第18話:『俺が強いんじゃない。バフ倍率がバグってるだけだ。』
迫り来るロックオーガ。
ソラは、ゴルフのドライバー一本で立ち向かいます。
しかし、ただ殴るわけではありません。編集とバフの合わせ技です。
岩の巨人が、俺を踏み潰そうと足を振り上げる。
俺は動かない。ただ静かに、ミモリに指示を出した。
「ミモリ。俺にバフを掛けろ。……全力だ」
「えっ、でも、あの人は素人じゃ……魔力酔いしちゃいます!」
「構わん。俺の許容量は無限だ。ありったけの強化を乗せろ!」
俺の怒号に、ミモリが反射的に杖を掲げた。
「は、はいっ! 『マイティ・パワー』『ヘイスト』『アイアン・スキン』『シャープネス』……!」
彼女の口から次々と紡がれる支援魔法。
光の帯が俺の体に巻き付き、筋肉が内側から活性化する感覚。
……凄い。
俺は【解析】の目で、自分自身のステータスが跳ね上がっていくのを見た。
> **ソラ攻撃力:10(中年男性)**
> **補正値:×500(ミモリの全力バフ)**
> **合計攻撃力:5000**
「……なるほど。これは勇者も勘違いするわけだ」
全身に力が漲る。万能感。自分が神になったかのような高揚感。
だが、俺は冷静だ。これは俺の力ではない。借り物の数字だ。
だからこそ、この数字を最大限に活かす「技術」が必要だ。
「グガアアアッ!」
オーガの拳が振り下ろされる。
俺はスッ、と左足を踏み込み、腰を回転させた。
「ファー(危ないぞ)!!」
叫びと共に、俺はドライバーを一閃させた。
狙うはオーガの膝小僧。
カーボンシャフトがしなり、チタンフェースが岩の皮膚を捉える。
インパクトの瞬間、俺は【編集権限】で、ドライバーの「硬度」を一時的に「オリハルコン級」に書き換えた。
**パァァァァンッ!!**
ゴルフ場ではあり得ない爆音が響いた。
次の瞬間、ロックオーガの巨体が宙に舞っていた。
膝を砕かれ、回転エネルギーをまともに食らった巨獣は、きりもみ回転しながら洞窟の壁に激突し、粉々になった。
「……ナイスオン」
俺は美しいフォロースルーのまま残心し、ゆっくりとクラブを収めた。
シーン……と静まり返る洞窟。
勇者ブレイドは口をあんぐりと開け、ミモリは腰を抜かしている。
「す、すげぇ……! 一撃だ……!」
「あの硬いオーガを、ただの棒切れで……!?」
ブレイドが震える声で言った。
俺は息を吐き、乱れた襟を直した。
「勘違いするな。俺の腕力は一般人レベルだ。今のは全て、彼女のバフによる『係数』のおかげだ」
俺は空中の数値を指差した。
「彼女の支援魔法は、対象のポテンシャルを500倍にする。……お前は、この『×500』という宝を捨てて、『1』の力で戦おうとしていたんだ。その愚かさが、数字で理解できたか?」
ブレイドがハッとして、自分の手と、ミモリを見る。
ようやく理解したようだ。自分が誰のおかげで英雄になれていたのかを。
「お、俺は……なんてことを……」
ブレイドが膝をつき、ミモリに向かって頭を下げた。
「すまなかったミモリ! 俺が馬鹿だった! お前がいなきゃ、俺はただの猪だ! 頼む、戻ってきてくれ!」
「ブ、ブレイドさん……!」
ミモリが涙ぐむ。
よし、これで一件落着だ。
不当解雇は撤回され、チームの絆は深まった。
俺は満足げに頷き、帰る準備を――。
「……あ」
ミモリが、熱っぽい瞳で俺を見つめていることに気づいた。
その瞳には、勇者に向けられていたものとは違う、もっと重くて暗い光が宿っていた。
ドライバーショットで完全勝利。
すべては「バフのおかげ」と説明しましたが、その謙虚さが仇となります。
次回、ミモリの愛が重い。
そして勇者まで……?
最強のブーメランが襲います。




