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49話 早朝戦闘

「私と戦ってくれないか、フィル」


「???」


早朝、いつも通り軽いランニングをしている最中、道中いたシェアト様に呼び止められた。なんだと思ったら初っ端これである、俺は何かしてしまったのだろうか。


「そんな顔をするな、別に何かに怒っているというわけではない。ただ一剣士としてお前という剣士と手合わせしてみたいというだけだ」


腰に携えた翡翠の麗剣をなでながらシェアト様は闘気を纏う、こうじっくり見ればわかるがシェアト様の闘気はとても綺麗だ。よどみなく綺麗に体中に巡らせている、俺の何十倍もの魔力量があるのにそれを感じさせないのは努力のたまものだろう。


「別にいいですけど、今からですか?」


「今できるのであれば今がいい、これでも忙しくてな、予定が込み合ってる」


「じゃあ今から訓練場行きますか、こんな朝早くから空いてるかわからないですけど」


「空いているさ、事前に頼んでおいたからな」


「……まさか魔法で分かってたんですか?」


「断れはしないだろうと思ってはいた」


どうやらシェアト様の掌の上だったらしい、こうしてわざとらしい笑みを浮かべるシェアト様に連れられ訓練場に向かった。


「少し意外でした、シェアト様はあんまり戦いとかしないタイプかと」


強くてもむやみに手合わせはしない、そんな人は一定数存在する。師匠とかレクト様とかがそうだった、その人たちみたいな空気をシェアト様から感じていたんだが……


「……そうだな、貴公には今まで同年齢で自分以上の剣士にあったことがあるか?」


「同年齢ならないですかね」


「私もだ、同年齢に私に並ぶ剣士はいなかった。そんな時突然現れた自分以上の強者、挑まなければもったいないだろう」


「自分以上の強者だなんて、過大評価ですよ」


「謙遜するな、見れば分かる。それに嬉しかったんだ、最近感じていた壁……これ以上強くなれないんじゃという悩みが貴公と戦えば解決するかもしれない」


「もう十分強いと思いますけど」


「足りないさ、どれだけの剣技や魔法を修めてもまったくな」


(……四大貴族特有の悩みでもあるのかな、偉い人ってのは大変だ)


そうして話し合ってる間に訓練場へ、シェアト様は自分の剣を壁に立てかけると木剣を二つ手に取る。その一つを軽くこちらに投げつけ剣を構える。


「よっと、試合形式は体のどこかに当たれば止めでいいですか?」


「構わない、先に言っておくが手加減は無用だ。全力でこい」


「分かりました、じゃあ行かせていただきますよ」


両者は紛れもない実力者、それでも決着は一瞬で着くかもしれない。模擬戦とは見えない緊張した空気の中……シェアトが動いた。


アスター流 「紫突しとつ


初動、シェアト自身が最も得意とする剣技での襲撃。木剣といえど当たれば最悪大怪我になるであろう顔面を狙い撃つ、手加減や手心は一切ない全力の一撃。


「綺麗な紫突しとつですね」


それをフィルは剣先で弾いた、防ぐでも避けるでもなく弾く、しかも突技。見事な技に少なからず感嘆を覚えるシェアトだが、動揺はない。弾かれた勢いを利用しひたすら連撃を叩き込む。


シェアトの固有魔法である超直感で導き出された最適解への連撃、それをフィルはいなし続けた。時間にして一分にも満たない攻防は周囲に熱を帯びさせていたがしかし、場に似合わずシェアトの表情は冷めていた。


「最初にいったはずだぞフィル、全力でこいと」


「僕のことを評価しすぎですよ、魔法は使ってなくても本気は出してます」


「ではなぜ技を返すだけで攻めてこない」


「……えーと、それはですね……」


「万が一でも怪我を負わせたらレイバンに怒られる、そんなところか?」


図星を超えた図星、フィルは黙った。


「レイバンには私から言っておくから心配するな」


「すいません、レイバンからよくシェアト様に変なことしたらしばくと言われてるもので」


「冗談だろう、私に失礼な態度を取る愚者はこの学園にはいない」


「いやぁ、レイバンはマジな気がしますけど」


苦笑しながらそう答えると、シェアト様も小さく笑った。


「はは、レイバンらしいな。だが安心しろ、私はそんなヤワではない。さぁ、本気で来い」


「……わかりました」


もう遠慮する理由はない、それにこれ以上攻めなければ本気で怒られてしまう。俺は構えを変え、今度は自分から踏み込んだ。


「っ!」


シェアト様の目が見開かれる。俺の速度が、さっきまでとは明らかに変わったからだろう。木剣が空を切り、肩口を狙う。シェアト様は咄嗟に剣で受け止めたが、その衝撃で数歩後退した。


「凄烈、流石としか言いようがないな」


「まだまだいきますよ」


俺は間髪入れず次の一撃を放つ。横薙ぎ、縦斬り、突き。


三連撃を一息で繰り出す。


一手、二手防がれるが最後の突き、当たると思った。


四大貴族 秘技 「麗鱗れいりん


突如、当たるはずだった突きが跳ね返される。それによって自分の中で巻き起こる動揺と油断、そこを狙いシェアト様は脚を上げた。


(今の技……って蹴り!?)


ファスカ様といい剣にとらわれず全身を使うのがほんと上手い、多角的な視点というか視野が広い。ただ蹴りは受けなれてる、それにどれだけ意識外から打たれても剣を防いでずれた重心の姿勢から放った蹴りじゃ速度はお粗末。


「あっぶない!!ギリギリ避けれたぁ」


「今のは当たると思ったのだがな、剣だけではなく武の心得もあるのか?」


「多少は、それよりさっきの技は?」


「あれは四大貴族だけに共有されている剣技だ、昔から狙われることの多かった先祖が防御を主体に作り出したものだ。悪いが詳しいいことは言えないぞ」


(それは残念だな、四大貴族の技ならファスカ様も使う可能性があるから知りたかったのに)


それにしてもシェアト様は強かった、さっきの蹴りもそうだけどひやひやするばかりだ。


だけどそれでも……俺は負けない。


フィルが改めて距離をとる中、シェアト様は度肝を抜かれていた。


(強いなフィル、これほどまでに格上だとは思っていなかったぞ)


最初の接触で力の差を理解した、筋力に闘気……そして技の差。


全てが自分の上、少なくとも近距離戦闘では勝てない相手。


(魔法を使っても勝てるかどうか、ふっ……こんな者がいたのか)


己の力量には自信があった、強くなれねばならないと努力した自負もある。それでも世界は広く自分以上に学びを得てきた者など無数にいるんだと思い知らされる。


この剣の重さに技の精度、狙われたくないところにちょうど流れてくる剣筋、フィルに責められてから上手く攻勢に出ることができない。魔法を使えば隙でも生まれるかもしれないがこれは模擬戦、これ以上は許されない。


そしてすぐに避けられない剣撃が飛んできた。


この剣筋は避けられない。防御に徹しても、フィルの力なら押し切られる。


(私はやはりまだまだだな)


そう悟った瞬間、腹部に痛みが生えた。





「えっ!大丈夫ですか!」


剣は腹部をとらえそのまま入った、直前で力を抜いたからそんな痛くないはずだが倒れたままシェアト様は立ち上がらない。心配のまま近づくと目を開けたまま何か晴れ晴れとした表情を見せていた。


数秒間見つめあっているとシェアト様がおもむろに口を開いた。


「聞きたい、私は強くなれるだろうか」


(……もう既にというのは違うんだろう、多分剣の腕とかそうゆう話かな)


「なれると思いますよ、努力を続ければ今日より明日のほうが強くなれるはずです」


「そうか、そうだな」


「なんでそんなに焦ってるんですか、この学園の2年生で一番強いのはシェアト様なんでしょう。それだけですごいと思いますけど」


シェアト様は焦っているようだ、早く強くならなくてはと……失礼かもしれないがまるで俺みたいだと思う。もしシェアト様に俺のような理由があるなら……力になってあげたい。


シェアト様はゆっくり立ち上がると、普段の凛とした雰囲気と違い寂しげな空気を纏わせ沈黙を破った。


「……少しこの後時間はあるか」


「ありますよ、そこのベンチに座りますか」

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