第10話:『スライム神の誕生。……いや、俺はただの管理者だ。』
魔王軍との戦争も回避(吸収合併)し、地下都市は盤石なものとなりました。
しかし、編集長にとっては「仕事が終わった」ことを意味します。
それから数週間。
地下都市は「魔国連邦」と名を変え、人間、魔族、亜人が共存する理想郷となっていた。
犯罪率はほぼゼロ。失業率もゼロ。
完璧な管理社会だ。
王の間の玉座(高級低反発クッション)に座る俺の前に、ゴブ・ロウ宰相が跪く。
「ソラ閣下。人間との通商条約も締結完了いたしました。これで我々は、地上にも経済圏を広げることができます」
『……うむ。ご苦労』
俺は心の中で溜息をついた。
飽きた。
修正すべき箇所はもうない。この国は完成してしまった。これ以上ここにいても、俺はただ崇められるだけの置物だ。
『ゴブ・ロウよ』
「はっ」
『私はそろそろ行く。……次の現場が待っている』
俺の言葉に、謁見の間にいた全幹部が息を呑んだ。
ヴォルカンが、オークの将軍が、涙を流している。
「行ってしまわれるのですか……我らの神よ!」
『神ではない。ただの編集者だと言ったはずだ』
俺はぷるんと跳ねた。
『この国はお前たちが回せ。マニュアルは全てサーバー(石版)に残した。……コンプラを守って、良い国を作れよ』
言い残し、俺は【管理者権限】で「ログアウト」を実行した。
光が俺を包む。
背後で「スライム神万歳!!」という地響きのような歓声が聞こえたが、俺は振り返らなかった。
◇
「……あつっ!」
熱さを感じて、俺は飛び跳ねた。
視界が戻る。
そこは空想文庫の給湯室。
手にはマグカップ。注ぎすぎたコーヒーが溢れて、指にかかっていた。
「……戻ったか」
俺は慌てて指を拭き、時計を見た。
休憩に入ってから、まだ三分も経っていない。
「部長、コーヒーまだですか? 会議再開しますよー」
部下の田中が顔を出す。
俺は苦笑し、溢れたコーヒーを拭き取った。
「ああ、今行く」
「? なんか部長、肌がプルプルしてません? エステでも行きました?」
「……コラーゲンを大量摂取したからな(スライム的な意味で)」
俺はマグカップを持ち、オフィスへと戻る。
スライムとしての生活も悪くなかったが、やはり俺にはこの苦いコーヒーと、紙の匂いが性に合っている。
デスクに戻ると、一通の企画書が置かれていた。
タイトルは『婚約破棄された悪役令嬢、隣国の王子に溺愛される』。
「……次はこれか」
俺の眼鏡が、キラリと光った。
(第2章 完)
お疲れ様でした! 第2章「スライム建国編」、完結です。
スライムになってもブレない編集長。
最後はコーヒー片手に、次の「修羅場」を予感させて終わります。
次回、第3章は「悪役令嬢編」。
満員電車から夜会へ直行!?
「愛」を「法律」で裁く法廷バトルの開幕です。
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