第一話
スーちゃん、よく頑張ったね。君は、魔法が使えなくなってからも毎日、魔導書を欠かさず開いていたね。
この魔法は、君の努力の集大成だ。
……あぁ、本当に、なんて美しい…。
実は、最後まで話せなかったことがあるんだ。聞いてくれるかな…。
俺は君に、とある魔法をかけていたんだ。
――――
ある日の昼下がり。家の扉を乱雑に開く音がすれば、それは血走った目で刀を突きつけてきた。
「おい、女。今すぐ金目のもんと食料を全て渡せ。さもないとお前を殺す。」
「…だれ、あんた。」
「うるせえ、いいからとっとと出せ!…って、あんた、もしかしてスーファンドットか?」
包丁を突きつけてきた男は一転して、リビングの椅子に、居心地悪そうに座る。
「へー。ダンジョンでパーティー全滅して、二進も三進もいかなくなってするのが強盗ねぇ。」
「うるせえ、パニックになっちまったんだ。
…こんなこと、初めてだったんだよ。」
「…ふーん。まあ、教会にはお仲間を蘇生するように言っといてあげるわ。あんたは早く帰って、新しいパーティーメンバーでも探したら?」
「……なあ、おれ、この後、皆んなに愛想尽かされるのかなぁ…?」
男は不安げな顔を隠すように、項垂れる。
「……詳しい状況を知らないから何とも言えないけど、全滅を経験してメンバーを変えなかったパーティーは、多分いない。
…滅多にあることじゃないんだよ。全滅なんて。」
「全滅って、俺は生きてるけど…」
「1人だけ生き残ってるようじゃ全滅と一緒だよ。どーせ尻尾巻いて逃げてきたんでしょ。」
「………そうだよなぁ。生き返ったら、ちゃんと謝らねえと…。はは、そんなんじゃ無理か。逃げた奴なんか、そりゃ愛想尽かされるよな。」
「あっ…。ま、まあ、生きて帰って蘇生の手続きをするのも、大事な役目なんじゃない!!?」
「…………」
「…………」
気まず〜〜〜〜〜い!なにこの人!なんで強盗してきたと思ったら人んちでずっと凹んでんの!?やだ〜〜〜早く帰って〜〜〜〜!!!
「…あ!そういえば、何で私の名前知ってたの?あんたも魔術師なの?」
「あんたレベルの人、帝都で知らない人はいないさ!!
――俺、昔、あんたに救ってもらったことがあってさ、
森でリザードマンに殺されそうになった時、あんたがあの炎で撃退してくれて。そこから俺も、人を助けたいと思って剣士になったんだ。でも、おれ、全然ダメで、今回も、こんな体たらくで……」
「…ふーん。そう。」
って、あなたその命の恩人の家に強盗してますけど!!いい話風に語ってますけども!!まじはよ帰ってくれ!!
「だからその、…ずっとあなたに感謝を伝えたかったんだ。」
だーー!!ぜってえ今じゃねー!!
「…それはいいけど、あんたもこれから忙しいでしょ?早く教会に帰って仲間を迎える準備をしたら?
…まあ、怒られるのも、たまには良いんじゃない?」
この励まし方って、合ってる…?
「ふっ。そうかもしれない。ありがとう。本当に。近いうちにまたお詫びをしに来ます。迷惑かけました。」
「あ、ああ。そう。」
「強盗しようとしてすみませんでした。」
「あ、うん、そういうのは多分もうやめたほうが良いと思う…。」
「はい…。」
ちゃんと謝ってきた……。悪い奴ではないのか?真面目さが暴発してあーなったのかな?
……いやだからって強盗はやめとけ!!?
翌日
教会に行くと、復活したパーティーメンバーたちが座っていた。その中の1人、レンダが、リクを見つけた瞬間、怒りの形相で突っかかる。
「おい!リク!お前のせいで武器も失ったし食料も取られた!何より俺たち全員死んだのに何お前だけのうのうと逃げ帰ってんだ!!」
「ごめん…。1人だけ逃げて、最低だよな。本当に、リーダーとして未熟だった。ごめん。」
「生きて帰るのは別に良いんだけどさ、私たちの物品は回収できなかったわけ?」
「すまん、逃げるのに夢中で…。」
「はぁ……。呆れた。そんなんでリーダーが務まると思うなよ!もうお前にはついていけない!脱退させてくれ!」
「俺も…」「私も。」
「ごめん……」
レンダ、ライオット、リピチェーノ……。ごめん、今まで。おれ、本当頼りなかったよな。いつも大事な選択を間違えてばっかでさ。何度も困らせたよな。本当…
……はぁ。また一からだ。でも、しばらく冒険できる気がしないなぁ。
……おれも死ぬのが「正解」だったのかな…。
…それからずっと、答えのない問いに迷っている。
おれが死んだら、パーティーは全員解散とはいかなかったのかもしれない。1人くらい、残ってくれたのかもしれない。
そもそもあの洞窟はまだ俺たちには早すぎたんじゃないか?まさかドラゴンが出るなんて聞いてなかった。
「最近は」出てないだけだったんじゃないか?
そんなのも、他の冒険者から又聞きした情報でしかないだろ!
……とにかく、未熟なんだ。おれは。何もわかっちゃいなかった。
…誰かに、教えを請いたい。
……スーファンドットさん、あの人だけだ。俺の話をあんなに聞いてくれたの…。会いに行きたい。あの日のことをしっかり謝って、もし、もし可能なら、あの人に導いてもらいたい。あんな伝説級の冒険者に指導してもらえるなら、そんな贅沢なことはない。あの人に会いに行こう―――
ピーンポーン
「はーい、うぇ!あ、この前の、パーティー全滅の…」
「すみません。この間はご迷惑おかけしました。」
「あぁ、まあ、どうぞ。」
「お邪魔します。」
「そういえば名前聞いてなかったけど」
「リクです。」
「そう。知ってると思うけどスーファンドット。よろしく、リク。そんで、仲間とはどうなったの?」
「まあ、パーティー解散ということで…。」
「あらあら。まあしょーがないね。こればっかりは、新しい出会いを探すしかないよ。」
「はい…。でも、そのことで、今回お頼みしたいことがあって…! あなたに、新しいパーティーリーダーになってほしいです!!」
「!? ちょ、ちょっと待って待って!…」
「俺は本気です!!迷惑でなければ、あなたにご教授願いたいのです!!冒険のプロであるあなたに!!」
「……んー、リクは、剣士なんだっけ?」
「? はい。」
「じゃあ知らないのも無理ないかなぁ。
…実は私今、休職中なんだよね。」
「え!?どおりで最近名前を聞かないと!」
「失礼な。…まあ、こればっかりはしょうがないんだけどね。今は魔法を一つも出せないただの穀潰しなので、そーいうの期待するだけ無駄でーす。」
「なぜか、理由を、お聞きしても?」
「詳しくは、言いたくない。でも、私の魔法で、人を傷つけてしまって、それがトラウマになって、……って感じ。ここまでしか、まだ言えない。」
「なるほど。…それは、言いたくないことを言わせてしまってすみませんでした。」
「いや、まあ知らなきゃ無理もないから。だから、別のプロを頼りな。それこそ、剣士のプロとかさあ。」
…あんなに凄い魔法を出せるこの人でも、思い悩んで、休んでしまうことがあるのか。
…それが、どれだけの差だろう。この人はきっと、仲間に悲しまれただろう。「あなたがいないと、大変だ。」と。
おれは…おれがいなくなって、誰が悲しんだ?パーティーメンバーの、誰が――
「…おれに、何か出来ることはありますか?」
「え?」
「おれはあなたに命を救われて、剣士を目指して、今ここにいます。今度はおれがあなたを、…救えるとは全く思いませんが、何か少しでも手伝えることがあったら手伝わせてください!」
「んー、じゃあ家事!」
「え?」
「世の中の家事という家事ぜーーんぶやって!!私毎日家事のせいで発狂しそうだったんだわ!まじで!良かったー!助かるわーー!!これから毎日家事してくれるってワケ!?」
「は、はい。まあ、それでいいなら…。」
「よっしゃー!家事地獄かいほーう!!これからよろしく!リク!」
「よろしくお願いします!」
「ところで、リクって何歳なの?」
「今年で25です!」
「え!年上だったの!?ごめん私23で…」
「いえ!そんな!全然今まで通りで大丈夫ですよ!?」
こうして、恩人との不思議な同居が始まった。




