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ご都合主義について物申す。〜敏腕編集長は異世界出張(リテイク)で忙しい〜  作者: かるびの飼い主
第4章:数値(ログ)も見ずにリストラするのは、経営者として無能だから嫌いだ。

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第17話:『ダンジョン実地研修。ついて来い、俺がOJTで教えてやる。』

勇者ブレイドに「データを見ろ」と迫るソラ。

しかし脳筋勇者は聞く耳を持ちません。

そこでソラは、強引に「バフなし戦闘」を体験させることにします。

「あぁ!? ログだぁ? そんなちまちましたもん見てられるか! 俺は感覚センスで戦ってんだよ!」


 勇者ブレイドは、俺の言葉を鼻で笑った。

 やはり話が通じない。体育会系の悪い部分を煮詰めたような男だ。

 少女ミモリは、俺の袖を掴んで「あ、あの、もういいんです……私が悪いんです……」と震えている。


「良くない。不当な評価を受け入れるな。それは市場価値を下げる行為だ」


 俺はミモリを庇うように立ち、勇者にドライバーのヘッドを向けた。


「いいだろう。感覚で戦っていると言うなら、その感覚がどれほど『補正』されたものか、実地で確認しようじゃないか」

「は?」

「今からダンジョンに行くぞ。そこで、彼女の支援なしで戦ってみろ。……いわゆるOJTオン・ザ・ジョブ・トレーニングだ」


 俺の挑発に、ブレイドは顔を真っ赤にした。


「上等だ! 俺一人でもドラゴンだって倒せるって証明してやるよ! ついて来いオッサン!」


 ◇


 街外れの中級ダンジョン「岩喰いの洞窟」。

 俺たちはパーティ全員で最深部付近までやってきた。

 道中、ブレイドは雑魚モンスターを蹴散らしてきたが、それはまだミモリの「常時発動バフ(パッシブ)」が残っていたからだ。


「おいミモリ。今すぐ全バフを切れ」

「えっ、でも……ここは危険です!」

「いいから切れ。これは業務命令だ」


 俺の指示で、ミモリはおずおずと魔法を解除した。

 勇者の身体から、淡い光が消える。


「はんっ、体が少し軽くなったぜ! 余計な魔力が消えたからな!」


 ブレイドはまだ強気だ。バカなのか。体が軽くなったのではない、守りが消えて心許なくなったのを、錯覚しているだけだ。

 そこへ、ズシン、ズシンと地響きが近づいてきた。

 現れたのは、全身が岩で覆われた巨獣――ロックオーガだ。


「雑魚が! 俺の剣で粉砕してやる!」


 ブレイドが大剣を振りかぶり、突っ込む。

 俺は【解析アナライズ】を発動し、数値を視認した。


> **ブレイド攻撃力:500**

> **ロックオーガ防御力:1500**


「……止まれバカ! ダメージが通らないぞ!」


 俺の警告は遅かった。

 ガギィィィン!!

 甲高い音と共に、ブレイドの大剣がオーガの皮膚に弾かれた。


「なっ……!?」

「グオオオッ!」


 オーガの裏拳が、ブレイドを襲う。

 ドゴォォッ!

 勇者の体はボールのように吹き飛び、岩壁に激突した。


「がはっ……! な、なんでだ……いつもなら、豆腐みたいに切れてたのに……!」


 ブレイドが血を吐いて倒れる。

 取り巻きたちが悲鳴を上げる中、俺は冷ややかに解説レビューを開始した。


「当たり前だ。お前の素の攻撃力は500。相手の防御は1500。物理的に刃が通るわけがない」


 俺は空中に、グラフと数値を投影した。


「見ろ、この赤いグラフが、ミモリが掛けていた『攻撃力400%上昇』の効果だ。さらにお前は『硬化貫通』と『衝撃吸収』のバフも受けていた。……お前が切っていたのは豆腐じゃない。彼女が豆腐にしてくれていただけだ」


「そ、そんな……まさか……」


 ブレイドの顔色が蒼白になる。

 圧倒的な現実データの前で、ようやく自分の無力さを悟ったらしい。

 だが、授業をしている場合ではない。オーガがこちらにターゲットを変え、突進してくる。


「ミモリ。彼を回復しろ。……このデカブツは、俺が処理する」

「えっ!? でも、武器が……その棒切れ(ドライバー)だけじゃ!?」


 俺はグリップを握り直し、アドレス(構え)を取った。

 ゴルフとは、物理演算のスポーツだ。

 適切なバフ(係数)さえあれば、ドライバーは聖剣を超える。

勇者、あえなく撃沈。

バフの偉大さを痛感しました。


次回、編集長の本気スイング。

「俺が強いんじゃない、計算式が強いんだ」ということを証明します。

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