第39話:『神(エディット)の介入。この世界は「ヌルすぎる」だと?』
転移した先は、第1話の冒頭で訪れた「神界(編集部)」。
エディットは、スナック菓子を食べながらモニターを見ていました。
「おかえりー。いやー、あの『生活魔法』の世界さぁ、ヌルすぎない?」
エディットはモニターに映る健太の日常を指差して笑った。
「危機感ゼロじゃん。やっぱさ、魔王軍を出現させるとか、ヒロインを人質に取るとかしないと、エンタメとして成立しないでしょ。……だから、あの世界は削除して、作り直そうと思うんだ」
エディットの指が、キーボードの『Delete』キーに伸びる。
それを押せば、健太も、ヒロインも、あの平和なアパートも消滅する。
俺の中で、何かが切れた。
「……ふざけるな」
俺はエディットの手首を掴み、捻り上げた。
「いっ!? な、なにすんのソラっち!」
「ヌルい? 退屈? ……それがどうした」
俺は鬼の形相で神を睨みつけた。
「現代人がどれだけ疲弊しているか知っているのか? 満員電車、理不尽な上司、将来への不安……。現実は『ハードモード』なんだよ!」
「だ、だからこそ、物語でスリルを……」
「違う! 疲れた心に必要なのは、スリルじゃない。『安心』だ!」
俺はモニターの健太を指差した。
「彼は誰も傷つけない。誰も不幸にしない。ただ淡々とゴミを掃除し、人を癒やし、美味いコーヒーを淹れる。……この『ストレスフリー』こそが、現代人が求めた究極の救い(エンタメ)なんだよ!」
「で、でも、それじゃ物語の起承転結が……」
「黙れ三流神! お前の作る『雑な鬱展開』より、彼の作る『完璧なご都合主義』の方が、よほど読者に寄り添っている!」
俺は叫んだ。
かつて俺は、ご都合主義を否定した。
だが、健太の世界を見て知った。
「論理」でガチガチに固めた世界だけが正解じゃない。「優しさ」で構成された世界があってもいい。
「その世界に手出しはさせん。……俺が、担当編集者としてボツを出す!」
かつて異世界を否定していたソラが、今は「ストレスフリーな異世界」を肯定し、守ろうとしています。
論理を超えた、感情の弁論。
次回、最終話。
神様を論破し、日常へ。




