第17話:『ダンジョン実地研修。ついて来い、俺がOJTで教えてやる。』
勇者ブレイドに「データを見ろ」と迫るソラ。
しかし脳筋勇者は聞く耳を持ちません。
そこでソラは、強引に「バフなし戦闘」を体験させることにします。
「あぁ!? ログだぁ? そんなちまちましたもん見てられるか! 俺は感覚で戦ってんだよ!」
勇者ブレイドは、俺の言葉を鼻で笑った。
やはり話が通じない。体育会系の悪い部分を煮詰めたような男だ。
少女ミモリは、俺の袖を掴んで「あ、あの、もういいんです……私が悪いんです……」と震えている。
「良くない。不当な評価を受け入れるな。それは市場価値を下げる行為だ」
俺はミモリを庇うように立ち、勇者にドライバーのヘッドを向けた。
「いいだろう。感覚で戦っていると言うなら、その感覚がどれほど『補正』されたものか、実地で確認しようじゃないか」
「は?」
「今からダンジョンに行くぞ。そこで、彼女の支援なしで戦ってみろ。……いわゆるOJTだ」
俺の挑発に、ブレイドは顔を真っ赤にした。
「上等だ! 俺一人でもドラゴンだって倒せるって証明してやるよ! ついて来いオッサン!」
◇
街外れの中級ダンジョン「岩喰いの洞窟」。
俺たちはパーティ全員で最深部付近までやってきた。
道中、ブレイドは雑魚モンスターを蹴散らしてきたが、それはまだミモリの「常時発動バフ(パッシブ)」が残っていたからだ。
「おいミモリ。今すぐ全バフを切れ」
「えっ、でも……ここは危険です!」
「いいから切れ。これは業務命令だ」
俺の指示で、ミモリはおずおずと魔法を解除した。
勇者の身体から、淡い光が消える。
「はんっ、体が少し軽くなったぜ! 余計な魔力が消えたからな!」
ブレイドはまだ強気だ。バカなのか。体が軽くなったのではない、守りが消えて心許なくなったのを、錯覚しているだけだ。
そこへ、ズシン、ズシンと地響きが近づいてきた。
現れたのは、全身が岩で覆われた巨獣――ロックオーガだ。
「雑魚が! 俺の剣で粉砕してやる!」
ブレイドが大剣を振りかぶり、突っ込む。
俺は【解析】を発動し、数値を視認した。
> **ブレイド攻撃力:500**
> **ロックオーガ防御力:1500**
「……止まれバカ! ダメージが通らないぞ!」
俺の警告は遅かった。
ガギィィィン!!
甲高い音と共に、ブレイドの大剣がオーガの皮膚に弾かれた。
「なっ……!?」
「グオオオッ!」
オーガの裏拳が、ブレイドを襲う。
ドゴォォッ!
勇者の体はボールのように吹き飛び、岩壁に激突した。
「がはっ……! な、なんでだ……いつもなら、豆腐みたいに切れてたのに……!」
ブレイドが血を吐いて倒れる。
取り巻きたちが悲鳴を上げる中、俺は冷ややかに解説を開始した。
「当たり前だ。お前の素の攻撃力は500。相手の防御は1500。物理的に刃が通るわけがない」
俺は空中に、グラフと数値を投影した。
「見ろ、この赤いグラフが、ミモリが掛けていた『攻撃力400%上昇』の効果だ。さらにお前は『硬化貫通』と『衝撃吸収』のバフも受けていた。……お前が切っていたのは豆腐じゃない。彼女が豆腐にしてくれていただけだ」
「そ、そんな……まさか……」
ブレイドの顔色が蒼白になる。
圧倒的な現実の前で、ようやく自分の無力さを悟ったらしい。
だが、授業をしている場合ではない。オーガがこちらにターゲットを変え、突進してくる。
「ミモリ。彼を回復しろ。……このデカブツは、俺が処理する」
「えっ!? でも、武器が……その棒切れ(ドライバー)だけじゃ!?」
俺はグリップを握り直し、アドレス(構え)を取った。
ゴルフとは、物理演算のスポーツだ。
適切なバフ(係数)さえあれば、ドライバーは聖剣を超える。
勇者、あえなく撃沈。
バフの偉大さを痛感しました。
次回、編集長の本気スイング。
「俺が強いんじゃない、計算式が強いんだ」ということを証明します。




