第22話:『ヘルメット未着用、命綱なし。労災認定降りないぞ。』
「空気読めない」と煽ってくる配信者KEN-CHAN。
彼は再生回数を稼ぐため、視聴者のコメントに煽られて危険なエリアへ足を踏み入れます。
「じゃあ今日は特別企画! この奥にいる『ミノタウロス』に、生身でタッチしてみた! いっくぞー!」
KEN-CHANは俺を無視し、立入禁止のテープが貼られたエリアへ走っていった。
コメント欄が加速する。
『マジで行くのかw』『死ぬぞw』『勇者www』。
無責任な野次馬たち。彼らは画面の向こうで、人の死をエンタメとして消費しようとしている。
「……待てバカ者!」
俺は革靴で廃墟の床を蹴った。
その瞬間、奥から重低音の咆哮が轟いた。
巨大な牛頭の怪物、ミノタウロスが現れる。手には巨大な斧。
「うおおお! 出たぁ! デカすぎワロタ!」
KEN-CHANは怯むどころか、さらに近づいてスマホを向ける。
怪物が斧を振り上げた。
届く。死ぬ。
「あ」
若者の顔が引きつる。死の恐怖を認識した時には、もう遅い。
斧が振り下ろされる――その軌道上に、俺は滑り込んだ。
「神! 【安全管理】権限行使!」
**ガギィィィン!!**
轟音。しかし、痛みはない。
俺の頭上に展開された、半透明の緑色の障壁――『安全第一』と書かれた工事現場のフェンスのような結界が、ミノタウロスの剛腕を受け止めていた。
「へ……?」
KEN-CHANが尻餅をつく。
俺は結界越しに怪物を睨みつけながら、怒鳴った。
「ヒヤリハットで済むと思うなよ!」
俺は若者の首根っこを掴んで引きずり倒した。
「安全帯はどうした! ヘルメットは! 退避ルートの確認はしたのか! お前の命は、再生回数よりも軽いのか!」
「い、いや、これは演出で……」
「演出なら安全対策を張れ! プロのスタントマンだって命綱はつける! 素人がノリで死にに行くのは『冒険』じゃない、『自殺志願』だ!」
俺の説教は止まらない。
ミノタウロスが再び斧を振るうが、俺のスキル**『完全危機管理』**が自動発動し、全ての攻撃を「労働災害」として未然に防ぐ(弾く)。
「う、嘘だろ……ミノタウロスの攻撃を、説教しながら防いでる……?」
カメラマンが震える手でその光景を映していた。
スマホの画面を見ると、コメントの流れが変わっていた。
『おっさんTUEEEE!』
『何この結界www「安全第一」って書いてあるぞww』
『説教がガチすぎて草』
『この人、本物のプロじゃね?』
俺はミノタウロスの鼻先に指を突きつけ、「お前もだ! 凶器を持って歩き回るな! 銃刀法違反だ!」と怒鳴りつけた。
怪物は気圧され、ジリジリと後退り始めた。
おっさんのガチ説教、配信に乗る。
命懸けの現場で「安全確認」を連呼する姿が、逆に視聴者にウケてしまいました。
次回、炎上系配信者改め、安全啓蒙系配信者の誕生です。




