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前編ッ! 前編だッ! 続きを期待しろッ! するんだッ!

 エレナ・プラズテル。名前の元ネタ→エレキテルを女の子っぽくした。苗字の元ネタ→プラズマ+エレキテル。なんて単純。

 エレナは髪をポニーテールからリボンを解いて下ろし、リボンはベッドの脇に置いて布団の中にもぐった。



 エレナはふと、外が五月蝿いと思いながら目を覚ました。近くの窓を開けて首を出し、周囲を見渡す。何やらやかましいが、眠かったので窓を閉めて布団に戻った。



 翌日。

「お父さんおはよ……ってお母さん、お父さんどこ?」

 エレナはパジャマのまま、髪を結い上げて一階に降りて来る。周囲を見れば何時もはある筈の朝食と父親は居らず居るのは母だけ。

「ああエレナ、落ち着いてよく聞くのよ」

「え、うん」

「実はね、うちの村の研究データが盗まれたのよ」

 エレナはふーんと言いながら冷蔵庫から夕飯の残りであるキノコ多目の野菜炒めを取り出してレンジに放り込む。

 炊飯器の蓋を開け、立ち上る水蒸気にご飯の匂い。エレナは愛用の茶碗にご飯を盛るとテーブルに置き冷蔵庫の中を再び見て顔を顰めて扉を閉める。するとチンと音がたち、レンジの中身があったまったのを知らされる。レンジのドアを開き、中の皿を取り出してラップを取る。バターと醤油で炒められた野菜たちの匂いがエレナの嗅覚を刺激し、彼女の脳に食欲を促進させる。

 そして席に着き、いただきますをしてエレナは言った。

「……って、何だってえええッッ!?」



 瑞穂は眠たかった。

 酷く、そう酷く眠たかった。何故だろうか? 一人旅にしてから荷物が増えたからだろうか、一人で適当に寄り道する事が多くなったからであろうか、或いは意識してないと行く道を間違えるからだろうか、やたらと今日はナンパされてそいつら全員殴っては蹴り殴って蹴って行ったからであろうか。

 多分全部なのだろう。

 と言うことで瑞穂はホテルに入り、部屋に入るとベッドに倒れこんだ。まだ時計は十九時になって間が無いが瑞穂は寝込んだ。意識の糸を放り投げる――だが、瑞穂は忘れてる。投げた意識を拾う者が居るかも知れないと言う事実に。



 瑞穂の意識の最奥。

 心の中。

 魔法力。

 そこには確かに、誰かが居る。凍りついた世界。そこに一人佇んでいる何かが居た。だが、その者はくすりとだけ笑っていなくなる。



 深夜三時。瑞穂の体から蒼い光が放たれる。光からは、心なしか寒気を感じた。やがて瑞穂はむくりと起き上がる。目を閉じたままだが、その姿は誰がどう見たとしても氷結瑞穂と呼ぶには抵抗がある。

 髪が、蒼白い。

 和風の芸術品を思わせる様な黒髪はそこには無く、氷をイメージさせる様な蒼白い髪を持った女性がそこに居る。やがて瑞穂(これ以降、彼女と区別する為にミズホと呼ぼう)は優雅な微笑を浮かべ、ゆっくりと目を開ける。

 瑞穂の瞳は本来ならば宝石を思わせる様な黒い瞳である。だが彼女の目は――氷を思わせる様な、蒼白。本人の意思を感じさせない、光の無い瞳でミズホは優雅に微笑わらっていた。やがて眉を顰め、体中の匂いを嗅ぐ。ついでに服を脱いでそれも嗅ぐ。

「……あの子、お風呂に入ってない……」

 そう言ってベッドから出る。



 さて、この間は息切れしながら妄想したまえ健全な男性諸君?



 水風呂でゆっくりしてから出ると朝日が差し込んでくる。

(あ、水風呂に浸かるのが楽しくって入るの長過ぎたかな?)

 ちなみに、その水風呂は2時間後には氷水風呂になってたが。

 ミズホはブラとパンティだけを着用して髪を梳かしながら朝日を眺める。

 カーテンを開け、鏡に向かって丁寧に髪を梳かし続ける。



 瑞穂はふと目を覚ます。

 気が付くと自分は氷の中であらゆる物から隔離されていた。

 ――なっ!?

 はっと自分の声が精神体となってる事に更に驚く。

 ――ちょっと、ねえ! あの子は何処!?

 瑞穂は何とか動く首を回して声を辺り一面に怒鳴り散らす。

(五月蝿いなぁ。聞こえてるよ)

 ふと、瑞穂の精神に思念が響く。

 ――ちょっと! いきなり人の体をジャックするってどういうこと!?

(いーじゃん。一日くらい貸してくれたって)

 瑞穂は不満そうな意志を現在体を乗っ取っているミズホに送る。

(だっていっつも人を好きな時に呼び出しておいて、好きな時に送り返すんだもん。

 たまにはこっちが好きな時に体使わせてよ)

 瑞穂は言われて確かにとも思ってしまう。

 だが、それでも。

 ――じゃあ、私が監督するから、暫く好きにしていいよ。

(ほんと!?)

 ――ただし、私の許可無しに動かないでね。後、私に外の情報も寄越して。

(分かってまーす)

 瑞穂は分かってんのかと意志を送りながら黙り込み、外の情報が来るのを待つ。



 ミズホは瑞穂の精神情報を感知出来る様に調整すると綺麗に揃った髪をいじる。

(どう? どう? 髪、綺麗に梳けてる?)

 ――何時もどおりなら、それで良いじゃない?

 瑞穂からそんな思念が飛んでくるのを感じる。

 ミズホはくるくると回ってさらさらと自分の動きに追従する髪を見て楽しんでいた。

 やがて、自分の豊な胸に注視して持ち上げてみる。

「……動かない。もっとぶるんぶるん行くかと思った」

 ――空間固定術式とか色々かかってるからね。

「詰まんないの」

 ミズホは面白くなさそうに言うと荷物から自分の下着セットを取り出して見つめる。

 そして一言。

「これ、着るの面倒……」



 ミズホは瑞穂から送られる思念に悩まされながら何とか服を着用するとホテルから出た。

(さてと、これからどうするかな?)

 そんな風に思いながら入り口付近で立っていると、

 ――人の邪魔になるから退いて。

 とやかましく飛んでくる。ミズホは空返事しながら適当に歩き出す。

(あ、そうだ。香水買ってみる? あれって確か付けると防御術式かかる奴あるよね)

 ――お金に余裕ある時ね。

(……貴女は御洒落には興味あったり、やたらと気合入れてる割に人に見せる事はしないよね?)

 ――誰に見せるの?

(……みらいのおっと?)

 ミズホに恐怖を感じる思念が送られて来た。そんなやり取りをしながら歩いているとけたたましい騒音に引かれて首を動かす。

 見れば、この世界では非常に珍しい乗用車が歩行者専用の大道路を突き進んでいた。爆走する車をぼーっと見ていると続いて後に続いて爆走するバイクを呆然と見つめる。

「……わー、あれって車だよね」

 ――関わっちゃ駄目だよって聞けよ人の話ッ!

 ミズホはぴょんと跳躍しながら車とバイクを追いかける。

 ピョンピョンと空中を跳躍しながら前へと突き進む。眼下ではやたら爆走してる車とバイクが見える――が、バイクの方からは電流が奔る。

「おお、凄いね」

 ――どうやら、あのバイクに乗ってるの魔導師っぽいね。

「っぽいね」

 ミズホは空中跳躍を続けながら高度を下げていく。



 疾走するバイクに跨っているのは金髪の髪を黒いリボンで結い上げ、黒いマントを身に纏った少女。

 アイガードを付けてるの為か、目元が良く見えない。

 歯を食いしばり、前を疾駆する車を追いかけて行く。スピード違反なぞ気にしていけない。既にお互いもう法なぞぶっちぎっている。と言うか歩道走ってる時点で既に違法なのだが。突如前方の車が激しい音を立てて道を曲がって行き、バイクの方も続いて曲がっていく。

「――エレキレーザーッ!」

 前方に向けて一直線に奔る電気をかっ飛ばす。車を真っ直ぐ追う光線。しかし、それは後一歩で届かずに伸びずに縮む。

「くっ……」

 言葉が速さに流れていく。やがて助手席の窓が開き、そこから銃が顔を出す。銃声が響き、辺りに金属が音速で叩き合い音を響かせる。

「お前らーッ! データを返せぇぇぇえぇぇえぇえぇぇぇぇッ!」

 少女は思いの限り叫ぶが、声を超えてバイクと車は駆ける。そんな時だ。横から、

「つまり、悪いのは向こう?」

 と言う声が流れ込んで来た。はっとして左の方に視線を送ると、蒼白くて長い髪の女――ミズホがバイクに並行して走っている。

「ねえ、聞いてるの?」

「あ、ああ……連中、データ泥棒なんだ!」

 少女は叫ぶと隣のミズホはふーんと流し、更に前を駆ける。

(……風の魔導師か?)

 少女はそう思いながら前を走る。ミズホは更に跳躍し、車の上に立つとメイスに巨大な刀身を生み出してそれをぶっ刺した。

「って、おいッ!?」

 さしもの少女も驚いてバイクを横にしてブレーキをかける。巨大な刃を突き立てられた――と言うか貫かれた? 車体は一切スピードも落とさずスピンすることも無い。

 バイクはタイヤが猛スピードで道路を焦がし、急速に速度を削っていき最後に砂煙を上げて停止する。

 少女は見る。目の前ので尚をも爆走中の車を。車体の上ではミズホが屋根を凍らせ、それを殴って砕く。中身は、男が二人。運転しているツッパリのサングラスに、茶髪ショートの眼鏡をかけた男。ちなみに眼鏡マンの両腕には大事そうに鞄が一つ抱えられている。

「あ、兄貴ィ~」

「ええいうろたえるなッ! しっかり前を見て運転しろッ!」

 どうやらつっぱり男は見かけによらず肝っ玉が無い様だ。逆にインテリ臭い眼鏡は開き直っているらしい。それでもつっぱり男は不安げな声を漏らす。

「で、でも」

「だぁぁぁっもう! こっちには銃があるんだッ!」

「で、でも非殺傷仕様ですし、そもそも相手は魔導師」

「構うもんか、銃は銃でも」

 インテリ眼鏡は懐から拳銃を取り出し、立ち上がって車の屋根に居るミズホに突きつける。ミズホに向けられた銃を取り合えず凍らせてみる。

「麻酔、銃だから……関係ない筈……だったん……」

 インテリ眼鏡はだんだん威勢を落として席に戻った。

「……あ、兄貴ぃ~」

「だああああもう黙れ! 今代案を考え中だッ!」

「ねえ」

「何だ!? 今取り込みちゅうなのを見て分からん……か……」

 インテリ眼鏡――略してイン眼鏡はミズホが振り上げたソレ(・・)を注視する。その、でっかい、ハンマーを(胸じゃなくて)

「ぺしゃんこに」

 ミズホは振りかぶり、

「なーれぇッ!」

 振り下ろした。

 車のボンネットに氷塊は直撃し、激しい破砕音を当たりに撒き散らす。車は煙を噴き出し、よろよろとスピードを失い、最後には停止した。乗ってた男達は車が止まるとドアを蹴り破って逃げようとするが、

「待てお前らッ!」

 バイクに乗った少女が先回りして彼らの行く道を塞ぐ。

「ぐッ、ぬぅぅぅぅッ!」

「盗んだ研究データ、返してもらう!」

「あ、兄貴ィ」

「え、ええいうろたえるなッ! 俺達にはまだ切り札があるッ!」

「で、でもよぉ~……」

「だぁぁぁらもぉぉぉぉうッ! 良いからやるぞ!」

 イン眼鏡は眼鏡のブリッジを押し上げ、ギラリと眼鏡を輝かせる。

「運が無かったなぁ、嬢ちゃん達。今の俺は立ち止まる事さえ許されない、猛進を運命づけられた男だ。怪我する前にお家に帰りな?」

 少女はバイクのスイッチを押した。電気ビームが出た。男達は素早くかわした。

「フッ、命が惜しくないと」

 少女はもう一度バイクのスイッチを押した、ビームが男達に向かって奔るが当たらない。

「ちょっと落ち着け。今」

 少女は淡々とボタンを連打する。ビームが乱射される。男は踊るッ! 電気と炎のダンスをッ! 閃光と炸裂の赤に彩られてッ!

「ねえちょっとで良いからさ前口上位させてよ!? ちょっとは情けの一つくらいかけてよ!? おじさん本気で怒るよ!?」

 少女は淡々とバズーカ砲を取りだす。構える。狙いを定める。引き金(トリガー)を引く。粘々した何か(トリモチ弾)が飛び出る。男達を捕える。だがしかぁぁぁぁっしッ! 此処で終わる男たちではないのだ! インメガは腕に電気エネルギーで構築した刃を生成し、トリモチ弾を切り裂くッ!

「君ィィィィィィィィィッ!? いい加減怒るゾォォォォォォッ!?」

「さて、携帯型荷電粒子砲の対人テストをっと」

「ふふふ、良いだろうッ! 撃てッ! 撃ちたまえッ! だぁぁぁぁぁぁっが覚えておけ少女よぉぉぉぉぉぉぉッ! 貴様が何をしようと私の魂は永遠に」

 と言いかけた所で放たれた荷電粒子砲は思いっきり狙いがそれ、近くの道路を抉る様に爆散する。

「……おい立て助手ぅぅぅぅぅぅぅッ!? あれを呼ぶぞぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 男の叫びに相棒は涙目で立ち上がる。

「聞くがいいッ! 俺達の生み出す、魂の脈動をッ!」

「称える声無くとも俺達は立ち上がる、何度でもッ!」

 男達の叫びに応えるように、この場に何かが来ようとしていた。

 そして――、

「五つの勇気よ、悠久なる友の誓いにてッ!」

 トラック、乗用車、バス、タンクローリー、ブルドーザーが集結し、

「今ここに、一つとならんッ!」

 そして、叫ぶッ!



 合 体 ッ !



 経緯はよく分からなかった。なんかこうピッカーンドッガーンガッシャーンガシンガシンガキンガッキンガッキンドッガンドッガンピキィィィィンと言う感じの音が鳴り終わったとき、そこには全長三十、四十㍍はありそうな巨大ロボットの姿だった。

 ミズホはほえーと見上げる。ポニテ少女はあんぐりと口を空けて呆けていた。声が響く。音声器に通した様な声。

『フゥゥゥゥゥーッハッハッハッハァァァッ! これこそ我が研究の成果が一ぉぉぉぉぉぉっつ! グレートマシンリッヴァールXだッ! 今さら謝った所でもう遅いッ! 俺と言う科学者の前に恐怖で恐れ戦くが』

「あーあー一つ聞いて良い?」

 インメガの前口上を遮った少女は気まずそうに口を開いた。

『ふぅぅぅぃいいだろう……少女の可憐な花が散る前にぃ、遺言の一つくらいは聞いてやろうではないか。俺はこう見えても礼儀は心得えて』

「これ、電気使ってる?」

 少女の問いは至ってシンプル。非常に分かりやすい。

 が。

 それ故に意図が見えぬ。

『ん? 当然であろう? この合体機構には当然電気エネルギーを用いている。この俺は電気魔導師だ。この資料を頂戴した辺りから既に分かっている筈だが? だがそれがどうしたと』

「じゃ、終わり」

 少女はリボンを解く。解かれた髪は宙を舞う様に落ち――電気を纏って浮き上がる。

『……は?』

 少女はマシンの足元へと歩き、つま先に手を置く。そして、宙を舞う髪がロボットの足にくっつき、侵食する様に突き刺さる。

『おい、何を』

「アクセス」

 瞬間だ。

 ロボットに電光が迸る。そして、ワンテンポ遅れて――ロボットは崩壊を始める。

『な、な、ぬぅわにぃぃぃぃぃぃぃッ!? どういう事だこれは!?』

「私は体中に電気の魔力を流し込んでいてね。

 まあ、魔法力がある連中なら誰でもそうだっけ、でも私は違う。そう、本来流れていない部分にも電気が奔っている。体中の血管の直ぐそばに魔力回路を通し、髪の一本一本にも魔力が通っているんだ」

 エレナの体中、至る所より電光が迸る。髪の先、その先にも電光が走り機体の中にまで入り込んでいく。

『って、ま、待て、と言う事は!?』

「察しが良いね。

 この髪一本一本が、アクセス用の端末もどき。このロボットに電気が流れてるって言うなら、ハッキングも容易。さあ、データを……ぅッ!? 侵入不可エリア!?」

 少女は驚いた声を上げると同時。ロボットの首から上がジェット噴射して浮き上がり、飛び去っていく。

『こ、このままで済むと思うな~~!? データはまだこっちの手にあるんだぞおおおおお~~~!? 最後に置き土産の自爆装置ONッッッ!』

「OFF」

 お前は一体どの時代からやって来たのかと問いたくなる様なセリフをばら撒いてインメガは飛び去っていく。ついでに起動された自爆装置は即座に命令を取り消した。溜息を付きながらヘッドロケットが消え去った方向へと視線を投げる。

 もうロボ頭はそこにはなかった。


 

 とある喫茶店。

 ミズホと少女はお茶している。少女は既に髪を結い上げ直し、マントとアイガードを外して席に座っている

「さっきは協力ありがとう。私はエレナ。エレナ・プラズテル」

 鎧を身につけた少女――エレナは言いながらアイスティーをストローで吸い上げる。

「ん、わたしはミズホ。よろしくー」

「ん。正直助かったよ。あのままじゃジリ貧も良い所だったし。

 まあ逃がしたけど、追えないって訳じゃあ無いしね」

「そうなの?」

「うん。でもどうして協力してくれたの?」

「ん?しちゃ駄目だった?」

「いやいや大助かりだったよ。

 でも何で見ず知らずの他人を助けようと?」

 彼女の疑問も尤もだ。普通、あのタイミングで見ず知らずの誰かに手を貸そうなんて思わない。

「ん? 面白そうだったからだよ」

「……えっと、私の手伝いするのが?」

「うん。何か面白そうだったよ。実際面白かったし。ねー」

 ミズホは誰か(瑞穂)に同意を求めると、エレナは一瞬疑問を浮かべる。

「……うーん、まあ確かに巷で言う映画ってやつみたいに車の追いかけっこなんて生まれて始めてやったけど……別段面白くは……」

「どうかした?」

「あいや、特に面白くはなかったと」

「そうなの?」

「え?」

 何故だ、噛み合わない。エレナはそんな風に思った。

「そういやデータって言うけど何のデータが盗まれたの?」

「え、うんっと、確か研究データの最新版だった様な。

 盗まれたのはソレのコピーだけど、外部に漏らす訳には行かないから取り戻さないと」

「大変そうだねー」

 ミズホはのほほんと言い放った。エレナは(のんびりした人だな)とか思いながらアイスティーをストローで吸い尽くす。

「じゃ、行こうか。向こうも落ち着いたようだし」

 次にミズホが不思議な顔を見せる。



 瓦礫の山。

 その中に一つ、ボロボロのロボットヘッド的な物が転がっている。

 近くにはイン眼鏡と時代遅れサングラスがいた。

「逃げ切りましたね、兄貴」

「おうよ、あんな小娘の一人や二人、撒くのなんざ軽いぜ」

 イン眼鏡は胸に親指をびっとさして歯を輝かす様に笑った。

「へえ、センサー持ったまま逃げてたくせによくも偉そうなこと言えるね」

 二人の頭上に少女の声が圧し掛かる。思わず振り返ってみれば先程のバイクにサイドカー付けたをくっ付けた物に乗ったエレナ――むろん、黒マントにアイガードも付けて――が居た。

 サイドカーには無論ミズホが乗っている。

「heyカモンマイカァァァァアァァァァァアァァァッ!」

 響く男の絶叫ッ! そして瓦礫の山の中飛び出る新車ッ!

「乗れ相棒ッ!」

「あいよ兄貴ッ!」

 男達は滑らかな動きで車に乗り込み、エンジン起動ッ!

 回るタイヤッ! 噴出す排気ガスッ! さあ行くぜ自由の彼方ッ!

「ハッハーッ! 俺達を止められる者は」

 車の後ろのトランクオォォゥプンッ! 飛び出すはジェットエンジンッ!

 ジェットエンジンからは噴出すファイアーッ! 準備は良いかいやろうども?

「どこにもいはしないぜえぇぇぇえぇぇッ!」

 エレナとミズホは酷く呆れた表情でソレを見つめていた。

「って、追うよ!」

 電気を走らせ、一気にバイクを加速させ、車を追う。



 街中を大爆走する車にソレを追いかけるバイク。先行する車が歩道だろうと構わずに突き進む。

「ちぃぃぃぃぃッ! 環境ってもんを考えろおおおおおおッ!」

 エレナは叫びながらなるべく人にぶつからない様に運転しながら爆走する車を追いかける。

「人とかによくぶつからないね?」

「向こうに電気魔導師がいたでしょう? 電磁力を駆使して邪魔な一般人を弾き飛ばして走ってるんだよ!」

 エレナは怒鳴りながら風を切って街中を走っていく。街並みの風景は流れる様に過ぎ去っていき、所により激しい音を立てて曲がったり少し狭い路地を突き進んだり。やがてバイクの方から高い音がなる。

「どうしたの?」

「もう直ぐ街を出るッ……!」

 エレナは歯を食いしばる様に言い放ち、前に目をやれば徐々に街の出口を示す看板が見える。

「街の外に出られると色々面倒なんだ。策的範囲が広いと特定が面倒だしね。

 せめて街中で捕まえたかったけど……しゃぁない!」

 エレナの体からより一層電気が迸る。

 同時。彼女の動かすバイクがより激しく大きな駆動音を鳴り響かせる。ミズホは体にかかるGが上がり、流れる街並みの早さが更に早くなる。

「確り掴まってね、一気に加速して追いつくッ!」



 車は森の中に整えられた狭い道を行く。がんたんがたんと乗り上げ、木々や草花を踏み潰して爆走する。

「どうやらあの小娘ども、諦めたみたいだな」

「ですねえ。やっぱり兄貴の作ったジェット付き車に追いつけるもんなんてこの世界にあるわきゃねえですぜ!」

 男達はもう勝利の余韻に浸っていた。環境破壊しまくっていることについて誰か突っ込め。

「だーーーかーーーらーーー」

 声が上から降ってくる。同時に。

「環境を考えろつってんだろばっかやろおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 エレナのバイクが木々の間から凄まじい駆動音を響かせて上から現れるッ!

「な」

 思わずインメガが窓から目をひん剥いて見上げる。

「何だとおおおおぅ!?」

 バイクはボンネットの上に思いっきりダァァァイブッ!

 後輪が、車のボンネットにタイヤの型を叩きつける。そのままバイクは車のボンネットを凹ましながら前に躍り出た。

 遅れてミズホの乗ったサイドカーも続いてバイクの元へ合体。当然、エンジンルームでもあるボンネットを上から叩き潰された車はバイクの制止力も持って次第に止まって行き、完全に停止。

 そして男二人組は車から降りて一言。

「ねえ、車壊すの止めてくんない? 粗大ゴミからかき集めて改造して作ったから製作費ただだけどさ、一応手間暇かけてんだけど、弁償してくんね?」

「騎士警察に突き出すと? 良いけどその場合、あんたらは研究資料の強盗犯及びに器物破損の傷害罪でとっ捕まるよ?」

「もっと言えば、各街によって法律も違うから総合的に一番罪が重い街で裁判受けても良いよ?

 もちろん、こっちの器物破損の罪は一番軽くなる街でやるけど……とは言っても最初の車破壊はアカコガネシティ、次の破壊はどの街にも属してないからアカコガネシティでのみの裁判になるけどね。後、歩道に無理矢理走り込んだのも罪に問われる。二つの街でやらかしたから、訴えたらそっちが相当不利な状況で始まるよ」

 エレナはミズホ――瑞穂のもの言いに思わずはっとなってミズホに視線を移す。

 一瞬見えた。彼女の髪が、漆黒に染まっているのを。だが、直ぐに蒼白の髪に戻る。

「ぐっ、くっ、き、貴様は弁護士か何かか!?」

「冒険者なら、これぐらいは抑えておきなよ……だって」

 ミズホはぼそりと最後に付け加える。ちなみにさっきまでの台詞は全て瑞穂(第一人格)によるものだ。

「ふ、ふふふ……」

 一瞬後ずさったインメガは眼鏡のブリッジを抑え、手を掲げるッ!

「Heyキャム・オンmyカァァァァァァァッ!」

 男の叫びと共に鳴り響く駆動音、そして空中より只今参上するくるまそして――、

「えい」

 突き出た氷柱に穿たれるボンネット(エンジン)。男達は無言でそれを見つめる。

「……行くぜ相棒ッ! アレをやるぜぇッ!」

「が、合点です兄貴ィ~!」

 男達は右腕を再び手に突き出すッ!

「俺達の闘志高ぶる時ッ!」

「何時でも頼れるヤツの時ッ!」

 何処からとも無く現れる空飛ぶ列車。それらは空中で変形を始め、編成を変え始める。

「輝け俺達の希望ッ!」

「燃やせ俺達の魂ッ!」

「いざ此処に命ず――」



 合 体 せ よ ッ !



 以下略。

 えっと、何処までかって? んとだね、合体してー地面降り立ってージョイント部分に氷刃投げつけられる。取りあえずエレナもヘアハッキング。だが侵入出来ないッ! ので電刃で穴開けてハッキング。で、覚えてろーとヘッドロケットエスケープ。以上。

 エレナは一通り作業を終える片膝を付く。

「大丈夫、エレナさん」

「うん、平気」

 そう言ってエレナは手を伸ばし(・・・・・)虚空を掴む(・・・・・)。ミズホはそもそも手を出していない。ので思わずエレナはぐらりとよろけた。

「どうしたの?」

「あ、いや別に」

「……もしかして、眼。悪い?」

 エレナはゾクリと、背筋が凍る様な感覚が来るのを感じた。

「と、取りあえず、場所うつそ?」

 それだけ言うのがやっとだった。



 二人は適当な宿屋を取り、部屋で休んだ。部屋は木製で歴史を感じさせる古さがある。

「……一つ、聞いて良い?」

 エレナはベッドから天井を見詰めつつ、静寂を破る。

「ねえミズホ。あなた……誰?」

 誰。

 何者でも何なのかでも無く、誰。つまり、彼女はミズホに、ミズホが何なのかをといている。

「……どゆこと?」

「見てないと思った? あなた……髪が黒くなってたでしょう。しかも……それまで体中、いや髪に纏っていた魔力が落ちる様に。

 いったい、貴方は誰? さっきの物言いも、ミズホには」

「そうだね。その指摘は的確だと思うよ」

 エレナはふっと(お出ましか)と心内でもらす。首を動かしてみれば、光の無いうつろな氷をイメージさせる様な蒼白の瞳に、漆黒の髪を持ったミズホ――瑞穂が居た。

 エレナは何処かミズホから感じてた違和感があった。それは、

「思えば、喫茶店の時におかしいと思うべきだったね。あなたは……何処か、非人間的過ぎた。その癖、口調も仕草も、人間臭過ぎる」

 そう。見た目があまりにも人間ではなく、意志の無い――もっと言えば氷の様に冷たい印象しかないのに、口を開けば非常に人間くさいのだ。何と言えば良いのか分からないが、一つ確信を持って言える。ミズホは、口さえ開かなければ人形。あるいは人間の枠を超えた存在に見える、と。

「で、貴方誰?」

「分かり易く言うなら……第一人格?」

 空気が凍る。

「……え、っとさ。解離性同一性障害? 多重人格?」

「……好きに解釈して。説明すると長い」

 瑞穂的には「さっきまで相手してたのは契約精霊だよ」と説明したいのだが、そこから更に発生して質問が乱舞するのは目に見えている。

 が。

「……ちょっと待った。幾らなんでもおかし過ぎる。一つの体に二つの人格……? なら普通、体の取り合いになるか意志を融合させるのが普通なんじゃないの? どうしてそのまま放置しているの? 多重人格ともなれば、お互いに不都合が発生する筈」

(……ああもうめんどくさい)

 瑞穂はピンと名案を思いついた。そして実行。

「……んとね。別にお互い迷惑じゃないから放置だって」

 そう、精霊ミズホに全て押し付けて自分は心の奥に引っ込むことだ。あら不思議。説明は全部別人格がしてくれる。なんて便利。

「……逃げたな、あいつ」

 ――何故ばれた。

(うん、バレる)

 さて、瑞穂達による漫才はさて置こう。次の問題は……エレナだ。

「で、さ。あの子が言ってるんだけどさ。目、見えてないの?」

「……私も、まさかもう来るなんて思わなかったよ。ちょっと、面倒だけど……教えてあげる。私の身体について」

 言ってエレナは姿勢を正してミズホと向き合う。

「私の身体はね、ちょっととある実験で魔力回路を弄ってあるんだ。常時魔力が体中を循環するとどうなるか、と言う実験を始めてかれこれ十五年。髪の先まで魔力が循環してるおかげか、大概の電気機器なら進入してハッキングしたりも出来る。

 でもね、眼球にまで魔力が通っているんだ」

「うん、知ってる。あなたの魔力って体中に駆け巡ってるよ。気を抜くと体中真っ白に見えるくらい」

「……そう、あなたには魔力が見えるんだ。まあ、そう言うことで電気の魔力が濃厚過ぎてね……近いうち、私は失明する。

 いや、それだけじゃない。体中の五感が濃厚な電気の魔力に浸食されて殆どの現象を光でしか感じられなくなると思う。何とか魔力を制御して抑えているつもりではいるけど……いやはや、こりゃ無理だーって自分も思うね」

 エレナはさも他人事みたいに言い放つ。

「……両親は、何も?」

「……辛かったら、何時でも止めて良いって言ってくれてる。一応、これ本人の同意の下の実験だしね」

「それ、本気で言ってる?」

「うん。あたしが実験の対象に選ばれたのは、父さんと母さんが優秀だったからだし。それに、さ。この身体で不自由したこと、あんま無いし」

 エレナは笑っている。ミズホは、首をかしげてエレナを見つめる。

「……明日失明したら、どうするの?」

「その時は、その時」

 エレナは乾いた笑いを浮かべるのだった。



 翌日。

 日は昇り始め、もう直ぐお昼になるであろう時間。荒野にインメガが仁王立ちしていた。

「――待っていたぞ、追跡者達よ」

 荒野に吹く風に上着を靡かせ、崖の上を睨む。そこには、アイガードに黒マントを纏ったエレナがバイクに跨っている。サイドカーには瑞穂が乗っている。

 アイガードの下。そこにある彼女の素顔がある。

 エレナの素顔。そこには体中の神経から血管などの細部の側に魔力回路を通している。彼女の真剣な眼差しに影響されるように、流れる魔力が光っている。体中に流れる電流の光。それが目にまで流れている。

「さあ、そろそろ鬼ごっこを止めようじゃないか」

 エレナはインメガを見つめ続ける。その表情は怒りにも似た、真剣な眼差しで。

「行くよ……!」

 バイクにエネルギーを送り込み、駆動させる。崖を飛び出し、崖下へと降り立つ。

「もう逃げたりはしねぇ……Hey Comon! Myマッスィィィィィィィィィィィィンッ!」

 インメガの呼び声に応じて現れる五機の戦闘機以下略。ピッキーンと地面に降り立つ合体ロボット。

「……と言うか、之だけの技術があって何で盗みなんて……」

 瑞穂は思わずぼやいた。色々事情があるのであろう、きっと。

『ふっふ、ハッキング対策にマジックコーティングも万全ッ! もう卑怯な手を使わせはせんぞ貴様らぁぁぁぁッ!』

「泥棒に言われたくないって、返す所?」

「知らない」

 エレナと瑞穂はお互いに顔を合わせて話し合う。しかし、何でこの連中は盗みを働いたのか……。

『さあ、泣いて謝るなら今が最後だ……この一線を超えてしまえばもうお互いを滅ぼ』

 瑞穂は何か前口上の最中に脚部を殴って止める。

『あっ、ちょっ、最後まで聞」

 瑞穂は続けて同じ所に蹴り付ける。

『ねえ、良いから台詞だけ言わせてよッ!?」

「……良いけど」

 瑞穂は氷鎚を肩に置いて一旦作業を止める。

『くっくっく……思い知るが良いッ! 我が開発せし兵器をッ!』

 瑞穂は取り合えず氷鎚を振り被って脚部を思いっきり強打する。

『ねえッ! 少しはこっちにもターンをゆずっ』

 瑞穂は黙々とハンマーを振り回し、ロボットの脚部にダメージを重ねていく。

『調子に乗るなよ女ぁアァァァァァァァァァァァァァァッ!』

 男は叫び上げると同時、ロボットは背中にセットされたジェットエンジンから火を噴出して上昇する。

『くぅらえぇぇぇぇぇぇぇいッ! ジェェェェェエェェェェェエェッツタッコゥルッ!」

 そして距離を取ると瑞穂目掛けて突進して来た。ちなみにエレナはぼけーっと見ているだけである。と言うか、瑞穂やらこいつ等が唐突過ぎて置いてけぼりを食らっているのだ。

「って、流石に危ないよ瑞穂ッ!」

 エレナは叫ぶと黒マントを脱ぎ捨て、バイクから飛び降りて瑞穂の前に躍り出、手を突き出す。

『フゥゥゥゥゥゥゥゥッハッハーッ! 電磁力による衝撃緩和かぁッ!? 良いだろう乗ってやる、だが俺も電気魔法の使い手であることを忘れるなよぅッ!?』

 瑞穂はそんなエレナを退かすと代わりに手を突き出す。エレナは何かを言いかけるが、間に合わないッ!

 が。

 ロボットの突進は途中で終わった。いや、止められたのだ。瑞穂に。

『な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!?』

「今、私が付けている手袋は妖精姫フェアリープリンセスのグローブってものでね。耐久性は勿論、対物理への防具としても一級品なんだよ。このくらい、無傷で抑えるなんて」

 瑞穂はそのままロボットの勢いを利用し、

「軽い!」

 そのまま後ろに投げ飛ばすッ!

 投げられたロボットは即座に体勢を立て直し、ポーズを決める。

「いや、何でポーズ?」

「様式美だよ」

 瑞穂の突っ込みをエレナが華麗に回答。

 と言うか趣味が分かるのだろうか。

「……いや、意味わかんないから」

 瑞穂には理解出来ない様だ。結構かっこいいのに。

 ちなみに、エレナ的には(つーか突進し続けるマシンを抑えられるお前が何者だよ)と思っていたりする。

『く、くくく……なぁぁぁぁらばぁッ!』

 インメガの叫びに応えるが如く、ロボットの指先が瑞穂に向く。

『撃ち抜くまでッ! フィンガーバルカンってーッ!』

 エレナは銃声が聞こえるより速く足を動かす。

 それよりも速く瑞穂が手を伸ばしてさえぎる。

「何でッ!?」

 瞬間、瑞穂の左手を見た。小型のボタン型の機械が納まっている。

 彼女の脳裏に、その名前が思い出される。

(携帯型おきがえ君……?)

 同時。突き出された指から狙撃の火が吹くッ! 粉塵が巻き上がり、幾つもの弾丸が瑞穂を撃ち抜く……筈。

 そして、砂煙が失せるとそこには瑞穂――いや、ミズホが立っている。ドレスアップのおまけ付きで。

「漆黒の……ドレス?」

「フェアリープリンセスドレス、月夜の姫。妖精達が拵えた、要塞級防具。

 たかだか銃弾如き、貫くことなど出来ない。破りたいなら、神話級兵装でも持ってきて」

『……チートじゃねえかッ!?』

「妖精達の作った防具は正しく究極。オリハルコンでさえ、たかがに成り下がる」

「わー本物のチート初めて見たー……」

 得意気に話す瑞穂に対し、エレナは力なく呟いた。



 ロボットのコックピット内。

 二人の男達は非常に力無くパイロット席に座っていた。

「あ、兄貴ぃ~……もう無理ですよぉ。逃げましょうよ~勝てねぇですって、兄貴い~」

 インメガは応えずに項垂れる。

 やがて天井を仰いだ。

「なあ、相棒。俺たち、連んでどれぐらい経った?」

「え、確か高校二年からもうかれこれ五年になりますね」

 時代遅れサングラスは思い出す。インメガとの出会いを、駆け抜ける様に過ごした学生時代を。

 ゆっくりと、インメガは両手で顔を覆い、何かを塗る様に手を下げていく。

「俺はさ、いつも思ってた。お前と一緒なら出来ねえことはない」

「なら、もう逃げましょうぜ! 勝てっこねえですよ」

「ああ、そうだ。俺達は何時も逃げてた、何かから。思い出せよ、俺が最初に逃げると言った時。お前は反対した。逃げるなんてかっこ悪いって。でも俺は……逃げた。それが一番利口だって信じて」

「兄貴……」

「なあ相棒、俺達は何時まで逃げるんだ?

 あの後俺は、逃げるが勝ちと言って有頂天だったが……本当は気づいてたんだ。逃げる事は、勝ちじゃないって。そりゃ、時には生きてたら勝ちって事はある。だがその時は何時だ? いつもか? 一目散に逃げて、それで逃げ切る事が、勝ちか?」

 インメガは手を顔から下に放る。俯いた表情からは何も見えない。

「ちげえよな……ちげえよ。敵を倒さず、背中を見せて逃げる事が勝ちなんて……そんなのよぉ……違うんだよっ……!

 本当は真っ向から打ち倒したかった、勝ちを拾いたかった。でも俺は馬鹿だ。下手に知恵を付けた馬鹿だ。勝てる勝負が分からなくて、全部に逃げてた、逃げ続けた。でもよ、相棒。俺ひとりなら、悔しさも無いんだ。ドブネズミの様に、無様にとっとと逃げてた。だが俺には、お前が居るっ……相棒、お前が居るっ……!」

 インメガは立ち上がり、前を向く。

 決意を秘めたまなざしで。

「腕利きのパイロットの相棒が居る、そしてそんなお前が全力を出せる物を作れる俺が居るッ! 例え姫の名を持つ者が居ようと、俺達二人なら、倒せるッ! だってそうだろ? 俺とお前なら、俺達二人が居れば、誰にも負けないッ! 何だって出来るッ! 姫を打ち倒す事も、奇跡を起こすこともッ! 相棒……お前となら、出来るんだッ!」

「あ、兄貴……」

「さあ、立とうぜ相棒ッ! 俺達は屑なんかじゃないッ! 俺達二人なら、何だって出来る筈さッ!」

「ええ、ええ……ッ!」

 遅れグラサンは涙目になって頷き続ける。

「立ち上がりましょうぜ兄貴ッ! 俺達には、尽きる事の無い、熱い魂があるんですッ!」

「そうだぜ相棒ッ! 奴らに教えてやるんだ……勝利者ってのは、最後に立ち上がる奴なんだとなッ!」

 男二人、今ここに立ち上がるッ……! 己の正義と、己の魂を振りかざしてッ!



『今こそ俺達の魂を燃やしつくす時ッ!』

 ロボットは動きを取り戻し、腕を組んで仁王立ちとなるッ!

 エレナとミズホは呆然と見ていた。うん、まあ放送されっぱなしだがね。

 と言うか、これどっちが主役?

『いったれ相棒ッ!』

『おうよッ! くぅらえ俺等のソウルパワアァァァァァァアァァァアァァァッ!』

 あらん限りの声を上げ、ロボットは高速でタックルを仕掛ける。

 ミズホは両手を突き出し、

「何度やっても」

 それを受け止めるッ!

「同じだよ! 妖精姫のグローブを破れるほどじゃない!」

 衝撃が後ろにはじけ飛び、ミズホは動かない。

 が。

『読めてるんだよ、その抑えの秘密……足元の凍結だぁぁぁッ!』

 声と同時、ずるっとミズホが押される。

「嘘ッ!?」

 ――排気熱!? あのロボット、高熱をこっちに向けて吐き出してる!?

 ミズホの中の瑞穂はそう叫び、急いで意識の操縦桿を握らせてるミズホを下がらせ、自分が代わりに表に立つ。

 同時。

 ミズホ――瑞穂は押し出され、ロボットに吹き飛ばされるも瑞穂は素早く受け身を取り、体勢を立て直す。

『行けるぜ相棒ッ! もっと燃え上がらせるんだ俺達の熱い血潮をッ!』

『合点でさぁッ! もっと激しく燃え上がれ、俺達の熱い魂よッ!』

 男の叫びに合わせ、ロボットから更に激しいパワーが溢れ出す。

「い、一体何処からあんなパワーを!?」

「まるで、気力一つでロボットのパワーが上昇してるみたいだね」

 瑞穂はなんじゃそりゃと言いたげな目線を向かって来るロボットに対して向ける。

『勝てるッ、勝てるッ!』

『行けますぜ兄貴ぃぃぃぃぃぃッ!』

 雄たけびを上げて男達は二人に突進し、対して瑞穂は氷鎚を握りしめて待ち構え――エレナが前に出た。

「エレナさんッ!?」

 瑞穂の声の後、エレナはロボットの突進に連れて行かれる。

 エレナは歯を食いしばってその突進を受け止め、崖に激突する。

『どうした少女よぉッ!? その程度かぁぁッ!?』

 エレナは苦悶を表情に浮かべながら両手首を眼前で交差させる。

 やがて、両手首から放電現象が迸る。

『ん? 何だそれは』

 やがて手が白く輝くとまず右手を自分の鎧に直撃してるロボットの肘の右側に叩き付ける。

 すると装甲は煙を上げ、どろりと溶けて内部に腕がのめり込ませてエネルギー回路を握りしめる。

『は?』

 もう片方も同じ様に発光した左手も左側に叩き付け、装甲を融解させて内部に突っ込み、中のエネルギー回路を握りしめる。

 そしてエレナの腕は尚も輝き始め、腕の電流はより迸り、彼女は叫ぶッ!

「ダァァブルエレクディスチャァァァァァッジッ!」

 瞬間、強烈な電流がロボットの機体内に流し込まれる、いや叩き込まれるッ!

 各回路がイカれそうになる様な電流がッ! ロボットの各回路にッ!

「――っあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ――!!」

 喉の奥から、腹の底から、全てを搾り出すような声を上げ、電流を叩き込む。

 やがてロボットの各所からボンっと装甲が内側から弾け飛ぶ。

『あ、あぢいいいいいいいいいいッ!? や、やめッ!?』

『あ、兄貴ッ! 機能がッ!』

『何のッ! それくらい根性で如何にかしてみせるッ! 言っただろうッ!?

 俺とお前に、出来ないことは無いってよぉぉぉぉぉぉッ!』

「そんな不条理、私がぶっ潰す!」

 真上、瑞穂がドレス姿のまま氷鎚を振り上げ、ロボットのヘッド部分へと叩きつける。

 乾いた音を立て、ロボットは地に叩き付けられる。

『ぬぐわッ!?』

「そんな精神論で、ロボットが強化できれば世話無いよ!」

 瑞穂は再び小さいボタン型の機械を取り出す。

 説明しよう! 彼女が手にしているのはその名も携帯型おきがえ君! おきがえ君の後継機である! おきがえ君とは、内部に特殊異次元空間展開術式を仕込まれた衣服収納ボックスである! と同時に広い着替えスペースを提供してくれる有り難いアイテムだ! その小型化に成功したのがこの携帯型おきがえ君である! 使い方は簡単! 機械の外側に付いてるセットボタンを押してセットダイヤルを回してセットしたい服を浮んだ術式の上に置くだけ! すると術式が服を取り込み、ボタンを押すと瞬時に着ている服とセットした服を取り替えてくれるのだ! 原理は簡単、着用してる人間を非対称にし、その周囲にある物、服だけを取り替えるのだ! 事前に設定調整も加えれば装備品や装飾品は勿論、下着だけ上着だけも変更が可能と何て素晴らしい! 之を使うだけで素早く変身が出来る便利グッズ、それが携帯型おきがえ君だ! ちなみにセットした服を取り出す方法は簡単! 着た服を脱げば良いだけ! そう、服を着て無くても装置が使えるのがこのマシンの良い所! (ちなみにセットダイヤルを既に服をセットしたダイヤルに合わせてセットボタンをおしても取り出せるよ) この便利グッズ、お値段税込み価格で3,990enぽっきり! 各コンビニで販売中! 商品へのお問い合わせは株式会社ラケッツグレートまでご連絡を!

 と言うことで瑞穂はスイッチを押して元の服に戻した。

 直後、エレナも腕を引っこ抜き、脱出、瑞穂の隣へと立つ。

『ぬおおおおおおおおおおおおうッ! まだだぁッ! まぁぁだ終わってはいないッ!』

 もう見た目はぼろぼろだが、それでも悠然と立ち上がるロボット。

『俺達は、負けねぇ……相棒と、俺が居る限り、負けはしないぃぃぃぃぃッ!』

『そうですぜ兄貴ッ! 俺達に負け何て相応しくねえッ! 勝利だッ! それだけが俺達の飢えを潤すんだッ!』

『負けないッ! 絶対にッ!』

「五月蠅い盗人が! カッコいい事言う前にデータを返せ!」

「と言うかさ、精神論でロボットが強くなる訳が無いんだけど……」

 瑞穂よ、時にはそう言うことだってあるんだぜ。

 ロボットはブースターから火を吹いて二人に向けて突進する。

 それしかないのか。

「いい加減、ワンパターン過ぎる!」

 瑞穂は無言で、エレナはもう何度見た攻撃をかわす。

 ロボットは地に足を付けて無理やり停止し、向き直って尚もう一度突進を仕掛ける。

『いっくぜ相棒ぉぉぉおおおおおおおおッ!』

『おうともよッ! 行きますぜ兄貴ぃッ! 電光よりも速くッ!』

『氷雪よりも鋭くッ! 相棒ッ、一気にッ!』

『ぶち抜けええええええええええええええええええええッッ!!』

 タイトル言うのお前らかよ!?

 ロボットはオーラを纏い、二人に突っ込むッ! パイロットの熱き魂を機体に秘めてッ!

 そんな特攻するロボットを! 瑞穂さんは氷鎚で打ち返しました。 ドッガンガッシャンとか音を立て地面を転がるロボット! そして立ち上がる! もう色々ボロボロだけど! ボロボロだけど! 大事な事なので二度言いました。

『負けねぇ……俺達は負けねぇ……ッ!』

『今まで負ける事は無かったけど、勝つ事も無かった……そんな人生だった……だからこそッ!』

『誰かに顔向け出来る様な、自慢出来る様な人生でも無かったが……それでもなぁッ!』

 やってる事ただの強盗ですもんねえ。

『意地ってもんがッ!』

『俺達にはあるッ! いっくぜぇぇぇッ!』

 ロボットは立ち上がり、また突進を始める。

 瑞穂は棒立ち状態で見ながら(あーもーどうしたもんかな)とか考え始める。

 だがその時、エレナは此処で一歩前に出るッ!

「いい加減にしろ……」

 体から迸る電気、パリパリ音を響かせる電流ッ! 空けた掌へと飛んで来る一つの棒。それにもう二つの棒が、合体ッ!

「データ返せと、言っているんだよッ! 雷迅一閃ッ!」

 合体した棒を一払いすると棒は電刃の戦斧に、エレナは黄金のオーラを纏うッ!

 より一層激しい電流を身に纏い、エレナは突撃するロボット目掛けて突進を仕掛ける。

 ――その速さ、正しく雷光。光と一体となり、敵をぶち抜くッ!

「エ、エレナさん!?」

 瑞穂はふと思う。彼女は時間を経るごとに視力が消え失せている事を。

 あんな風に魔法を使っていては、余計に視力が無くなるのでは、と。

 エレナはそんな事に構う事なくロボットに向かって突っ込むッ!

 しかしロボットは拳を前に突き出してエレナを殴りつけたッ!

 だがエレナは動かず、それを戦斧で受け止め、尚も突き出るッ!

 ロボットの腕も突き抜けてッ! 電刃戦斧を頭上でぶん回しッ!

「でえぇぇぇぇぇっりゃぁぁッ!」 

 胸部、一閃ッ!

 閃く斬線が、コックピット内をむき出しにするッ!

 眼が合う。殺意を秘めたエレナの眼と、熱き魂を尚も燃やし続けるインメガの眼がッ!

 更にエレナはふっと消え、ロボットの背後へと姿を見せる。

 瞬間、ロボットの各所から電光の一撃が迸るッ! そして悟るのだ、消えたのではなくて、超高速の一撃を各所に叩きこんだのだとッ!

「あ、兄貴ぃッ! 各機関に異常がッ! このままだと機能停止にッ!」

 マイク音声が壊れたのか、コックピットから外が見える様になった為か、肉声がそのまま外へと響く。

「だが、まだだッ! 俺が作り上げた作品はそう易々と」

 壊れます。と言わんばかりに片膝が切断されて崩壊を始め――元に戻るッ!

 壊れ、切断され、砕かれた部品が巻き戻しの様に戻って行くッ!

 走って追って来た瑞穂はその様子を驚きながら見ていた。

「な、何でッ!?」

「電磁力だッ!」

「な、何ぃぃぃぃッ!?」

 流石に瑞穂は驚いた。と言うか幾らなんでも万能過ぎるだろ電磁力。

「このロボット、再構築の術式を仕込んで、更にあの眼鏡が電磁力の術式を使って無理やり部品を元に戻してる! 本当にしつこい!」

「……ねえ、本当に何であの二人は盗人を……?」

 本作永遠の謎である。

「教えてやろう、漆黒の氷姫。

 それはッ! この研究データは、俺にとっては未知のデータッ! これを手にし、解析する事で、俺達は更なる進歩を遂げるだろうからだッ!」

 え、言うの? チッ。

 再び元に戻ったロボットは二人に向き直る。

 エレナが叩き込んだ亀裂からコックピットが見える。インメガはロボット内部の電線やらを体に巻き付け、電気を発し続けていた。

 そう、今彼はこのロボットのエネルギー源となったのだ。

「これも長くは持たん、行くぞ相棒ッ!」

「合点承知でさぁ兄貴ィィィッ!」

「いっくぜぇぇぇぇ俺の勇気とど根性にッ!」

「俺の燃え上がる魂と鋼鉄の根性があればッ!」

「絶 対 無 敵 ッ! いっけええええええええええええええええッッ!!」

「瑞穂!」

「うん!」

 ロボットは拳を構えて突進をし、瑞穂とエレナは各々の武器を持って駆け出す。

 瑞穂は氷鎚を、エレナは戦斧を。

 そして――激突し、爆発にも似た衝撃が迸るッ!



 響き渡る手拍子――いや、テンポの遅い拍手一人分。

「いやあ、素晴らしい余興であった」



 瑞穂が氷鎚の軌道を一瞬で変更し、エレナに当てて二人の間を裂く様に光が降り立ち、粉塵を巻き上げる。

 ちなみにロボットにはあちこち直撃。

 そしてついにロボット大爆発!

「あ」

 エレナは見る。

 爆発に巻き込まれて飛び出たケース。そう、研究データの入ったケースが――光に飲まれて塵となる。

「あ」

 その様子を瑞穂も見た。

 あーあーでもーでもーケースが壊れて中身が無傷で出て来たーわーやったーラッキー!

 とか思ってたら止めの光が降りて。

「ああーッ!!」

 研究データ、ご臨終!



 To Be Continued……

 此処まで読んだ勇者よ。お主に気持ちだけサイダーを奢ろう。

 今私の脳内で此処まで読んだ読者達にぐびぐびとサイダーを飲ませている。

 嫌い? そんな叫びを聞くと思うかね諸君?

 次話の更新は神剣の舞手更新後を予定している。

 では、またー。

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