あの古いポスターとともに
天井を見上げると電気ブランの古いポスター、私は好いていない。このお店ごとなくなってしまえばいいのにと、思ったことは数知れない。そのわりに私は、このお店に来てしまう。
疑いを持たず、私のそういった考えなんて知る由もないこのお店のマスターは、比較的恋愛に関しての感度がいいとキモチ悪いことを自称する。
―僕ねえ、あなたのこと気になってるみたいなのよねえ
男のわりに甘ったるい口ぶりが一等賞にキモチ悪い。だからやっぱりこのお店は、なくなったほうがいい。
―ふうん、そうですかあ
つれない返事をしておいて、
―今日、私、誕生日なんですよお
つとめて甘めに言ってみる。
マスターは、していた腕時計をとり、
―よかったらどうぞお
胸やけがするほどのニヤケ顔とともに私に差し出してくる。青いベルトの、文字盤がマリリン・モンローの。マスターのわりに、いいセンス。といっても安物のスウォッチだけど。
せしめたそのスウォッチを一度も腕にすることなく、その日の帰り、川に放り投げる。今日は私の誕生日でもなんでもなくて、そんな簡単なウソにあっさりのってしまう男、興味の対象になるわけない。
あのあとマスターが、私がスウォッチをしていないのを咎めてくることは一度もなくて、それがつまらなくって腹立たしい。だからやっぱりこのお店は、あの古いポスターとともになくなってしまったほうがいい。




