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ご都合主義について物申す。〜敏腕編集長は異世界出張(リテイク)で忙しい〜  作者: かるびの飼い主
第1章:実力を隠す生徒は自意識過剰だから嫌いだ。

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第2話:『重厚なハイファンタジーに、安っぽいUIを混ぜるな。』

いよいよ異世界(出張先)に到着しました。 編集長の最初の仕事は「世界観の統一」です。


 落下感の後、俺の両足は硬い石畳を踏みしめていた。  冷たい空気。カビと埃、そして微かな鉄の錆びた匂い。


「……ほう」


 俺は目を開き、周囲を見渡した。  薄暗い回廊。壁は切り出された巨石で組まれ、松明の頼りない明かりが揺れている。  安っぽいRPG風の書き割りではない。石の重み、経年劣化によるひび割れ、湿気。ここには「千年の歴史」がある。


「素晴らしい……」


 俺は思わず壁を指でなぞった。  この質感。この空気感。ここは、本物の**『ハイファンタジー』**の世界だ。  魔法が単なる便利ツールではなく、畏怖すべき神秘として扱われている時代の空気がある。  これなら、物語に没入できる。あのチャラい神にしては、良い舞台セットを用意したじゃないか。


「さて、まずは状況確認を――」


 俺が一歩踏み出した、その時だった。


 ピロリン♪


 間の抜けた電子音が鳴り響き、俺の目の前に半透明の青い板が出現した。


【ステータスを表示します】 名前:ソラ・アゼクラ 職業:劣等生(魔力なし) 魔力:0 / 9999 スキル:なし


 ……は?


 俺は凍りついた。  石造りの重厚な回廊。松明の揺らめき。  その神聖な世界観のど真ん中に、初期のガラケーのようなドット文字のウィンドウが浮いている。  フォントはデフォルトのゴシック体。デザインセンスの欠片もない、蛍光色のブルー。


「……台無しだ」


 ギリリ、と奥歯が鳴る。


「なんだこのUIユーザーインターフェースは……! 世界観(トーン&マナー)を合わせろ! 中世風の世界に、なぜデジタルなウィンドウが出る!? 没入感が死んでいるだろうがッ!!」


 俺は虚空に向かって怒鳴り散らした。  設定がどうこう以前に、美意識が許さない。こんな異物が視界にある状態で生活などできるか。


「消えろ。非表示設定はどこだ」


 俺がウィンドウを払いのけようと手を振ると、ウィンドウの裏側に、奇妙な**「文字列」**が見えた。  それは、この世界の空気に溶け込むように流れる、金色の数式だった。


『if (magic_power == 0) then display_status("劣等生");』


「……ソースコード?」


 俺は眼鏡の位置を直した。  見える。壁の向こう、松明の炎の中、そして俺自身の身体にも。  この世界を構成する「ことわり」が、まるでプログラム言語のように記述されている。


 これが、あの神が言っていた俺の権限か。  俺は指先で、空中の文字列をつまみ上げた。


「……なるほど。この青いウィンドウは、このコードで強制表示されているのか。美しくない」


 俺は懐から愛用の赤ボールペン(現世から持ち越した唯一の武器)を取り出した。  空中のコードに、赤線を引く。


 Delete.


 瞬間、不快な青いウィンドウは粒子となって消滅した。  残ったのは、静寂と、美しい石造りの回廊だけ。


「ふん。校正完了だ」


 俺はペンを胸ポケットに戻し、歩き出した。  どうやら俺の設定は「魔力ゼロの劣等生」らしい。  結構だ。ご都合主義なチートなどいらない。俺はこの世界を、俺の納得する「論理」で修正して帰るだけだ。


 回廊の先から、足音が聞こえる。  おそらく、最初のイベントだろう。俺はスーツの埃を払い、毅然とした態度で待ち構えた。


「……さて。最初の段落シーンを見せてもらおうか」

ご愛読ありがとうございます!


編集長ソラ、まずは邪魔なステータス画面を消去デリートしました。 やっぱりファンタジーは没入感が大事ですよね。


次回からは、いよいよ学園生活(の修正)が始まります。 「魔力ゼロの劣等生」という設定を、彼がどう論破していくのか。


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