第23話:『バズるな。コンプラ違反で通報するぞ。』
ミノタウロスを説教(物理的な結界付き)で追い払ったソラ。
配信の同接数はうなぎ登り。しかしソラはカメラに向かっても容赦しません。
ミノタウロスは「なんかヤバい奴がいる」という顔をして逃げ去った。
俺は息を整え、ネクタイを締め直した。
足元では、KEN-CHANが腰を抜かして震えている。
「……立てるか」
「あ、はい……助かりました……」
「なら、さっさと帰るぞ。ここは素人の遊び場じゃない」
俺はカメラマンに向き直った。
まだ撮影を続けている。同接数は50万人を超えていた。
「おい、そのカメラを切れ」
「えっ、でも今すごい数字が……」
「切・れ」
俺はレンズを指差し、視聴者に向かって宣言した。
「見ている君たちもだ。彼が死にかけた時、君たちは何をした? 『逃げろ』と言ったか? それとも『もっとやれ』と煽ったか?」
コメントがピタリと止まる。
「彼が死ねば、君たちは殺人の共犯だ。安全な場所から人の命を消費するな。……これ以上このチャンネルが危険行為を続けるなら、プラットフォーム運営に通報し、BAN(アカウント停止)させる。以上だ」
ブツン。
俺は強制的に配信を切らせた。
廃墟に静寂が戻る。
「……あーあ、終わっちゃった」
KEN-CHANが力なく呟いた。
「これでもう、俺オワコンかな……」
「死ぬよりマシだ。……それに、終わってなんかいない」
俺はスマホを取り出し(まだ圏外だが)、メモアプリを開いて見せた。
「君の配信スキルと度胸は認める。だが、コンテンツの方向性が間違っている。これからは『危険』を売るな。『安全』を売れ」
「安全……?」
「そうだ。俺がこのダンジョンの『絶対安全ルート』と『魔物対処マニュアル』を作る。君はそれを実演し、解説する動画を作れ。『誰でも安全に帰れるダンジョン攻略』だ。これなら主婦層や子供にも需要がある」
俺の提案に、KEN-CHANの目が輝き始めた。
「そ、それだ! 『セーフティ・ダンジョン』! 新しいジャンルだ!」
「稼いだ金で、まずはちゃんとした装備を買え。ヘルメットは必須だ。いいな?」
彼は何度も頷いた。
こうして、一人の迷惑系配信者が更生した。
だが、俺の説教動画の切り抜きが拡散され、SNSで「謎のコンプラおじさん」「守護神部長」としてトレンド入りしていることを、俺はまだ知らなかった。
「危険」ではなく「安全」をコンテンツにする。
編集長らしいプロデュースで、若者の命と将来を救いました。
しかし、SNSでの拡散力は凄まじく、ついに「国」が動き出します。
次回、おっさん、政府に拉致される。




