第25話:『理事長就任は断る。トイレに戻らせてくれ。』
英雄扱いされるソラですが、彼にとって重要なのは「この後の接待」です。
すべてのオファーを蹴って、トイレへ戻ります。
「ちょ、長官!? どこへ行かれるのですか!?」
会議室を出ていく俺を、官僚たちが追いかけてくる。
「私の仕事は終わりました。あとはこのマニュアル通りに運用してください」
「そんな! 貴方がいなくては!」
「組織は属人化してはいけない。誰がやっても回るのが、優れたシステムです」
俺はカッコいいことを言ったが、内心は焦っていた。
やばい。体感で三日経っている。
現世では数分〜数十分のズレかもしれないが、トイレにしては長すぎる。
「神! 帰還申請だ! 急げ!」
心の中で叫ぶ。
足元が光り始める。
「ああっ! 長官が光に!」
「神々しい……やはり神の使いだったのか……!」
俺は拝まれながら、官庁街の中心で粒子となって消えた。
◇
静寂。水の流れる音。
俺は料亭のトイレの個室に立っていた。
ドアノブを握った体勢のままだ。
「……戻った」
俺は慌ててスマホを見る。
圏外表示が消え、4Gに戻っている。
時間は――退席してから「十五分」が経過していた。
「十五分……ギリギリ、か?」
いや、長い。接待中のトイレとしては致命的に長い。
俺は冷や汗を拭い、鏡で身だしなみをチェックした。
異世界での疲労は見えない。むしろ、三日間健康的な食事と睡眠(官庁での仮眠)をとったせいで、肌ツヤがいい。
個室を出て、小走りで座敷へ戻る。
「申し訳ありません! 少し腹の調子が……」
俺が襖を開けると、そこには冷めきった料理と、不機嫌そうなプロデューサーの顔があった。
「校倉さん。随分と長い『少し』ですねぇ」
「はは……申し訳ありません」
「まさか、他社の接待の電話でもしていたんじゃないでしょうね?」
疑いの眼差し。
違う。俺は異世界で日本の安全を守っていたんだ。
だが、そんな言い訳が通じるはずもない。
「い、いえ! 決してそのような! さあ、飲みましょう!」
俺は必死に酌をした。
ダンジョンのミノタウロスより、酔っ払った業界人の方が遥かに対処が難しい。
俺は心の中で泣きながら、ぬるくなったビールを飲み干した。
――後日。
SNSで「トイレから戻ってきた編集長の顔が、なんか悟りを開いていた」と作家がつぶやいていたのを、俺は見なかったことにした。
(第5章 完)
お疲れ様でした! 第5章「現代ダンジョン編」、完結です。
国の英雄になっても、現世に戻ればただの中間管理職。
15分のトイレ離席を詰問される哀愁。これぞサラリーマンです。
次回、第6章は「死に戻り・ループ編」。
コピー機から転移した先は、終わらない「やり直し(リテイク)」の世界。
進行管理の鬼が、運命のスケジュール表を書き換えます。
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