第7話:『村作り? まずは都市計画法と建築基準法を守れ。』
ゴブリンたちを正座させたスライム(ソラ)。
彼らが案内した「村」は、あまりにもお粗末なものでした。
ゴブリンたちの案内で、俺は洞窟の奥にある「集落」へと向かった。
だが、そこにあったのは惨状だった。
腐った木材を立てかけただけの掘っ立て小屋。垂れ流しの汚水。ハエがたかる食料庫。
『……解体だ』
「へ?」
案内役の老ゴブリン(ゴブ爺)が呆けた声を出す。
『建築基準法違反だ。耐震構造になっていない。震度3で倒壊するぞ。それに、この排水システムはどうなっている? コレラが蔓延するぞ』
「け、建築きじゅん……? しかしスライム様、我々には技術も道具も……」
『道具がないなら、知恵を使え。魔力を使え』
俺は【管理者権限】を発動し、地面に青く光るグリッド線(設計図)を展開した。
『区画整理を行う。居住区、商業区、そして廃棄物処理施設を分ける。まずは上下水道の整備からだ。川の水をろ過する魔法陣を、あそこの岩盤に刻め』
俺の指示は絶対だ。
ゴブリンたちは泣きながら、しかし強制力によってテキパキと働き始めた。
土魔法を使える個体には基礎工事を、火魔法を使える個体にはレンガの焼成を命じる。
「す、すごい……! ただの泥が、硬いブロックに!」
ゴブ爺が感動している。
俺は彼を見据えた(目はないが)。
『爺さん。お前には「戸籍管理」を任せる』
「コセキ……ですか?」
『そうだ。誰がどこに住み、何のスキルを持っているかリスト化しろ。労働力の適正配置を行う。……手書きでいい、フォーマットはこれだ』
俺は脳内のExcelシートを念写して渡した。
ゴブ爺の目の色が変わった。
彼は震える手で羊皮紙を受け取ると、背筋をピンと伸ばした。
「……承知いたしました。このゴブ・ロウ、命に代えてもこの帳簿を守り抜きます」
数日後。
そこには、整然と区画整理され、石畳が敷き詰められた「近代的地下都市」が爆誕していた。
ゴブ爺は丸メガネ(俺がガラス生成で作った)をかけ、冷徹な事務官へと進化していた。
「おい、B区画の工期が遅れているぞ。進捗報告書を出せ」
「ひぃぃ! ゴブ宰相、厳しい!」
……うむ。
やはり組織は、管理システムさえしっかりしていれば回るものだ。
ゴブリンの村が、数日で近代都市へ。
ゴブ爺が敏腕官僚になってしまいました。
次回、スライムといえば「捕食」?
いいえ、編集長はそんな野蛮なことはしません。




