第七話
第六話
休職してからも、魔法の研究は欠かしていない。だが、実践ができない状態で、有益な研究はなかなか出来ない。よく試して、よく失敗して。そんな日常に辟易した時、楽しかった頃を思い出す。
あれは、何年前かな…。
―――
ある日のギルド『セブンシー』
「新しいメンバーを紹介する。研究家のハルだ。」
「初めまして。研究を通して皆さんのお役に立てたらと思います。」
「ダルだ。よろしく。」
「ハピちゃんでーす。ハピちゃんって呼んでねー。よろー。」
「…スーファンドット。」
「おい、スー。愛想良くしろよな。」
「ちゃんと言っただろ。いちいち突っかかってくんなよ。」
「お前、アチャさんと俺にあんなに世話かけさせた癖に、新しい人間の世話見る気とかねーんだな?」
「あ?私がいつてめーに世話かけたって?言ってみろよ。」
「あはは〜また始まった〜」
「おい!ちったあ大人しく出来ねえのか?……はぁ、悪いな。こんな騒がしい奴らばっかのとこ入れちまって。」
「はは、いえいえ。」
「チッ」
ドアを乱暴に開けて彼女は出て行ってしまった。
が、チラっ、と一瞬、目が合った。ような気がした。
「いやー、ごめんねー。あいつら、まじだるいけど悪いやつらじゃないからさー、仲良くしてやってね〜」
「俺が入るの、あの子は嫌なんでしょうか。」
「んなワケないない!あの子ちょっとコミュニケーションド下手くそで言葉足らずで人見知りなだけだから!」
「なるほど…」
興味が湧いた。それは、彼女の放つ荒々しい魔法とは真逆のような不器用さだったから。
彼女の魔法は、一言で言えば「異質」 皆が足並み揃え同じ形状の魔法を出す魔法界では、あまりにも歪な炎だった。そしてその歪さが
――美しかった。この炎を研究したいと思った。
そして彼女自身のことも、知りたいと思った。
次の日
「失礼します。」
「…」
「今、お時間ありますか?」
「ない。」
「あなたの炎を少しだけ見せて欲しいです。」
「…午後から任務だから、無駄撃ちしたくない。」
「それ、嘘ですよね?」
「は?」
「午後の予定をアチャさんに聞きました。午後は自由時間と聞いたので、まるまる研究していいとの許可を得て来ました!」
「はぁ!?勝手に何してんだよ!?」
「スーファンドットさん、今、魔導書で勉強していましたよね?研究させていただければ、より良い知見を得られると思いませんか!!?」
うげぇーー!なんだこいつ!昨日の今日でグイグイ来すぎだろ!距離感分かれよ!!
――『お前、新しい人間の世話見る気ねえんだな。』
……チッ
「…はぁ。1時間だけだぞ。」
「!! ありがとうございます!」
ギルド外、練習場にて
「あんたは、どんな魔法が見たいんだ?」
「通常魔法の炎を見せていただきたいです。」
「分かった。」
彼女は、慣れた動作で魔法を発動する。すると、彼女の背丈以上はあるかと思しき巨大な炎が、渦を巻き彼女の手のひらの上で踊る。風圧で、思わず一歩、後退りしてしまう。
……予想以上だ。あまりにも、唯一無二であることを実感する。
「これは、通常魔法なんですか?」
「そう。大きさはまあ、その日の気分次第だけど。」
「そんなことが、可能なんですか?」
「私の炎は、不出来で、不安定らしいからな。はっ。学校長にも、基礎が出来てないって言われたレベルでな。」
「すごい!! 体調で魔力量が変化することはあれど、気分で変化する魔法なんて聞いたことがない!!!
炎のパターンを作らないことで、毎回違う炎を放つことが出来るんですね!!!」
「…うん、まあ、そう。」
「これなら、威力を変更する為に発生するパターン切り替えの手間が省けて、戦闘時の隙を限界まで減らせるということですね!!?」
「ああ、そう、かも。」
「今の魔法は普段と比べて大きいですか?小さいですか!?」
止まんねえ止まんねえ!あんま知らん奴とこんな長尺で話したくないんだけど!!
「ま、まあ、昨日消費してない分、大きく出せたみたいな所はあるかもな!」
「なるほど…!」
「…もうそろそろやめていい?」
「すみません、もう少しだけ、近づいて見てもいいですか?」
えーーまだ続くのーーー?
「いいけど、怪我しないでよね。」
「ええ、大丈夫です。」
まだ、この芸術から目を離したくない。知りたい…。
威力は?消費魔力は?テンプレートが無い分、普通の魔法より魔力の消費は多いはず。この大きさでどれくらい消費しているんだ?
「! おい!危ねえ!」
ああ、消されちゃう…まだ見ていたいのに…。あれ?なんか、手が熱い…ような?
「うわあ!!」
「大丈夫か!怪我すんなって言っただろ!くそ!ハピちゃん呼んでくるからジッとしてろよ!」
その言葉もぼんやりとしか聞き取れなかった位、俺は右手の炎に気を取られてしまっていた。
……なんだ、これは…消火しようと思っても、出来ない?普通の魔法なら、放つのをやめれば消えるのに、消えない……面白い。彼女の炎は、定型でない意外に、何かすごい技術が隠されているのかもしれない。
……そんなことを考えているうちに、焦った様子でハピさんが練習場へ駆け込んできた。
「ハルさーん!?大丈夫ーー!!?」
「はい、大丈夫です。」
「すぐ治すけど、痕残ったらゴメンね〜!」
ハピちゃんさんが回復魔法を唱えると、みるみるうちに炎が消え、傷口が治癒されていった。
「ふうー。なんとか痕は消えそうかもー」
「すみません、俺の不注意で手間掛けさせてしまって…」
「本当だよ、全く…。」
走って戻ってきたスーファンドットさんが、呆れたような顔で言う。
「スーファンドットさん、すみません。迷惑かけてしまいました。」
「ん、いいけど、もっと危機感持てよな。…あと、その、こっちこそ、ごめん。」
「えー?スーちゃん謝れるんだー!新発見なんだけどー!」
「別に謝るし!なんだと思ってんじゃい!!」
「きゃはは!」
「すみません、一つ聞きたいことがあるんですけど、なぜ炎が消えなかったんですか?」
「あー、それはねー、この子の炎はちょっと特殊なんだよねー。」
「特殊?」
「んまー、私たちも詳しいこと分かってないんだけどねー。」
「ということは、俺の役目は、スーファンさんの魔法を解き明かすことですか?」
「そのとおーり!やっぱすごい強い魔法だと思うからさ、ゆくゆくはボスも、全ての魔術師が使えるように広めていきたいんだって!」
「まだ、俺も完璧に理解できたわけではないですが、一つ分かったことがあります。」
「お!」 「…!」
「この魔法は、工程を最大限まで省くことで、威力を高めているのだと思います。」
「ほう。」
「たとえば、学校で教えられる魔法発動の行程は、
1.パターンを決める。2.目標を定める3.発動する。というものですが、スーファンさんは、
放つという工程しかないんだと思います。」
「1は正解。だけど、なんで目標を定めて無いと思ったんだ?」
「それが炎が消えない理由に繋がっていると思っていて、当然、敵を倒す際は敵に向かって放ちますよね?」
「うん。」
「スーファンさんのは、そもそも炎が大きくて、多少狙いが外れても当たるので、無意識に「目標を定める」という意識が薄れていったのでは無いかと思うのですが、どうでしょうか。」
「ん?結局、炎が消えない理由は何なのさ?」
「たぶん、スーファンさんは、魔法が命中する瞬間まで意識を集中させてるわけじゃないと思っていて、いわば炎の「所有権」が、放った瞬間にスーファンさんから対象に切り替わっているのではないかと思います。」
「ほー!なるほどー!それは研究の余地ありだね!ね!スーファン!」
「……まあ、ちょっとは合ってるところもあるんじゃないの。」
「もー!そんなぶすくれない!あんたがちゃんと理由分かってれば一番楽なんだからねー?」
「もー分かったって。ハルさん?だっけ。なんで、一回打たれただけでそんなこと分かったの?」
「俺は、あなたの魔法を、ずーっと観察していたからです。毎日毎晩雨の日も風の日も雪の日も、ずーっと…」
「え゙っ!?どこから…?」
「あなたたちの、後ろから……」
「ぎゃーーー!!!!!変態だーーー!!!!追い出せーーー!!!!」
これが、ハルと私の初めての会話だった。




