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50話 自由と誇り

 ベンチに座りシェアト様の顔をちらりと覗く、この快晴の空に似合わない少し沈んだ表情。なんとか空気を変えようと冗談の一つでも考えてみるが、よくよく考えずとも真摯に相談に乗ればいいだけだと気づく。


 聞こえるか聞こえないぐらいのため息をして、シェアト様は静かに語り始めた。


「この国では基本的に権力者は皆、権力と同等の武力がある。武力……個人の力がなければ自由に生きることができないからだ。特に私の家であるシュヴァリアはな」


 シュヴァリア家は騎士団を運営している家系、その当主の娘となればどれほどまでに厳しい教育を施されたかなど想像に難くない。


「シュヴァリア家は特に厳しいってレクト様から聞いたことがあります、幼い頃から騎士団本部で訓練するって」


「あまり比べるものではないがな、どんな家にもそれぞれの規則がある。私自身そこまで不自由してるというわけではない、ただ悩みは一つ……レイバンとトニカだ」


「レイバンとトニカが悩み?」


「二人は生まれた頃から私に仕えることが決まっていた、本人たちの意思関係なくな。その責任や他者からの重圧からくる不自由、二人は遊ぶことも友人を作ることもできなかった、ただ強くなるため鍛え支えるために学んで……言葉しきれないほど感謝している。だからこそ二人には少しでも自由に生きてほしい」


「トニカは分からないですけど、少なくともレイバンはシェアト様に仕えられていることを誇りに思ってますよ」


 レイバンと過ごした期間はそこまで多くはないが、これが間違ってないのは確かだ。予定を立てる時、日頃のスケジュールも全てシェアト様第一で行動していて、そばにいられることをよく俺に自慢してくる。


 そんなレイバンが不自由さを感じてるとは到底思えないというのが正直な感想だ。


「誇りか……私にそんな価値はない。私はファスカ・レオンハートのように圧倒的な実力はなく、アーサー・ペルシオンのような大器もない。もし私に王に迫る実力があれば……二人を従者の鎖から解き放てるのだろうか」


「シェアト様……」


「フィル、貴公には感謝している。共に歩むことを決めてくれたのもそうだが、レイバンと友になってくれたことにな」


「俺が感謝したいぐらいなんですけど、なぜ友達になることが感謝に?」


「誤解なく言えばレイバンには友人がいなかった。レイバンは自分にも他人にも厳しいだろう、それに加え私に仕えてるという自覚がレイバンの目をより厳しくした、私に近づこうとしてレイバンを利用とする者も少なくなかったんだ。だからこそ驚いた、同じ仲間とはいえレイバンが友人関係を築いたのがな」


(確かにレイバンが俺たち以外と談笑していた記憶がない……悲しいかな)


「だから心配していたんだが、今は貴公らがいるのだから問題はないな」


「そうゆう心配してたってのをしっかり口にするべきだと思いますよ、シェアト様は」


「なに?」


 ホープの一件で俺は口にすることの大事さを学んだ、態度や行動でも伝わるが口が一番簡単に伝わる。そしてこういったすれ違いはちゃんと話し合う機会を設けるべきだ。


 そう思い俺はシェアト様にそのこと伝えた、ただ返ってきたのは意外な反応だった。


「それは無理だな、私は不安を吐露できる立場にいない。あんなことを言ったが今の私にできるのは少しでも上に行くために努力を重ね、二人の主として恥じない姿を見せるだけだ」


「……?でも俺には話してくれましたよね?」


「私にもわからない、模擬戦のせいで高揚していたか。不思議だな、貴公と話してるときは人と話してる気がしない……なんていえばいいのか、植物?精霊?何故か話してしまったのはそのせいかもしれない」


(これは褒められているのだろうか、というか植物みたいってのはもう反応がないってことなんじゃないのか?)


「初めてそんなこと言われました、結構反応してるつもりだったんですけど」


「無反応というわけではない、ただ私がそう感じただけ、だからそんな顔をするな」


 その後、二人の間に少しの沈黙が流れた。シェアトは自ら相談に乗って貰った手前、口を開かないことに罪悪感を感じていたがそれでも言葉は発さない。ただ思うはレイバンとトニカ、家族より固い絆で結ばれた二人の未来。


 そんなシェアトをフィルは待った、話しかけるわけでもなくただ隣に。このまま解散……その時だった。


「フィル、今日のことは感謝する。気分が晴れた」


 そこにはいつものシェアト様がいた。凛々しく一切の暗さを感じさせない顔に誰よりも先を見通す美しきローズピンクの瞳、初めて会った時と同じだ。


「迷った、貴公やあのホープ・ケッペルと共に過ごして笑うレイバンを見て、私が縛っていたのではないかとな」


「……」


「もう迷うのはやめよう、二人が信じた私を信じる。二人がいつか自由になった時……誇れる主になるために」


 その言葉とともにシェアト様は自らの部屋に帰っていった。心配するのが失礼になるんじゃないか、そう思ってしまうほど自信に満ちた背中を見せて。

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