第五話
第五話
もう何年も見ていないような、魔導書を取り出す。常識が目眩く速さで変わる、代謝の良い魔法界では、もう誰も見向きもしないような本。
藁にもすがる思いで、ページを開く。
……やっぱり、魔法が出せない人間の治し方は書いていない。
時代遅れの本ですら、私の存在を認めていない。
いつもの昼下がり。いつものように、書斎のスーさんに声をかけて、一緒に昼食を取る。
スーさんはあまり喋る方では無いが、不思議と気まずさは無い。
「あ、そういえば明日、知り合いが来るから、よろしく。」
「え?まあ大丈夫ですけど。部屋は綺麗ですし。どなたが来られるんですか?」
「パーティーメンバーのハピちゃんって人が来るんだ。」
「へー!ハピ・バンデッドさんですね!超拳法の使い手の!!」
「おー。さすが。知ってるんだな。」
「当たり前ですよ!スーさんのパーティーって、魔術師が多いイメージですけど、その中で1人だけ近接格闘士として活躍されてて!すごい実力者でしたよね〜!いやー!俺も剣士だったんで、すごい憧れてましたよ!」
「ふっ。明日そういう話してやったら喜ぶと思うぞ。」
「え!俺も話していいんですか!?」
「ちょっとだけな。」
「やったー!」
次の日
「やっほー!お邪魔しまーす!」
「ハピちゃん久しぶりー。」
「おひさおひさー!元気してるー?あ、君が家事係のリクくんだねー?」
「はい!お世話になってます!」
「いえいえー!こちらこそうちのスーちゃんがお世話になってますー!あんた、ちゃんと仲良くやってる!?」
「ハピちゃん、相変わらずお母さんみたいになってるよ。別にフツーにやってるよ。」
「いやー、まさかスーちゃんがハルくん以外の人と同居できるようになるなんて、お母さん感動だよ〜」
「お母さんじゃ無いっつーの。はは。」
「あの、ハピさん!俺、剣士なんですけど、ハピちゃんさんが魔術師の人たちに混ざって戦ってる姿にすごい憧れてて!!その、すげー尊敬してます!!」
「えー!まじー!?ちょーうれしー!ありがとありがとありがと〜〜!!!」
握手した手をもの凄い勢いで上下に振られた。
…実物をこんな近くで見たのは初めてだけど、なんというか、すごく可愛らしい人だ。小柄で、目が大きくて、何より所作が女の子って感じだ。この可愛さと戦い方のギャップも相まって、彼女のファンは多いと聞くが、それも納得の可愛さだ。
「これからも、スーちゃんのことよろしくね!」
「はい!勿論です!」
………
「どう?最近元気?」
「ん。まあまあかな。」
「そっか。一応、体診てあげるよ。」
「ありがとう。」
「んー。やっぱ体に悪いところは無いね。痛いところもない?」
「無いかな。」
「うーん。やっぱ、魔法を出せないのは気持ちの不調?なのかなあ?」
「そうかも。毎日、魔導書とか読んでんだけどね。」
「えー!休みなよー!無理する時じゃないよー!」
「いや、だってすることないし…。家事もしなくていいなら、ほんとにすること……」
「散歩とかさあ!外の空気浴びたり!ウチ以外のパーティーメンバーとか!みんなに会いに行ったらいいじゃん!」
「だって、……みんな、怒ってない?」
「怒ってない!何回も言ってるでしょ!誰もスーちゃんのこと責める人なんていないって!」
「……でも」
外に洗濯物を干しに行ったリクが、ダッシュで家に入ってくる音が聞こえた。
「スーさん!外に魔物が!!」
「!?」
外に出ると、15匹はいるであろうコカトリスの群れが空を旋回していた。
「リク!怪我はないか!?」
「はい!でも、あんな位置だと俺の剣じゃ…」
くそ!なんでこんな時に魔法が出ないんだ!
…落ち着け、発動の手順を思い出せ、大丈夫、打てる、大丈――『人が!溶けてる!!誰か!!』
……むり、無理だ……
「大丈夫!ウチに任せて!」
「え!?ハピさん!?」
そう言うと、ハピさんは屋根の上に飛び乗った。そしてコカトリスを一匹一匹絞めていく。そのあまりある身体能力で次々華麗に技を繰り出し群れを捌くその姿は、舞踏会で披露する演舞のようにも見えた。
「す、すごい!屋根の上という不安定なフィールドで!ありえない量の技を出している!あ、あれはアッパーカットだあ!!コカトリスの顔面にクリーンヒット!からの!くちばしを掴んで!?目潰し!からのぶん回しでまとめて蹴散らしたぁーー!!すごい攻防だ!!!」
「……お、お前、本当に好きなんだな…。」
「はっ!すみません!助けてくださっているのに、つい、熱が入ってしまって…」
「…私も久々に見たけど、 やっぱり、凄いな……。」
……しばらく見とれていると、いつのまにかコカトリス達を完全制圧しているハピちゃんの姿がそこにあった。
「ふぅー!いい運動したぁー!」
「ありがとう、ハピち「ハピさん!凄かったです!あの不安定な足場での反身からの後ろ回し蹴り!!一つ一つの技の速度!多対一の立ち回り!!全ての練度が高くて!!」
「あははは!ありがとう〜〜!!凄い見てくれてるね〜〜!君、さてはファンだな?」
「! はい!ファンです!」
「あはっ!正直でよろしい!いやー、それにしても、こんなところにコカトリスの群れなんて珍しいね〜?」
「あー、今まで、年1、2くらいではあったけど、最近ちょっと多くなってる気がするな。」
「うげ〜。まじぃ?やっぱ帝都に住みなよ!こんな山の中じゃ、次また何が来るか分かんないじゃん!」
「いや、まだ、ここに住んでたいんだよ。それに、毎日魔物来る訳じゃないし。」
……そうか、今、スーさんが魔法を使えない以上、もし次、魔物が来たら、おれがスーさんを、この家を守るしかないんだ。 ……おれにできるのか?
――『あんな位置だと、俺の剣じゃ…』
そんなのは、言い訳でしかないだろ!!
「ハピさん!あの!もしよろしければ、おれを弟子にしてください!!スーさんが旦那さんとの思い出の家を手放さないで済むように!おれが!守れるように強くなります!!だから、お願いします!」
「!!」
「いいね!アツい男は好きだよ。
でもウチ、剣は専門外だから、近接格闘のコツくらいしか教えれないけど、それでも良い?」
「はい!よろしくお願いします!!」
「よっしゃ!ビシバシしごいていくよー!」
「お願いします!!」
「……リク、そんなこと、気にしなくていいんだぞ。」
「いえ!おれはあなたに何度も救われたんですよ!今度は、おれに支えさせてください!」
「! ……そうか。…ありがとう。
ちなみにハピちゃんは、めちゃくちゃ厳しいから頑張れよ。」
「え゙っ」
「うふふ。ばちぼこ鍛えて、スーちゃんのために強くなろうね♡」
「は、はい!」
パーティーを解散して初めて、前進できた時だった。




