第26話:『残業コピー機からループ世界へ。手戻りは一番の無駄だ。』
第6章は、鬱展開の定番「死に戻り(ループ)」の世界へ。
残業中、コピー機の光に包まれた編集長を待っていたのは、理不尽な「即死」でした。
深夜のオフィス。時刻は午前三時。
俺、校倉青空は、複合機の前で立ち尽くしていた。
「……紙詰まりか。またか」
会議資料の印刷中にエラー音。
疲れた目を擦りながら、トレイを開けて詰まった用紙を引き抜く。
その時、コピー機のスキャン部分から、強烈な光が漏れ出した。
「おいおい、レーザーの故障か? 勘弁してくれ、修理業者を呼ぶ時間は……」
文句を言う間もなく、俺の視界は真っ白に染まった。
トナーの焼ける匂いが、鉄錆と血の匂いに変わる。
◇
気がつくと、俺は石畳の広場に立っていた。
夕暮れ時。鐘の音がゴーン、ゴーンと鳴り響いている。
中世ヨーロッパ風の街並み。だが、空気が重い。通行人たちの顔は暗く、絶望に満ちている。
「……ハイファンタジーか。雰囲気は悪くない」
俺はスーツの襟を直し、状況把握のために歩き出した。
まずは情報収集だ。近くの酒場にでも――。
**ドスッ。**
背中に、熱い衝撃が走った。
痛覚が遅れてやってくる。焼けるような痛み。
口からゴボリと血が溢れた。
「……は?」
振り返ると、黒いローブの男が、血濡れのナイフを持って立っていた。
通り魔? いや、目が虚ろだ。操られている?
「死ね……運命を変える者は……死ね……」
「り、理不尽……すぎる……だろ……」
俺は石畳に倒れ込んだ。
視界が暗転する。意識が消える。
ああ、これが死か。転生早々、何もできずに終了とは。とんだクソゲーだ……。
◇
ハッ! と息を吸い込む。
目を開けると、俺は立っていた。
夕暮れ時。鐘の音がゴーン、ゴーンと鳴り響いている。
石畳の広場。
「……戻っている?」
俺は背中を触った。傷はない。痛みもない。
だが、記憶はある。刺された感触も、血の味も。
俺は腕時計を見た。さっき確認した時刻と同じだ。
「……なるほど。いわゆる『死に戻り』か」
死をトリガーにして時間を巻き戻す。
主人公に何度も絶望を味わわせ、試行錯誤(トライ&エラー)させる人気ジャンルだ。
だが。
「ふざけるな」
俺は激怒した。恐怖ではない。怒りだ。
「やり直し(リテイク)だと? 一度進んだ工程を、最初からやり直すことの損失を分かっているのか!」
手戻り。
それはプロジェクト進行において、最も忌むべき事態だ。
死んで覚える? 非効率極まりない。なぜ事前にリスクヘッジしない。なぜ一発でクリアできる計画を立てない。
俺の編集者としてのプライドが、この「死にゲー」のシステムそのものを否定した。
「いいだろう。二度目の死はない。……このふざけたループ、最短工数で終わらせてやる」
お読みいただきありがとうございます!
転移していきなりの死亡。そしてループ。
普通なら絶望する状況ですが、進捗管理の鬼である編集長にとっては「無駄な工数」でしかありません。
次回、ソラが取り出したのは武器ではなく「工程表」です。




