表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第十三話

第十三話

 何で、あんなこと言っちゃったんだろ……。「周りに恵まれただけ」なんて、一度も思ったことないのに。

 おれ、クソ野郎だな…。おれを助けてくれた人に、僻んで、あんなこと言うなんて。

 …明日の朝、早く帰って、朝ご飯を作ろう。それで、その後、ちゃんと謝ろう。

男は1人、飲み屋街の隅で、空を見上げていた。そこに星などないのに。


 一方…

 ……周りに恵まれただけ。その通りだよ。でも、運も実力のうちって言うだろ!?

 …いや、違う。こんな言い訳がしたいんじゃない。やっぱり、心の奥底で、私は、仲間以外の人間を見下しているのかも。それが、態度に出ていたんだ。

 …謝ろう。今まで、沢山不満を抑えてもらっていたんだ。きっと。

 女は、狭い寝室の窓枠から、何もない夜空に、そう誓っていた。


 翌日

 スーファンが目を覚ますと、何やら遠くから物音が聞こえた。気のせいかと思い、耳を澄ますが、それは確かに、キッチンの方から聞こえている様だった。

 恐る恐る寝室の戸を開けると、昨日言い争った同居人が、料理をしていた。

「リク…。」

そう名を呼ぶと、同居人はこちらを振り向き、ぎこちない様子で話し出した。

「…あ、スーさん、起きたんですね。……その、昨日は、すみませんでした。」

「いや、こっちこそ、ごめんなさい。」

「……ご飯、できたら、一緒に食べましょう。」

「うん。ありがとう。」

 緊張した様子のスーファンが、席に着こうとして、鮮やかな動作でカーペットに躓いて転倒した。

 ドゴン!と、額が地に着く大音量とは裏腹に、沈黙がその場を支配する。

 その無音は、スーファンには酷であった。凡ミスを繰り返したことで、怒らせてしまった部分もあった。そう考えていたスーファンは、また怒らせてしまうのではないかと、己の足をただ恨むしかなかった。

「ぷっ!何やってんですか!本当に…!あはは!」

 ハルは、転倒に笑って応えた。

『緊張と緩和』スーファンは、お笑いにはそれが大切だと、小耳に挟んだことがある。一連の流れは、一ミリも笑えるものではなかったが、緊張を緩和させた、その一言こそが、お笑いにも似た安心材料であっただろう。


 しばらくして、2人で、卓を囲む。

 皿の上には、鮮やかな野菜のサラダと、主役を確信するゆで卵が、幅を利かせ陣取っているサンドイッチが2枚あった。

 美味しさしか見出せないその姿を見て、感謝もそこそこに食べ始める。そうしなければ、いけない様に。それも、一種の作法であるかの様に。

 ただただ、黙々と食べ続ける。食べ終わった後は、様式美の謝罪合戦が繰り広げられることなど、2人とも分かっていた。それもまた良し。短くも長いマラソンを楽しむのも、また一興。そう、無言でパンを頬張る口から、聞こえてきたような気がした。


「スーさん、ごめんなさい、おれ、スーさんに嫉妬してたんです。地道な努力が嫌で、分不相応な夢を思い出してしまったんです。」

「私こそ、ごめん。リクの事情も分からないのに、勝手なことばっかり、言って。」

また少しの沈黙が訪れたが、もうそこには、感情のすれ違いは無かった。

「やっぱり、その、家事、教えてほしい。ちょっと時間はかかるだろうけど、絶対、覚えるからさ。」

「! それなら、業者の方に皿を20枚ほど頼まないといけませんね!」

「どんだけ割るとおもっとんねん!」

「ははは!冗談です。じゃあ今から、一緒に皿洗いから、やっていきましょっか!」



その間、魔害による死者が、ついに100人を超えた。


  ギルド『セブンシー』

「ハピちゃん、ダル。おめでとう。今日で楽しい10連勤達成だ。こんなに忙しいのは、魔王討伐以来だな。」

「ボス、労災って、冒険者にも適用されますか?」

「聞いてくれるか、ダル。勿論、きかない。」

「ちょっと、ウチもホームシックんなってきたかも〜。」

「これは由々しき事態だ。私は、この機に魔法省の刷新を図ろうと思う。」

「!? ぼ、ボス!?ちょっと、そんなこと言っていいんですか!?」

「勿論良いに決まっている。上の人間の、冒険者使い捨ての思想には、もう付き合ってられない。今月に入って、何人の冒険者、市民が亡くなっているのか、数えたくもない。」

「……でも、奴ら襲撃されると分かれば、盗聴でもなんでもして、絶対隠れ通すんじゃないすかね。」

『それも織り込み済みだ。こういうのは鮮度が大事だからな。すでに、私は魔法省に潜り込んでいる。』

 『えー!?どういうことだー!?』

『ここで、魔法省の方々に問題でーす!今ここ、ギルドセブンシーで喋っているアチャさんは、何者でしょーうか!正解はー?』

『……俺の魔法で分身させたアチャさんでしたー。』

『分かったかなー!?それじゃ!また次回!』

 

「くそっ。」

 扉を開く音と同時に、銃声が響き渡る魔法省幹部室。

 モニターには、セブンシーの、盗撮映像が映し出されていた。が、それもすぐ赤に染まった。

 数分後、魔法省の最高幹部、アデリーの周辺には、血の池に沈む同僚と、己に銃口を向ける下民の姿が見えた。

「おい、魔法も使えない下民の分際で、よくも私に刃向かったな…!」

「……お前らが、差別至上主義なのは、才能か?それとも、流れる血がそうさせるのか?お前はどうだ?よく見せてもらおうか。」

「ま、待て!何が不満だ!?お前らには、魔王討伐の報奨金も、たっぷり与えてやったじゃないか!」

「……金?そんなもののために、血を流したとでも思っているのか?…ああ、そうか。下民の感性は理解できないか。悪い悪い。分かりやすいように、脳みそを変えてやろう。」

「くそ!くたばれ!貧乏人め!」

その時、アデリーが放った風魔法が、アチャの頬を僅かに掠めた。

「冒険者たちにばかり働かせて、すごく鈍ったみたいだな。」

 パンっ!と、9mmの衝撃が幹部室にこだました。

 

返り血に塗れたアチャは、疲れた様子で、空いた椅子に座り込む。

 

 ……たとえ大嫌いな悪人だとしても、人を殺すってのは、気分が悪いな。スーファン、お前は、どんな気持ちでこの一年を、過ごしてきたんだ?


 『ボス!そっちどーなってます!?てか、聞こえてますかー!?』


 すぐ、戻るよ。

 これで、悩みの種は一つ消した。

 魔法を使えなくても馬鹿にされない世界に、一歩近づけたかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ