーを発していない宝器を検出することは、不可能だという。本部では、新たに5人の監視員を増援させるという。しかし、その者達の役割は、宝器の探索だけだという。海尊は、義経らの監視専従となった。しかし、海尊には既に手に余ることが予期されていた。


 その頃、本部では、別のことが議論されていた。それは、パラレルワールドについてだった。

「また、パラレルワールドが増えるのか。宝器が失われる度にこの世界の力が激減して行く。今まで、いくつのパラレルワールドが出来たのだ。我らの知らぬ内に出来ているものもあるのかもしれない。これは、よからぬ誰かによる人為的なものなのか、それとも運命だというのか。この時代になっても理解出来ぬことが多い」

「まぁ、待て。我らは時間を超えることに成功した。外宇宙にも飛び出した。理解出来ぬのなら、理解出来るように努めようではないか。今回の出来事は、我らにとって幸運なのかもしれぬ。エーレス(ケムの者)達を自由にさせては、どうだろうか。派遣させた者達には、宝器の探索とあの者達の観察だけを任務とさせては、どうだろうか。そもそも、エーレス達の正体を我らも知らぬ。パラレルワールドの仕組みも解らぬ」

「一理ある。過去が変わっても我らに何ら影響が無いことは、実証済みだ。問題なのは、宝器の飛散だけだ。何故、宝器が突然に飛散するのかは解らぬ。そのことが、エーレス達と関係があるのかも解らぬ。今回は、もっと人員を増やして観察だけに努めることに賛成だ。何か突き止められるやもしれない」

「オホーツクに現れた3匹のシーレスをどう考える。シーレスの正体は解っているはずだ。あれは、宝器・海青の守護神のはずだ。あの海域に海青が眠っていると考えていいのではないか。あの海域にも何人か出動させて見よう。海尊では荷が重過ぎたようだ。あれは知らぬことが多い。余計なことをしないよう、もっと上級者を送り込むべきではないか。そうだリーガルがよい。奴ならば間違いは無いだろう。奴は、今何処にいる」

「まさか、今回のことにリーガルを送り込むことになろうとは。奴は今、別の任務を終えこの地球に向かっているはずだ。1年以内には戻ってこよう。時間を巻き戻せば、もっと早く着くだろうが、そうすれば、奴がパラレルワールドに捕まるリスクがある。通常航行で、戻すのが安全だ」



第4話 出会い


 耶律履を皇帝とした北遼は、専守防衛を掲げ、金国やモンゴルと交易を行った。金国との和解の時、お互いに人質を交換した。北遼からは、耶律楚材が金国に送られた。彼は、履の3男であり、この時は未だ6歳である。しかしこのことが、後に楚材をチンギス・カーンのブレーンとする、よき環境となった。人質とはいえ、自由な身の上だ。他国にさえ逃げなければ、求めるものは全て与えられた。かれは、漢民族の風習や文化を貪欲に学び続けた。


 義経らは、噂で聞いた崑崙山を探して周った。しかし、そこは見つからない。いつの間にかモンゴルとの国境を越えていた。モンゴルでは、各地で戦闘が行われていた。1つの闘いに巻き込まれた。その闘いに勝利した後、その部族の長がカーンに会ってくれと頼んで来た。カーンとは何だと聴くと、我らの王だという。義経は興味を持ち、翌朝早くにカーンの元に向かった。


 一目で分かった。お互いが、一目で理解し合えた。1196年を過ぎようとする頃だった。その晩、見たものがいるという。青白き炎を纏う狼と紫の炎を巻き上げる猿の会合を。この時、2匹が何を話していたのかは、誰も知らない。翌朝、義経らは北遼に戻った。そして、耶律履に2万の兵を貸して欲しいと頼んだ。耶律履に否やはない。この国は、義経のものでもあるのだ。


 義経は、北遼とは独立した軍を組織した。練兵場を作り、士官学校を作り、補給部隊も組織した。3年を費やして、屈強の騎馬軍を編成した。その頃、海尊は為す術もなく、本部からは待機を言い渡されていた。そうしている内にリーガルが到着した。リーガルは、義経を一目見て納得した。海尊には荷が重い。リーガルが見てきたエーレスの中でも義経は特別な存在だった。


 リーガルは、本部に連絡した。

「今なら、彼らを抹殺することは可能です。しかしそれは、得策ではありません。何故ならば、この時代に飛散した宝器が彼らに共鳴を起こし始めているからです。増援隊を増やし、宝器の回収に全力を上げるべきでしょう。彼らは既に宝器のいくつかを所持しています。これから、さらに宝器を所持することがあれば、彼らの力の増大は計りしれません。仮に彼らの宝器を奪おうとすれば、我らの被害は想像できません。彼らよりも、出来るだけ早く、宝器を探し出し、この世界は放棄するのがよいかと思われます」



第5話 遊牧民族国家


 1200年になろうとする頃、義経は耶律履に出立の挨拶に赴いた。それが、礼儀だと思っていたが、それは運命だった。耶律履の座る椅子の後ろ側から眩い光が漏れている。あれは、何かと尋ねると耶律履は、不思議そうな顔をした。義経は、耶律履に断り彼の背後の眩く光る物体を手にした。その表紙には「理の書」とあった。耶律履は、その書は誰にも読めないから無用の長物だと言った。義経は、その書を譲り受けた。


 その頃、チンギス・カーンの幕営に持ち込まれていたものがある。カーンが幼い頃、失った父の形見の馬鞍と馬蹄だった。それらも眩く光を放っていた。


 1200年初頭に合流した義経とカーンは、再会を喜び、今春の出兵を話し合っていた。今年の目標はモンゴル高原の統一だった。カーンだけでは、後何年必要とするか分からなかった。そこへ、義経が2万の兵と共に合流してくれた。義経の得意戦法は、奇襲だった。今年もその作戦を取る予定にしていた。しかし義経は、得た理の書を読み進むにつれ、考え方が変わって行った。


 義経は、新しい戦法を考え出した。早速、カーンに相談して見た。

「面白い。今年はそれでやって見るか」

春になり、出陣の用意が出来た。カーンの宿敵タイチウト氏とジャジラト氏のジャムカが最初の相手だった。義経・カーン連合軍は円形の陣を敷いた。そこから竜巻が起こった。前方の騎馬兵は、僅かに膨れ上がり、敵に攻撃をかける。そして離脱して行く。円陣の内側の兵がそれに続く、これもまた攻撃をすると離脱して行く。敵の前線は常に疲れを知らない新しい兵と闘わなければならない。


 敵の前線は、根こそぎやられた。そこに離脱したはずの兵が新しい円陣を組み側面から同じ様な攻撃を仕掛ける。1時間もしない内に敵は、本陣を残すだけとなった。味方の損傷はほとんど無い。疲れてさえいない。20個くらいになった円陣は、敵の本陣に襲いかかった。勝負は、見る間もなく終わった。捕えられた敵将の全ての首が落とされた。義経とカーンの約束事の1つが守られた。お互いに敵に対しては、非情になろうと誓いあっていた。しかし、敵であっても隷属するものに対しては、寛大な処置を行った。


タタルをフルンブイルで打ち破り、モンゴル高原の覇者は、カーンとなった。しかし、敵対する軍がいなくなっただけで、とても国家と呼べる代物ではない。カーンは、部族ごとの自治を認めた。


第6話 人材


 義経とカーンの悩みは、人材だった。戦闘では、もはや誰にも負ける気はしない。問題は、戦闘に勝った後の統治だ。後10年もしない内に、耶律楚材との出会いがあるのだが、今のこの時は、知るよしもない。


 彼らは、広く人材を求めた。ある村に差し掛かった頃、一筋の光を見た気がした。しかし、それは一瞬で、確信の持てるものではなかった。この夜は、ここの村に宿営することにした。村を上げての歓待が行われた。歓迎していないことは、分かっていた。ただ、恐ろしいだけなのだ。その時、一筋の光が幕舎の中に入って来た。若い娘だった。首から何か木簡の一部のようなものを下げている。義経は怯える娘に笑いかけながら、その木簡を手に取った。義経には、一文字「感」と読めた。


 娘は、笑いかけてくれた義経に気を許しているようだ。義経は娘に訊ねた。

「お前は、人の心が読めるのか。そして、この木簡は何処で手に入れたものだ」

「そんな一度に。いいえ。私は人の感情が分かるだけです。だから、貴方様に気を許してしまったのです。貴方様は、本当はとてもお優しい方なのですね」

「ここでそれは、誉め言葉に成らぬ。それより、その木簡は何処で手に入れた」

「そ、それは…分かりました。それでは、明朝貴方様だけ御連れ致します」


 明朝、義経は娘と山道を歩いていた。山道とは名ばかりで、知らないものには辿れないような路だった。義経が娘に何を話しかけても、娘は自分には答えられませんというだけだ。やがて、祠のようなものが見えた。祠のように見えたのは、義経が日の本に産まれたせいだろう。祠というにはあまりにも簡素で、数個の石積みの上に板切れが2枚被せてあるだけだった。しかし、義経には、その板切れが輝いて見えた。


第7話 霊樹


 義経には、人の気配が感じられなかった。しかし、娘の辿る先を見ると一人の初老の男がいた。その男は、石片を片手に何かを削っている。義経は、その男の傍らに行き、何をしているのかと尋ねた。しかし、男は何も答えない。娘が代りに謝った。

「いつものことなのです。仕事をしている時は、何も伝わりません。仕事が終わるまで、そこの洞で、お休みくださいませんか。私で分かることであれば、お答えします」


 義経は、娘に導かれるままに洞に入った。

「この木簡の一部は、私の父が作ったものです」

「何故、話す気になった。山道では、一言も話さなかったのに」

「それは、貴方様がこの場所にお着きになれたからです。誰でもがここに辿り着けるのではありません。霊樹様に選ばれた者しか、ここに辿り着くことが出来ません」

「霊樹とは、あれのことか」

「やはり、お分かりになれるのですね。このことに父が気付いたのは、15年ほど前のことだそうです。私には兄が2人いたそうです。父は、幼い兄達を抱えてここにきたのだそうです。そして、私の持つこの木簡と同じものを兄達に触れさせたそうです。すると、兄達は生気を全て吸い取られて、干からびてしまったそうです。その時の木簡があの祠の屋根です。父には、今でも後悔の念が強いのでしょう。私は2年ほど前、自分の意思でこの山に入りました。そして、自分の意思でこの木簡に触れました。この文字が木簡に浮かび上がってきたのは、その時です。この霊樹様の意図が何処にあるのかは分かりません。おそらく、父も分からないでしょう。父がこちらに来ます」


 「よくぞ、いらっしゃいました。全ては霊樹様の意のままに従います。何を御望みでしょうか。霊樹様には、このクランの次に山に上るものの望みを叶えよと言われています」


 義経には、予期せぬ出来事だったが、毅然と言い放った。

「我々は、人物が欲しい。人物を選んで欲しい。方法は任せる」


 この日から、数多の人材の発掘が行われた。



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