第32話:『勇者よ、魔王を倒した後の経済損失を計算したか?』
決戦の場にパジャマ男が乱入。
ソラはホワイトボード(魔法生成)を取り出し、勇者と魔王に「戦争の不経済さ」をプレゼンし始めます。
「どけ、パジャマ男! 俺は魔王を倒して世界を平和にするんだ!」
勇者が聖剣を構える。
俺はあくびを噛み殺しながら、ホワイトボードにマーカーを走らせた。
「平和、結構だ。だが勇者よ。魔王を倒した後、この魔王領の経済圏はどうなる?」
「は? そんなの知らねえよ。滅びるんだろ?」
「滅びる? バカを言え」
俺は地図を描いた。
「魔族の人口はおよそ五百万人。魔王という統率者を失えば、彼らは難民化し、周辺諸国に流れる。食料危機、治安悪化、そして新たなテロの発生。……その復興支援コスト、誰が払うんだ? お前の国にか払えるのか?」
「うっ……それは……」
「一方、魔王」
俺は玉座の魔王に向き直った。
「貴様の世界征服計画も杜撰だ。人間を滅ぼして、誰が農作物を作る? 魔界の土壌じゃ芋ひとつ育たないだろう。人間を生かして搾取するにしても、反乱分子の鎮圧コストで赤字だ。損益分岐点を計算したのか?」
「ぐぬぬ……確かに、最近は軍事費が圧迫して……」
魔王が頭を抱える。
図星らしい。どっちも勢いだけで戦争をしている。典型的な自転車操業だ。
「いいか。戦争はコスパが悪い。一番儲かるのは『経済支配』だ」
俺はボードに大きく『株式会社 世界』と書いた。
「魔王軍の軍事力(武力)と、人間界の生産力(食料)。これを争わせるのではなく、融合させる。……貿易だ」
「「貿易……?」」
「そうだ。魔王は希少金属を人間に輸出し、人間は食料を魔族に輸出する。関税撤廃。相互不可侵条約。……これだけで、双方が今の倍以上の利益を得られる」
俺は二人の顔を交互に見た。
「殺し合ってジリ貧になるか、手を組んでボロ儲けするか。……経営者として賢明な判断をしろ」
戦争を「コスト」で切る。
ファンタジーのロマンはありませんが、説得力は抜群です。
次回、魔王と勇者が手を組み、最強の企業が誕生します。




