第9話:『魔王軍四天王? 役職名が抽象的すぎる。業務分掌を明確にしろ。』
急速に発展する地下都市。
それを脅威に感じた魔王軍が、四天王の一人を送り込んできます。
「我こそは魔王軍四天王が一人! 『灼熱のヴォルカン』なり!」
都市の正門前で、全身から炎を噴き出す巨漢が叫んでいた。
周囲の温度が急上昇する。本来なら絶望的な状況だ。
だが、正門の受付に座るゴブリン事務官は、眉一つ動かさなかった。
「……えーっと、アポイントメントは?」
「は? あぽ……?」
「入国申請書はお持ちですか? 危険物(その炎)持ち込みの許可証は?」
「うるさい! 我はこの国を焼き尽くしに来たのだ!」
ヴォルカンが炎の拳を振り上げる。
その瞬間、俺がヌッと現れた。
『騒々しい。業務妨害だぞ』
「貴様がこの国の主か! 燃え尽きろ!」
轟音と共に放たれた獄炎。
だが、俺は【管理者権限】で、その炎の「属性定義」をいじった。
*Change_Attribute (Fire -> Heat_Source);*
炎は攻撃判定を失い、ただの「すごく温かい熱源」に変わった。
ヴォルカンの拳が俺に触れるが、ポヨンと弾かれる。
「な、なんだ!? 我が炎が効かぬ!?」
『熱力学的には優秀だな。その熱量、捨てるには惜しい』
俺はヴォルカンの周りをくるくると回りながら査定した。
『採用だ』
「は?」
『我が国の焼却炉および火力発電部門のヘッドハンティングだ。四天王なんて曖昧な役職より、エネルギー管理部長の方がやり甲斐があるぞ。給与は魔鉱石現物支給。福利厚生完備だ』
「な、何を言って……」
『ゴブ爺、雇用契約書を』
横からサッと書類が出てくる。
俺はヴォルカンの腕を取り、無理やり拇印を押させた。
「あ」
『契約成立だ。明日から焼却炉で働け。その熱があれば、都市全体の暖房も賄える』
呆然とするヴォルカン。
しかし、その後の彼は「自分の炎が誰かの役に立つ」喜びに目覚め、魔王軍時代より遥かに生き生きと働き始めた。
魔王軍の幹部すら、適材適所で再就職させてしまいました。
「四天王」より「エネルギー管理部長」の方が、確かに聞こえは良いかもしれません。
次回、建国編完結。そして現世へ。




