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7話 ショッピング

 俺は今日、日課を早めに終わらせた。


 理由は簡単、明日のレイラの誕生日プレゼントを街に早く買いに行かなければならないからだ。此処から山を超えてリオル街へ行くのにもかなりの時間が掛かる、夕方に帰る為にはこの時間でギリギリだろう。


 そして今日の買い物にはライを連れて行こうと考えていた。


(よし、ライを起こしに行くか……)


 薄暗い廊下を歩き、ライの部屋の前で足を止める。軽くノックして中に入ると眠たげなライが顔だけ布団から出していた。


「んー……なんだよ……まだ暗いじゃねーか……」


「おはようライ。悪いんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」


「はぁ?なに言って……」


「街に行きたいんだ。レイラのプレゼント、一緒に選んでくれないか?」


 その言葉でライの目が一気に覚めた。


「あー……なるほどね。確かに今なら買いに行かないと夜遅くなっちまうな」


「そうなんだよね」


「でもよ……」


 ライは起き上がりながら首を傾げた。


「なんで俺を連れてくんだ?別に一人でもよくねぇか?」


「正直何あげればいいか分かんないだよ。そもそもこんなにお金があるのも初めてだし、ライならうまく選べるかななって……」


 フィルの所持金は現在約5万ダリス、贈り物を買うには充分過ぎる額。


 何故こんな額のお金をフィルが持っているかと言えば、12歳になってからダグ爺の仕事を手伝ってお小遣いを貰うようになったからだ。


「レイラ姉ならフィル兄から貰った物なら何でも喜ぶだろ」


「え〜そうかなぁ〜」


「うぜぇ」


「まぁ冗談は置いといて、どうせならレイラに良いもんあげたいだろ?だからついてきてくれよ〜」


「はいはい、分かったよ。ちょっと待ってな」


 ライが急いで着替え始める中、窓の外を見た。東の空が、少しずつ明るくなっている。


(レトスとルーチェにもなんか買ってあげるか……ないがいいかな)


 二人の小さな冒険が、静かな朝の中で始まろうとしていた。




 ▲▽▲▽▲▽▲



 フィルが空を眺めていると、着替えを終えたライが声をかけた。


「よし、行くか〜……ってか朝飯は?」


「みんなのはレイラが作ってくれるだろうし、どうせなら俺らは街で食べようよ」


「おっ、太っ腹だな」


 二人は小声で話しながら階段を降り、玄関に向かう途中



 一つのドアが開かれた。


「「あ……」」


 フィルとライは顔を見合わせる。開いたドアから出てきたのは起きたばかりであろうレイラだった。


「ンーおはよう、フィル、ライ。随分早いのね」


(やっばい、完全に予想外だなぁ……別に出掛けるから朝にはバレるって分かってたけど、一応サプライズだし)


「お、おはようレイラ……」


「レイラ姉、おはよ……」


 二人は少し慌てた様子で挨拶を返す。


「どうしたの?着替えまでして……お出掛け?」


 レイラは優しく微笑みながら尋ねた。しかし、その笑顔の裏に鋭い観察眼が光っているのが分かる。


(バレてない?もうバレてるよ〜これ)


 バレてる予感がせれど今更誤魔化す方針は変えれない為、嘘に嘘を重ねるフィル。


「あ、ああ……その、ダグ爺の仕事を手伝いにね」


「へぇ……手伝いねぇ」


 レイラは意味ありげな表情を浮かべた。明日が自分の誕生日だということを、もちろん覚えているはずだ。


「あ、朝ごはんは外で食べるから大丈夫!」


「そう……気を付けてね」


 レイラはクスッと笑い、優しく二人の背中を押した。


「じゃあお見送りしなきゃね」


 3人で歩いて玄関に向かう。後ろのレイラが変に怖く感じるのは気のせいではないだろう。


「夕飯には帰ってくるのよ?」


「うん、約束する」「おう」


「じゃあ二人共、行ってらっしゃい」


「「行ってきます」」



 玄関を出て少し歩いたところで、フィルが溜め息をつく。


「はぁ……バレバレだったねぇ」


「まぁいつかはバレるし良いだろ」


「これはハードル上がったね」


「燃えるなぁフィル兄」


 朝もやの中、二人は街へと続く道を歩き始めた。





 ▲▽▲▽▲▽▲





 歩き始めて約一時間が経過した頃。


「このまま行けば八時頃には着くかな?」


「そうだな、それより腹減ったけど」


(やっぱなんか少しぐらい食べるべきだったかなぁ、今日はなんか魔物とよく遭遇するし思ったよりライが疲れてる。流石に死ぬなんてことは起きないけど怪我がないことには越したことないし、次からは無視だな)


「ライ、背中に乗ってくれ。危険な近道を使って丘陵地帯まで突っ走る」


「はぁ?別に腹減っただけで疲れてはねぇし、別に一緒に走っても速度変わんないだろ」


「うん、だから“魔法”を使う」


 初級 無属性魔法 「無化(ギアス)


 白い粒子がフィルの体を纏う、全身に力が漲り、体の中で魔力が渦巻くのを感じる。


「これでよし!さっライ、早く乗れ」


「助かるけどよぉ、まぁ良いか。ありがとなフィル兄」


 フィルの背中にライを乗せ、二人は街を目指して走りだした。魔法の効果で強化されたフィルの脚力は、通常の何倍もの速さで地面を蹴り出します。


「うおっ!相変わらずすげぇ速さだな!」


 ライは思わず叫びながらフィルの肩にしがみつく。起伏の激しい山地帯に時折現れる魔物たちを巧みにかわす、太陽が徐々に高くなり、朝靄が晴れていく様子が二人の視界に広げる。


「あっ、フィル兄!あそこに赤い実がなってる木があるぞ!」


「おっ、グロースベリーか!珍しいな、帰りに見かけたらついでにとろう」


 フィルは魔力と闘気を効率的に使いながら。険しい山道を駆け上がり、時には小さな渓流を飛び越えながら、山を駆け抜ける。


「よし、山抜けたしあと少しで街が見えてくるはずだけど……」


「おっ!見えてきたぜ」


 ライの目には朝日に照らされたリオル街の輪郭が遠くに見えた。


「あそこがリオル街の関所だな」


 街の入り口には、大きな石造りの関所が建っている。朝日に照らされた灰色の石壁は、荘厳な雰囲気を醸し出す。


 関所の両脇には、此処アスター王国の紋章である「紫苑の花を持った女神」の旗がはためいている。


「この時間なら関所もガラガラだなぁフィル兄」


「前回は商人の人達とか冒険者さんがいっぱい居たからねぇ、押し寄せる前に着けて良かったよ」


 関所に近づくにつれ、既に数台の荷馬車が検査を待っている様子が見えてくる。街の警備兵たちは、眠そうな表情を浮かべながらも、きちんと職務を果たそうと周囲を警戒している様だ。


 フィルは魔法を解いて関所まで残り数十メートルのところで立ち止まる。


「ん〜やっぱりきっついなぁこれ、魔力ももう少ししかないし……」


「お陰で予定の倍早く到着できたけどな」


 ライが背中から降り、二人は肩を並べて関所へと歩き始める。朝の涼しい風が二人の汗ばんだ体を優しく撫でていく。


 自分達の番が回ってくると見知った警備兵のおじさんが一人が声をかけてきた。


「おぉフィルにライじゃないか、一ヶ月振りぐらいか?ダグラスさんは一緒じゃないのか?」


「おう〜ばもさんも久しぶりだな、残念だけどダグ爺は今日いねぇんだ」


「今日は別件だからね、レイラにプレゼントを買いに」


「ほぉレイラちゃんにプレゼントかぁ、俺も死んだ妻に昔なぁ頑張って稼いだ初任給でブレスレットを……」


「案外オシャレなんだな、ばもさん」


「ブレスレットかぁ……アリだな」


「まぁまぁ若者の感性はおれにゃあ分からん、だけどいつの時代も自分でいいと思った物が常に最善なんだ。それだけは覚えておけよぉ」


「分かったよ、肝に銘じとく」


「返事よし、それよりお前ら朝飯は食ったのか?」


「「まだだけど」」


「じゃあこれで美味いもん食ってこい」


 そう言ってバモさんはポケットから取り出した3千ダリスをフィルに握り締めさす。


「え!良いよばもさん、今日はお金いっぱい持ってきたし」


「馬鹿言え〜女はお金がかかるんだよっ。それに子供が遠慮なんてするもんじゃね」


「こんだけありゃあ相当いっぱい食えるぜ」


(うーん受け取らないって言っても聞かないだろなぁ……ありがたく貰おうかな)


「いつか必ず何かで返します」


「はっはっは、楽しみにしとくよ、因みにこの時間でやってる美味しい所に“銀の緑定”って飯屋があるからアテがないなら行ってみな」


「「あーい」」


「じゃあまたな」


 ばもさんに背を向け二人は遂にリオル街に入る。目の前にリオル街の石畳の大通りが広がり早町の為か昼ほどの活気はなく、店も殆どが閉まっている。


「閑散としてるね」


「じゃあ銀の緑定に行ってみっか」


 フィルとライは石畳の大通りを歩いていく。大通りの両側には数多くの建物が立ち並び、まだ開いていない店の軒先には魔道具の街灯が取り付けられていた。


「あっ、ライ見てみろ、あれじゃない?」


 フィルが指差した先には、緑の蔦で縁取られた古めかしい木製の看板が見える。看板には"銀の緑定"の文字が銀色の文字で美しく描かれいる。


「おぉ、中から良い匂いがしてきてるな」


 店の外壁は明るい茶色の石造りで、入り口は深緑色の重厚な木製ドアで。取っ手は銀色に輝く蔦の形をしていた。


「よし、入ってみよう」


 フィルがドアを開けると、温かい空気と共に焼きたてのパンの香りが二人を包み込む。


 店内は思ったより広く、天井が高い造りになっている。壁には明るすぎないランプが優しい光で室内を照らしている。


「良い匂いだなぁ……」


「ただでさえ腹減ってるってのに」


 テーブルは全部で15卓ほどあり、その半分は既に埋まっている。テーブルと椅子は全て木製で、テーブルの上には銀色の食器が置かれている。


 店内の壁には様々な植物が這わせてあり、所々に小さな白い花が咲いている。


 奥にはL字型のカウンターがあり、その向こうではエプロン姿の料理人たちが忙しそうに動き回っている。カウンターの上には今焼きたての香ばしそうなパンが並べられている。


「結構人いるなぁ」


「うん、朝からこんなに混んでるってことは相当美味しいんだろうね」


 制服を着た若い女性の給仕が二人に気付き、笑顔で近づいてきた。


「おはようございます。ご案内致しますね」


「カウンターでいいぜ」


「ではカウンターへどうぞ」


 給仕の女性に案内され、フィルとライはカウンターの席に座る。カウンターは磨かれた木製で、木のいい香りがする。


「ご注文は決まりましたか?」


 給仕の女性が温かい微笑みとともに尋ねる。フィルは黒板に書かれたメニューを見つめ、ライに目を向けた。


「何か食べたいものある?」


「うーん、朝飯だし軽めのがいいかな」


 給仕は二人の会話を聞きながら、優しく提案した。


「今朝のおすすめは、自家製パンと、山羊のチーズを使ったスクランブルエッグ、それに季節のサラダです。それとパンは今、窯から出したばかりの出来立てです」


「旨そう〜それにしようぜフィル兄」


「じゃあそれでお願いします」


 フィルは笑いながら同意する。


 給仕は注文を受け、キッチンに向かった。間もなく、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂い始める。小麦の甘みと、焼き上がりの香ばしさが鼻腔を満たす。


 料理が運ばれてくると、朝日が店内に差し込み、料理を優しく照らした。分厚い自家製パンは、外はカリッと焼けて中はふんわり。


 黄金色に輝くスクランブルエッグは、山羊チーズのクリーミーさが光る。新鮮な季節のサラダは今日取ってきた物だろうか、瑞々しさが見て取れる。


「うわ、マジで美味そう!」


 ライが声を上げる。


 フィルもパンを一口かじると、口の中に広がる味に目を細める。パンは噛むほどに小麦の自然な甘みが感じられ、チーズの塩味と野菜の爽やかさが絶妙に調和していた。


「うめぇ」


「ばもさんに教えてもらって正解だったな」


 そのまま勢いよく食べ進め、フィルとライは満足そうに食事を終えて店を出た。朝日が高くなり、街も少しずつ賑わい始めている。


「じゃあこっからどうするんだ?」


 ライが伸びをしながら尋ねる。


(もうちょっと遅くなる想定だったからまだお店が全然開いてないんだよなぁ、どうしよ)


「まだ店空いてないしよぉ、この前ダグ爺が言ってた魔導書店行ってみねぇか?」


「あぁ、魔導書店か……確かにちょっと気になってたし行ってみるか」


「助かる、最近詰まってる”家系魔法“のヒントとかあればいいんだけどな」


「なんかはあるんじゃないかな?魔法の専門家もいるだろうし」


 そんな会話を経て、前にダグ爺から教えてもらった魔導書店“カリストロ”に着いた二人。


 建物は一般的な二階建ての家屋とは全く違う異様な雰囲気を放っている。


 黒く変色した木材で組まれた建物は不自然な角度で歪み、屋根は鋭く天を指すように尖っていた。壁には蔦が張り付き、所々に怪しげな形の装飾が施されていた。


 玄関には「カリストロ」と書かれた古びた看板が吊るされており、その文字が淡く光を放っている。


(すっごい建物だな、なんか魔法の店ってよりは昔話に出てくるの不気味な魔女の家って感じだな)


「うわ、こえぇ……」


「雰囲気……あるね……」


 フィルが扉に手をかけると、「キィ……」という不気味な音を立てて開いた。店内は薄暗く、古書の独特な匂いが漂っている。


「てかこれ開いてんのか?」


「看板が光ってたし大丈夫だと思うんだけど……」


 二人が躊躇いながら一歩を踏み出すと、突然店内の魔導灯が次々と点灯し始めた。天井まで届きそうな高さで本が所狭しと並んでいる。古い本から新しい本まで、様々な魔導書が並んでいた。


 本棚から一つ手に取り適当に少し読んでみるが専門用語が多すぎて全く読めないフィル


(全部魔導書ではないよな……流石に。童話とかもあるな、それにこれは何だろう?魔道具?)


 魔道具とは魔法国“エントリア”で主に作られる特殊な道具、戦闘にも日常にも使用用途は多岐に渡る。


「歓迎されてんのか?これ」


「うーん……わかんないなぁ」


「なんだい餓鬼共、客かい?」




 後ろを振り向くと黒いローブを身に纏った老婆がいた。


 な……


 突然現れたことに驚いたのではなかった。驚いたのは老婆の見た目、右目には眼帯。杖を持っている腕は義手と一目で分かった。


「えーと……店員さんですかね?」


「店員も何もこの店にはアタシしか居ないよ。それでこの店になんの様だい?魔導書かい?それとも魔道具?」


「なんか買うって言うよりは魔法について教えて欲しいっていうか」


「俺もです」


「ほーう……見た所まだ11とかそこらの餓鬼の癖に随分勤勉じゃないか。そうゆう奴は好きだよ……いいさね、少し授業をしてやる」


「「まじですか」」


「マジマジだよ、ついてきな」


 驚愕してる二人を置いて老婆は店の地下へ。急いで階段を降りて着いていくと机に椅子、黒板が置いてある部屋に案内された。テーブルの上には古びた魔導書が山積みになっている。


「さて、餓鬼共……まず初めに……魔法についてどのくらい知ってる?」


「正直全然、固有魔法は使えますけど……他は初級魔法を魔導書で習得したぐらいです」


「俺も、て言うか魔法の知識を知る機会があんまりねぇ。魔導書だって高いしな」


「なら初歩的な所から話してやろう」


 そう言って老婆は黒板に文字を羅列していく。


「最初に魔力について話すよ。魔力ってのは魔法を使うために必要なエネルギー源さ、上限は人によって大きく変わるが……絶対に少しはあるもんだ。そして魔力量はどれだけ修行しても対して変わらないよ。だからこの魔力量こそが魔法を使うことにおいて一番大事なことさ」


「ライはともかく俺は少ないんだよなぁ、増やす方法とかないんですかね」


「さっきも言った通り魔力量が変わることはほぼほぼないよ。まぁ魔力回復薬を使えば直ぐに回復するけど、あれは高いからね……まぁないものねだりは無駄さ」


「「なるほど」」


「分かったかい?そしてその魔法には主に3種類ある」


 個人に宿りその者しか使えぬ“固有魔法”


 家系の血を継ぎ代々受け継がれる魔導書を読んで習得する“家系魔法”


 一般的な魔導書などを読むことで誰でも習得出来る“一般魔法”


「「ほうほう」」


(俺が使えるのは固有魔法と一般魔法、ライは家系魔法と一般魔法か。主にってことはまだあるのかな)


「まずは一般魔法から解説するよ、一般魔法を使うにはその属性の適性がないと会得することは出来ん。属性の種類は例外を除けば火、水、木、無、光、闇、風、地、雷、氷の10種類」



「人によって持ってる適正の数は違うが……最高で3つ、最低で0もある。餓鬼共、あんたらはどうだい?」


「俺は火だけだな」


「俺は無と風ですね」


「ほう!無属性かい!中々無属性は居ないよ。私でも久々に見たね」


「聞いたことがあります。無属性は珍しいから無属性の魔導書は中々ないと」


「その通りだよ、この店にも無属性のは置いてないね」


(うーん……中級以上の無属性魔法を覚えたかったけど……此処にもないのか)


「悪いね、続けるよ。そして一般魔法には難度毎に名前が付いてる」


 初歩中の初歩である初級


 魔導書で勉強すれば会得は出来る中級


 一人前の魔法使いの証明である上級


 才を持たぬ者をふるい落とす超級


 一般的な最高到達点と言われる極級


 人智を超える天級、


 誰も辿り着いたことがない至高の領域……神級


「誰も辿り着いた事がないのに、あるのは分かってるんですか?」


「古の書物からそう言った魔法があることは分かってるってだけさ、それに魔神辺りは使えるかもね」


(神級か……ダグ爺が使ってるので最高上級だったってことはダグ爺は超級は使えないのかな?まぁあれだけ剣を極めてたらそうか)


 聞いた内容を忘れないためにメモするフィル、ライはフィルがメモしてるのを見て気になる所を質問していく。


「俺らはまだ初級しか使えないんだけどよ、中級って会得しようと思えば直ぐに会得できんのか?」


「お前らにそれだけの才が有れば一週間程度で習得出来るだろうね……だけど大抵半年は掛かるよ」


「因みにお婆さんはどのくらい迄使えるんですか?」


「私は上級だね、余り才能は無かったんだけど魔法が好きでね……今はこんな場所で店をしてる」


「もう一個質問、俺たちの初級しか使えないって普通なのか?」


「別に普通だよ、どんだけ凄くても上級だけどそんな奴は化け物の類いだからね。それに魔法の適正がない餓鬼だっている、充分だと思うよ」


(上級か、ダグ爺レベルって考えると同じ歳で使える人がいるなんて信じられないな)


「質問がないなら固有魔法について話すよ」


「お願いします」


「固有魔法を読んで字の如く、その個人にしか使えない魔法だよ。個人魔法を持つか持たぬかは完全に運さ、どれだけ魔法の才があっても、3属性の適正があろうと無い場合の方が多い……私も無いしね」


「じゃあフィル兄すげぇってことか?」


「そうだね、無属性で固有魔法持ち……家系魔法はあるかい?」


「いや……親に捨てられたので……」


「そうか、悪かったね……でもあんたは魔法使い向きだね。中々いい線いくんじゃないかい?」


(魔法使い向きか……今までアスター流しか殆ど練習してないし


「今まで剣術ばっかりだったけど風魔法も練習しよかなぁ」


(無属性は身体強化とか武器付与とか剣と相性がいいんだよなぁ、風魔法は上級まで付与魔法とかないから避けてたけどそろそろ学ぶべきか)


「おいおい婆さん、家系魔法についても頼むぜ」


 少々話が逸れた所をいつにも無く真剣なライが戻す。


(ライはやっぱり家系魔法が気になるらしい、制御に困難してるから当然か……)


「家系魔法は簡単さ、大体歴史の長い家系に大体ある魔法でその家の血筋を持った者が秘伝の魔導書を読めば習得できる魔法さ。しかも歴代の取説があるから制御もし易い、そして万能な魔法が多いって特徴もあるね」


(家系魔法か……俺は使えないけど実際にレトスやダグ爺を見ると中々便利そうなんだよな、ライのもそんな感じなのかな)


「でだ、聞くってことは家系魔法について聞きたいんだろう?何が知りたいんだい」


 ライが遠慮がちに切り出す。


「家系魔法が制御できなくってよ……俺の家系魔法は召喚系なんだ」


「ほう!召喚系かい、中々珍しいね。ちょっとお待ち」


 老婆は興味深そうに眉を上げ、積み重なった本の中から一冊を取り出した。本を開くと、ページの間から淡い光が漏れ出る。


「召喚系と言っても色々あってね……私が今まで見たのは召喚獣だったり仲間を召喚するやつだったり、武器や魔道具を出すのもあったね。手こずってるってことは召喚獣かい?」


 ライは驚いた表情を浮かべながら答える。


「やっぱ分かるもんなのか?召喚は出来るんだけど言うこと聞いてくれなくてよ」


 老婆は深く頷きながら、ライの話に耳を傾ける。


「そりゃね、召喚系は慣れが一番大切だからね。特に意思のある生命体を召喚するのは難易度が高い。調伏にも時間は掛かる……だけどちゃんと毎日やってたら出来る様にはなるさ、焦る必要はないよ」


 老婆は本を慎重に閉じると、ライの方を向いて言った。


「少なくともここへ来てヒントを得ようとする熱意さえあれば大丈夫さ」


(ライからしたら太鼓判を押されたのは中々の朗報だろう、今まで頑張ってきた意味があったってことだし)


 少し横を見るとライの表情が少しだけ和らいでいるのが分かった。


「そりゃあよかった」


 老婆はにっこりと微笑みながら、ライの言葉に応える。


「そうだね……生憎だけど家系魔法の取説はその家ごとにしか無いから本を読んでも解決しないが、火属性魔法の本なら私の店に超級まである、いつか買いに来な」


「助かるぜ婆さん」


「火属性は超級まであるのに無属性はないんですね」


「なんだい嫌味かい?そんぐらい珍しいのさ、無属性ってのは」


「いえ、授業をして下さりありがとうございました」


 正直本当に感謝だ、きっと初歩中の初歩レベルの授業だったのにこんなに分かりやすく教えてくれるなんて。いつか風魔法を覚える時はここを使おう。そう胸に決めるフィルだった。


「老いぼれが助けを求める餓鬼の手助けをするのは当然だよ。むしろ最近の奴等は何でも一人で背負おうとして……可愛げがないったりゃあらしない」


 少し思うところがあったのだろうか……顔は下を見ていてよく見えないが、先程とは変わって静かで落ち着いた声だった。


「はぁ……久しぶりに人に教えるのも悪く無いね。他に質問がないならもう帰りな、もう私は眠いよ」


「眠いって婆さん……まだ昼の10時だぜ?」


「ここは普段深夜しか開けてないんだよ、私が夜行性だからね。だからいつもなら寝てる時間なのさ、だから眠くて眠くてしょうがない……」


「そうだったんですか!?本当にすいません」


 フィルは深く頭を下げる。ライも気付いて慌てて頭を下げた。


「そりゃあ悪かったな婆さん。今度魔導書を買う時は此処を使うから許してくれ」


 老婆は二人の謝罪に少し驚いたような表情を見せた後、口を大きく開け笑った。


「はっはっは!別に怒ってないから謝んなくていいよ!眠かったけど、楽しい時間だった」


 老婆は二人の頭をポンポンと軽く叩いた。


「さぁこれ以上は今日の営業に影響が出てちまう。早く出て行きな!」


「はい!本当にありがとうございました!」


「「失礼します!」」


 二人は再度頭を下げ、店を後にした。


「ふぅ、いろいろ学べたね」


 ライが通りを歩きながら感想を言う。


「おう、家系魔法の話とか参考になった。やっぱ専門家は違うな」


 街は次第に活気を取り戻し始めていた。朝の光の中、行き交う人々の会話や物音が賑やかに聞こえてくる。


「さて、次はレイラのプレゼントを探すか」


「そうだな。ないがあるかな」


 二人のプレゼント探しは始まったばかりである。










「おや?」


 最悪の日まであと……

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