第5話:『銅像を建てる予算があるなら、図書室の蔵書を増やせ。』
第1章、最終話です。
編集長の「リテイク」が完了した学園の姿と、現世への帰還を描きます。
それから数日(現世時間で数分)。 俺の意図とは裏腹に、魔法学園は変貌を遂げていた。
「詠唱破棄!」 「座標固定、展開!」
中庭では、生徒たちがブツブツと数式を呟きながら、無駄のない魔法を撃ち合っている。 チャラチャラした貴族の装飾は消え、全員が動きやすいジャージのようなローブを着て、手には杖ではなく「計算尺」を持っていた。 まるで理系の研究室だ。
「……どうしてこうなった」
俺は校長室の窓からその光景を見下ろしていた。 隣には、ジャージ姿のエレオノーラがいる。
「全てお師匠様のおかげですわ。我が校の魔法発動速度は、他国の軍隊の三百倍に達しました。これでもう、どこの国も攻め込んで来れません!」 「過剰戦力だ。抑止力のラインを超えている」
俺が頭を抱えていると、中庭に巨大な石像が運び込まれているのが見えた。 眼鏡をかけ、赤ペンを構えた男の像。……俺だ。
「な、なんだあれは」 「『魔法工学の父、ソラ・アゼクラ像』ですわ! 全生徒の寄付で建てましたの!」
俺の血管がキレた。
「撤去しろ! 銅像なんて維持費の無駄だ! その金で専門書を買え! サーバー(魔力貯蔵庫)を増設しろ!」 「きゃあ! また叱られましたわ! もっと予算を効率的に使えとのお達しよ!」
生徒たちが歓声を上げる。 ダメだ。こいつら、俺の言葉を全て好意的に解釈するバグが発生している。
これ以上ここにいたら、俺は「学園長」どころか「魔法王」にされてしまう。 修正は完了した。もう十分だろう。
「……神よ(エディット)。回収しろ。これ以上は付き合いきれん」
俺が天を仰いだ瞬間、身体が光に包まれた。 生徒たちの「行かないでくださいお師匠様ー!」という絶叫が遠ざかっていく。
◇
「ぶはっ」
次の瞬間、俺は会議室の床で大きく息を吸い込んだ。 静寂。冷たい空調の風。 戻ってきた。
「……はぁ、はぁ」
時計を見る。深夜二時五分。 向こうで数週間過ごした気がするが、たったの五分しか経っていない。
「部長、大丈夫ですか!?」
ドアが開き、部下の田中が飛び込んできた。 忘れ物でも取りに来たのか。
「……ああ、田中か。少し目眩がしただけだ」 「やっぱり働きすぎですよ! ……あれ? 部長、なんか顔色良くないですか? 肌ツヤっとしてるような」 「……異世界の食事は、添加物が少なかったからな」 「へ?」
俺は立ち上がり、スーツの埃を払った。 手には、使い切った赤ボールペンが握られている。
「田中。この『学園モノ』の原稿、ボツだ」 「ええっ!? さっきまで『惜しい』って言ってたじゃないですか!」 「リアリティがない。魔法の体系が雑すぎる。……書き直し(リテイク)だと伝えてくれ」
俺はニヤリと笑い、新しいボールペンを取り出した。
「さて、仕事に戻るか。……現世のな」
(第1章 完)
第1章「魔法学園・劣等生編」、完結です!
お読みいただきありがとうございました。
仕事を終えて、無事に(?)現世の会議室に戻ってこれました。
やはりラストは「現世オチ」で締めたいと思います。
さて、次回からは**【第2章:スライム転生・建国編】**がスタートします!
給湯室でコーヒーを淹れていたら、まさかのスライム転生。
「捕食」も「進化」も拒否して、最強の官僚国家を作り上げます。
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