第八話
第八話
魔法省本部
7人の老人が卓を囲んでいた。
「やはり、魔物が爆発的に増えている。」
「特に、今まで低級だった魔物が勢力を増していると感じます。」
「やはり、均衡が揺らいでおるのか…!?」
その時、入り口から1人の女が入ってくる。
「…その件について、お話があります。」
「アチャくん。キミの意見を聞こう。」
「はい。やはり、『魔王』が討伐されたことで均衡が揺らいだという説が多く上がっています。しかし、『魔王』登場以前も、ここまで急激に魔物が増加した事は無かったと統計が出ています。」
「つまり、増殖は魔王討伐には関係ないと言いたいのか?」
「はい。今回の増殖は『魔害』であると私は考えています。」
「魔害だと!?」
「最後の魔害は250年も前と記述がある。今回はタイミング的にも、魔王滅亡で低級の魔物が幅を利かせやすくなったと考える方が自然ではないか?」
「いえ、魔王討伐が関係しているなら、もっと早く増殖が起きるのではないでしょうか。討伐から一年程経ってから増殖するのは、不自然とは思いませんか?」
「アチャくん……。君、自分のパーティーを庇いたいだけではないのかね。魔王を討伐したのは、他でもない君たちじゃないか。」
「………。」
数刻後…
「はぁ…。魔王が死んだと思ったら、今度は魔物増殖とは、全く、少しは休ませてもらいたいもんだ。」
「本当ですよ…。その上、国内最強がくたばってると来ちゃ、踏んだり蹴ったりですよ。」
「今回の案で、少しは改善すると良いがね。まずは帝都に絶対に入れないことが最優先だ。市民の声は大きいからな。」
「はは、あんまり下手なことを言うと"魔法省不要説"を唱える輩が出てきちゃいますよ。」
「ははは…。」
ギルド『セブンシー』
「はあ…。疲れた。」
「ボス、お疲れ様です。なんの話してきたんです?」
パーティーメンバーの1人、魔術師のダルが出迎える。
「…いつも通り、別に大した話はしていないさ。ただ、魔物が増えてきているから、その話をちょっとな。」
「あー。やっぱそれ、噂で結構広まっちゃってますもんね。市民が不安がるからなー。」
「そうだな…。しょうがない事ではあるんだがな…。」
「ボスー。お疲れ様ですー。」
「ああ、ハピちゃん。お疲れ。」
「あれ?なんかボス、疲れてます?」
「いや、色々あってな。それより、ギルドメンバーが集まるのは久しぶりだな。元気だったか?」
「…スーファンは、あいつまだ来れなさそうなのか?」
「んー、でもこの前、久しぶりに帝都に来てたよ!ウチの道場だけど!」
「! そうか!スーファンは元気だったか!?」
「うん、まあまあ元気そうだったかなあー?最近家事をしてくれる人と一緒に暮らしてるんだってー!」
「ど、同居!?あの、スーファンが!?あいつ、どこにそんな友達いたんだ!?」
「いや、最近知り合ったらしいけどー…。」
アチャ、ダル、双方に電撃走る。
「ス、スーファン、成長したな……。」
「ちょっと見ねえ間に、そんなこと出来るようになったんだな…。」
「前は初対面の人と話す時、絶対ウチらの陰に隠れてたもんね!大成長だねー!」
「そうか…。良かった。私も、たまには顔を見に行きたいな…。圧になるかな…。」
「まあ、大丈夫だと思いますよ。ダルはダメだけど。」
「なんでっすか!?俺、後半割と仲良くしてましたけど!」
「ダルは女の子を気遣うのが下手そうだからな。」
「ぼ、ボスまで!俺そんなガサツっすかね!?」
「ふふ。」 「ははっ!」
「はぁー。久しぶりにこんな笑ったな。
……それじゃ、本題に入ろう。今回は魔物対策に、魔法省が魔術大砲を8基設置するらしい。その間、設置者を護衛する任務に当たる。一基に私達が1人ずつ付き、3日かけて行う。以上だ。質問はあるか?」
「それって、最終日は1箇所分余るけど、他のとこ護衛してた人と合流するってことー?」
「そうだ。合流するのはダルのところとハピちゃんのところだな。大丈夫か?」
「まあ、ウチは大丈夫かな?設置者の人が、ウチのこと好きになっちゃったらごめんだけど♡」
「俺もまあ大丈夫です。」
「もし当日不都合があったら言ってくれ。交代して対処していこう。よし。じゃあ、明日から3日間頑張っていこう。」
「「おー!」」
翌日…
「アチャと言います。本日は護衛させていただきます。よろしくお願いします。」
「わ!あのアチャさんですか!あの、すごいパーティーのトップの方ですよね!尊敬してます!!」
「わー!ハピちゃんだー!ちっちゃくて可愛いー!雑誌で見るより可愛いですね!」
「ダルさんって、あの魔王討伐部隊に選ばれたダルさんですよね!?凄い! 魔王を倒したパーティーって、何故か公表されてないですけど、僕はあなた達のパーティーだと思ってるんですよ!」
「いやいや、全然そんな…。ありがとうございます…。」
それぞれ少しの社交辞令ののち、出発の段取りを始める。
「それじゃあ、出発しますね!」
…大砲は風魔法で車輪を押して運ぶ。この間、術者はこれに集中しなければならない為、無防備になる。今回の護衛は、魔物だけじゃなく、追い剥ぎなど悪人から守る為という理由もあるのだろう。
午前に1人、午後に1人が運ぶため、護衛含めた合計3人で、設置地点まで歩くことになる。
半日経過…
「あの、聞いちゃいけないのかもしれないんですけど…」
日差しが少しずつ増してきた頃、相変わらず何もない平原を、大砲を押しながら設置者の人が話しかけてきた。
「はい?」
「魔王討伐って、4部隊くらい選ばれてたじゃないですか。なんで、どこの部隊が倒したのかを、公表しないんですか?」
「あぁー。いや、みんなが頑張った結果倒せたんで、どこが倒したとかじゃなくて、みんなで倒したって感じなんですよねー。」
やっぱり…。聞かれるとは思ったけど。
「へぇー。でも、予定されてた凱旋パレードが中止されたのは、なんでなんですか?」
「凱旋する人数が多すぎたんじゃないですかね。はは…。」
どこに行っても、こんなことばっか聞かれるなあ。
ゴシップ好きもそうじゃない奴も、皆んなして無遠慮に聞いてきやがる。あー、腹立ってきた。
「ダル、調子はどうだ?」
突然、後ろからボスが話しかけてきた。
「うぉ!ボス!なんでここに!?」
「私の担当はかなり帝都に近くてな。半日立たず終わったんだ。午後からは私も同行しよう。」
「ぼ、ボス〜!!」
助かった!と心の底から思った。俺は、こういう質問に体よく答えるのが大の苦手だが、ボスはさらりと、スマートな嘘をつけるからだ。
「わー!アチャさんも同行してくださるのですねー!助かる限りです!よろしくお願いしますー!」
「ああ。こちらこそ、必ず安全に目的地までお届けします。よろしくお願いします。」
設置者の2人が目を見合わせ、分かりやすく瞳を輝かせていた。
「「は、はい、お願いします!」」
その後、無遠慮な質問が飛んでくる事はなかった。
こうして、強い日差しを浴び、休憩も挟みながら目的地まで進み、午後3時ごろには目的地に辿り着くことができた。
「ふぅー、なんとか着きました〜。では、車輪を外して設置いたしますね!」
ガチャンッ!と大きな音を立てて大砲が設置された。車輪があるとはいえこんな重たそうなものを運ぶのは大変だったのだろう。設置者の顔には明らかに疲れが見えた。
「お疲れ様です。重たかったですよね。長時間任務でしたが、ありがとうございます。」
ボスは相変わらず紳士さが極まっていた。
「いえいえ!アチャさんとダルさんも護衛ありがとうございました!さ、早く帰って、ゆっくり寝ましょ!」
ボスが話を上手く振ってくれたおかげか、終わり頃には程よく円滑に話ができるようになっていた。
「でも、魔物も盗賊も出ませんでしたね。」
「そうだな。まあ、気を緩めず明日も頑張ろう。」
「はい。」
「お二方、帝都までお送りします。大砲が無い分、行きよりは早いでしょう。」
「ありがとうございます。でも、もう魔法が使えるから、大丈夫ですよ?」
「いけません!ただでさえ半日も魔法を使いっぱなしで、疲労が残っているはずです!夜は暗いですし、送らせてください!」
その言葉で2人は乙女のような顔つきになる。
ボスは、女性をメロメロにするのが得意らしい…。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」
「もちろん。送り届けさせていただきます。」
一流の魔術師に送る言葉としては、これは侮辱と取る人もいるだろうが、昔から密かにモテていたイケメン女のボスが言えば、それはきっと関係ないのだ。
こんな調子で、ほんの数回雑魚魔物を倒したくらいで、3日間を終えた。
「いやー。久々の任務で張り切っちゃったけど、なんか拍子抜けっすね。」
「平和に終わるのが一番だろう。」
「そーそー!でも確かに、護衛というよりおしゃべりが本業みたいだったなあ〜。塾もしばらく空けちゃったから、またこれからビシバシいかなきゃなー。」
「でも、ボス、なんで急に俺たちに仕事振られたんですか?今活動してないことなんて、知ってますよね?」
「魔物急増で、空いているのが私たちだけだったそうだ。」
「うわー。まじで増えてんだねー。ボス、前、上層部の人と話しに行ってたんだよねー?上層部の人たちは、原因がなにか言ってましたー?」
「あ、それ、俺も気になってたっす。」
「…上層部は、魔害と結論付けた。」
「「魔害!?」」
「…って、なんすか?」
「200年〜400年ほどの周期で起こる、魔物が急激に大繁殖して人に危害を加える災害だ。」
「へぇーーー。え!?それが今来てるんすか!?やばくないですか?それ!」
「ああ、やばいかもな。だが、今回の大砲のように、対策はしっかりしていくと言っていた。私たちも、有事に備えて鍛錬を欠かさず行おう。」
「もちろん!」 「はい!頑張ります!」
「ふふ。ありがとう。でもたまには、息抜きがてらみんなで集まろう。…できれば、スーファンも誘って。」
「はい!」 「さんせーい!みんなで飲み会しましょー!」
……こんな真面目な人間達が、あの『魔王』と、命をかけて戦ったことを、誰が責められる?
本当に、魔王討伐が起因して魔物が増殖していたとしても、私たちには関係がない。あの戦いに賞賛以外はいらない。
…もしその考えを改めないのなら、私はお前らの一族郎党皆殺しにする覚悟だって―――




