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第六話

第七話

 リクがハピちゃん塾に通い始めて、10日が経った。最初はしごきにしごかれ、見るも無惨な姿で帰ってくることが多かったけど、最近は何やらすっきりした様子で帰ってくることも増えてきた。

 理由を聞けば、

「ハピちゃんの練習で、おれ、どれだけ基礎が疎かになっていたか実感しました!近接格闘で最も大事なのは脱出戦略!逃げるルートをいくつも確保して、攻撃に転じやすくする!そして状況判断!脳みそで戦わねばならないと教えてもらえました!」

 なにやら興奮気味に練習内容を語ってくれた。新たな発見が沢山あってきっと楽しいんだろう。それは素晴らしいことだ。気分転換に、私も見学させてもらうことになった。街に降りるのは、少し抵抗があったけど、

「ぜひぜひ見学来てください!きっと何かヒントが掴めると思いますよ!」

 と、リクからの猛プッシュがあり、行かざるを得なくなった。


「あ、リクくんいらっしゃーい!ってあれ?スーちゃんも来たのー?わーいらっしゃーい♡」

「うん。ごめん急に。私も見学させてもらっていいかな?」

「もちろんいいよー!さ!リクくん、今日もがんばろーね!」

「はい!頑張ります!」

リクはすっかり気合が入って、顔面に気迫が宿っている。

 今日は2時間の基礎練の後、組み手をするらしい。

「反応が遅い!避け方が甘い!下段意識弱くなってる!反身の時は重心意識して!」

 鋭い指摘と適切な攻撃を同時にこなしている。

 さすが、"ミス器用"の座を欲しいままにしていただけのことはある。

 …まあ、そんなダサい異名は、私が勝手に心の中でつけてただけなんだけど。

 でも、器用なのは本当で、ハピちゃんは、魔法と近接攻撃を両立出来てる、かなり特異な人だ。

 魔法界では、魔法を極めると、近接格闘が出来なくなるという通説がある。

 別に根拠のある話じゃない。でも、実際にやってみた人たちは多かったのに、誰も成功したことは無かった。

 敵との距離感の違いから狙いが外れる確率が大幅に上がるという事例や、近接から魔法攻撃への変更の際に、何故か発動できなくなるということが多く発生したため、次第にそれを試す人も少なくなっていた。

 だが、ハピちゃんは回復魔法と近接攻撃の両立に初めて成功した。

 『週刊魔法現代』という雑誌のインタビューで語るには、

 Q.どうして、魔法と格闘術の両立に成功することができたのですか?

「うーん、ハピちゃんのお家は代々回復魔法を受け継いでる、由緒正しめの家系なんだよねー。」

 Q.なるほど。ということは、幼少時代から魔法の教育を受けてきたんじゃないですか?

「そーなのー。だけどウチは、格闘にも興味があったから、ずっとやってみたかったんだよねー。だからやってみたの!」

 Q.しかし、両立はかなり難しかったのではないですか?

「そーねー。でも、攻撃魔法じゃないからねー。敵に撃つわけじゃないから、その分気楽だったかもねー。」

 Q.成功するまでにはかなり時間を要したのではないですか?

「もー大変だったよー。でも、応援してくれる戦士ちゃん達がいっぱいいたから、なんとか頑張れたんだー!」

 Q.戦士ちゃんとは?

「ウチのこと応援してくれるファンクラブの人たちなんだー!年齢平均35.5!」

 Q.なるほど。ハピさんにはファンクラブがあるんですね。

「……ハピちゃん。」

 Q.え?

「ハピちゃんって、呼んでほしいなあ?」

 Q.しかし…

「キミが言ってくれるまで、インタビュー終われないね?それとも、ウチとの時間、終わらせたくないの?」

 Q.いや…

「インタビュアーとしてのキミに言ってるんじゃないよ?個人としての、キミに言ってんの♡」

 Q.ハ、ハピちゃん…

「よく言えました♡」


 その後も2ページぶち抜きでインタビューしたその雑誌は、魔法・近接の両立についてほとんど触れていないにも関わらず、ベストセラーになったらしい。


「よし!リクくん!一旦休憩しよっか!」

「ふぁ、ふぁい…。」


 2時間ほど組み手をした後、休憩に入った。

「お疲れ。調子どうだ?」

「あ、スーさん…。ありがとございます…。」

「リクくん、中々いい感じだよー!磨けば光るって感じー?」

「へぇー!すげえな!ハピちゃんに褒められるなら、相当じゃん!」

「え!ほんとですか!」

「うん!私は近接はさっぱりだから、見ててもよく分かんないけど、そんだけ頑張ってんだなあ。」

「そーそー!練習してからも上達してるけど、その前の土台があるからこんなに早く上手くなれるんだよー!」

 す、凄く嬉しい…。こんな褒められることなんて、大人になってからあったか…?

「ハピちゃんは本当に凄いです。このレベルの近接格闘と魔法を両立なんて、到底考えられないです。」

「いやいやー、ウチなんてどっちつかずだっただけだからねえー。」

「でも実際、ハピちゃんの後から皆んな挑戦するようになったよなあー。そんで出来たり出来なかったり。」

「ウチの塾の人たちはポツポツできる人も増えてきたんだよ!」

「え!凄い!何人くらいいるんですか!?」

「んー、今んとこ、出来たのは、3人くらいかな?」

「凄すぎる…。というか、俺以外の塾生も沢山いるんですよね?俺ばっかりにこんな時間使わせてしまって、大丈夫なんですか?」

「あー、今はねー、ちょっと魔物が多くなってきちゃったから、みんな任務に駆り出されてばっかで、あんま集まれなくなっちゃったんだよねー。」

「やっぱり、この前のコカトリスといい、魔物達の間で何かが起こっているんですか…?」

「あちらさんの事情は全然分かんないんだけどね。でも、たまにはこういうことも起こるんじゃない?」

「え?それって、ま…」

「よし!時間になったから、午後からもがんばろー!」

「は、はい!頑張ります!」


 その後、基礎練習、シミュレーショントレーニング、組み手などを行い、夕方前に練習は終わった。

「よし!今日の練習終わり!今日もみっちり練習頑張ったね♡」

「は、はい…。」

「今日はたっぷりやったから、明日はしっかり休んで、また明後日来てね!それと、スーちゃんも来てくれてありがとう!いつでも来て良いからね!」

「うん。こっちこそ、良いもの見せてくれてありがとう。やっぱハピちゃんって、人に教えるのが上手いんだな。」

「ふふ!まあね!10年も塾やってれば、誰でも出来るようになるよ!」

「そんな長い期間、人を教えて、ご自身も前線でご活躍されるなんて、凄すぎます…。」

 あれ?そういえばハピちゃんって、何歳なんだっけ?

「継いだ時はまだ25とかだったからねー。いやー、随分遠くまで来たなあ〜。」

 え?25+10=…… え?ええ?

「てっきり、俺と同い年ぐらいだと…」

「ハピちゃーーーん!!!」

 その瞬間、大勢の冒険者達が道場へ流れ込む!

「ハピちゃーん!疲れたよー!今日も魔物一杯だったよー!」  「俺も雑魚魔物ばっか倒したよおーー!!」

「癒してー!ハピちゃーーん!!」

「わあ!みんなお疲れー!大変だったねえー!よしよし!偉いぞ!」

「「ハピちゃーん!!」」

 どうやら、他の塾生?の方達らしい。にしては、なんだか距離感がおかしいような…?

「ごめんねー、戦士ちゃん達が来ちゃったから、ばいばい!気をつけて帰ってねー!!」

戦士ちゃん… はっ!そう言えば、ハピちゃんにはファンクラブが存在していて、そのファンの人たちの名称が戦士ちゃんだった気がする…。確か昔、友達の家にあった本でチラッと見たんだ…!この人達は、きっとハピちゃんのことが好きで、塾に入った人達なのかも…。

「早く帰ろう、リク。」

「あ、はい。」


 

10日前……

 『ハピさん!今日からお世話になります!よろしくお願いします!!』

『リクくんいらっしゃーい!きょうからがんばろーね!それと、ウチのことはハピちゃんって呼んでね♡』

 『え?いやいや!おこがましいですよ!おれなんかが!』

 『…ハピちゃん』

 『え?』

 『ハピちゃん』

 『その、…』

『問題です。この世で最もつよつよできゃわきゃわなのは、だーれだ。』

 『は、ハピちゃんです……。』

 『ピンポンピンポーン!だいせいかーい!さ!練習技に着替えてー!練習始めるよー!』


 

35歳か…。逆に、良いのかも……。

 

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