第28話:『魔女よ、お前のシナリオは穴だらけだ。』
死に戻りさせるために罠を張り巡らせた黒幕。
しかし、ソラは一度も死なずに最深部へ到達してしまいます。
時計塔の最上階。
巨大な歯車が回る薄暗い部屋に、一人の女がいた。
漆黒のドレス。長い銀髪。退廃的な美しさを持つ**「黄昏の魔女」クロノア**。
彼女は水晶玉を覗き込み、爪を噛んでいた。
「な、なぜ死なないの……? あり得ないわ」
彼女のシナリオでは、異世界人はもう百回は死んで、心を壊しているはずだった。
なのに、この眼鏡の男は、まるで散歩でもするかのように全ての罠をすり抜け、ここまで登ってきた。
ギィィ……。
重厚な扉が開く。
息一つ切らしていない男――校倉青空が入ってきた。
「よう。ここがプロジェクトルームか?」
「き、貴様……何者だ!?」
クロノアが立ち上がり、暗黒魔法を構える。
「なぜ死なない! 私の『運命操作』は絶対のはず! 貴様がどのルートを選ぼうと、絶望の結末が待っているはずなのに!」
「運命操作? ああ、あの穴だらけのプロットのことか」
ソラは呆れたように肩をすくめた。
彼は懐から、赤字だらけの紙束(と見える魔法データ)を取り出した。
「拝見させてもらったよ、君の書いたシナリオ(運命)を。……ひどい出来だ」
「なっ……!?」
「まず、死因のバリエーションが貧困だ。刺殺、圧死、毒殺……安直すぎる。読者への配慮が足りない。もっとこう、心理的な葛藤とか、逃れられないカルマとかを描けないのか?」
「う、うるさい!」
クロノアが魔法を放つ。漆黒の雷。
だが、ソラは動かない。
雷はソラの鼻先で直角に曲がり、避雷針へと吸い込まれた。
「それに、ここ。18:00の『大爆発イベント』。これ、前のイベントとの整合性が取れてないぞ。爆薬の設置時間が足りない。物理的に不可能だ」
ソラは攻撃を無視し、淡々とダメ出しを続ける。
「伏線回収も雑だ。このループの目的は何だ? ただ主人公をいじめたいだけか? 動機が不明瞭だ。これでは感情移入できない」
ズカズカと歩み寄ってくるソラ。
魔女クロノアは、後ずさった。
魔法が通じない恐怖よりも、自分の作品(計画)をボロクソに酷評される精神的ダメージの方が大きかった。
「や、やめろ……私の完璧なシナリオを……!」
「完璧? 笑わせるな。バグだらけの欠陥品だ。……リテイクだ。最初から書き直せ」
ソラがクロノアの目の前まで迫る。
その眼鏡の奥の瞳は、魔王よりも恐ろしい「編集者」の光を放っていた。
魔女の攻撃を「設定の矛盾」として無効化し、シナリオのダメ出しをする編集長。
クリエイター(魔女)にとって、これほど恐ろしい敵はいません。
次回、魔女が泣きます。




