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45話 先輩…戦えないんですか?

 ホープから助けを求められた今、俺は早速されたことや何を言っていたかなどを正確に聞いた。


 朝になる頃には計画を立て始め、授業中には何をするかはもう決め準備し始めた。


 放課後


 計画の為に必要な人がいるので俺は頼みに行かなくちゃならない、その間ホープはレイバンに任す。


「必ず手は出させないが…もっと他に頼んでくれてもいいんだぞ、友がやられて黙って見てるだけは性に合わない。今日の昼休みも奴等はこちらを見ていたこともある」


「そう言ってくれてありがたいけど、今回の件は俺のせいだし。それにホープに見せなくちゃいけないんだ」


「見せる?」「うん、レイバンも見ててくれ」


 そう言って別れ、俺が向かったのは…




「その目を見れば分かるよ、どうやら悩みは吹き飛んだのかな?」


 生徒会室には、まるで俺が来ることが分かっていたかの様に、扉の前に寄りかかりながらいつも通りの貼り付けた笑みを浮かべてるギル先輩がいた。


「はい、おかげさまで」


「君が来た理由は分かるよ、会長を使いたいんだろう?いい作戦だね、僕でもそうする」


「ありがとうございます、それでファスカ様には…」


 今回の計画にファスカ様は必要不可欠、逆に言えばファスカ様さえいればこの計画は成功したも同然。


「今ちょっといないから僕から言っておくよ、明日の昼休みとかでいいかい?」


「…ギル先輩って心読めたりしますか?」


 深夜の時から全てを見透かされてる様で最早怖さすらある。


「そんな便利な固有魔法は持ってないかな、まぁ年の功ってやつ?かな」


「一歳差でしょう…」


 そうして準備も終わり、次の日の昼休みの食堂、そこが本番。




 ▲▽▲▽▲▽▲




 食堂の空気が違った、いつもとは違う…絶対に何かが起きている。どれほど鈍い人間でも分かるそんな違和感の正体、それは普段いる筈のない絶対的カリスマの存在。


「あれってファスカ様じゃない?」

「なんで食堂に?」

「相手は副会長だ」

「今日ファスカ様の好きなものがメニューにあるとか?」

「レベル6とかいる感じ?」


 普段の賑やかな雰囲気はどこへやら、少しの緊張感が場を制していた。それはシドルー達も例外ではなく…


「シドルー様、何故ファスカ様が…」


「分からない、だが…」


 誰も近寄れぬ空気の中、シドルーは進み、ファスカ達の机の前に立った。


「ファスカ様、お食事中失礼いたします。シドルーと申します」


 丁寧に頭を下げ、最大限の敬意を払う。こんな場所にファスカ様がいる理由が分からない、こんな状況なら他の生徒同様見ているだけだったろう。


 だが問題がある、相手が副会長だと言うことだ。


(先日の件が話されている可能性もある…ここは少し失礼でも確認しなければ)


「ええ、構わないわ…でも先客がいるようだけど?」


 ファスカ様の視線が自分の後ろに向けられた瞬間、シドルーの背筋に冷たいものが走った。


(先客?一体誰が…)


 振り返ろうとした、その時だった。


「シドルー先輩!」


 食堂中に響き渡る大きな声。その声の主を、シドルーは知っている。


「俺と決闘して下さい!」


 フィルが真っ直ぐにシドルーを見つめていた。


「は…?」


 思わず出た間の抜けた声、聴こえていないのかフィルは止まらない。


「シドルー先輩はとてもお強いと副会長から聞きました、それを聞いて是非胸を貸していただきたく!」


(何を言っている…?こいつは)


 シドルーの頭が追いつかない。


(決闘?胸を貸す?先日の件を理解してないのか?)


「突然の申し出で驚かれたかもしれませんが、俺はどうしても先輩と戦いたいんです!お願いします!」


 フィルの声には熱がこもっている。周囲の生徒たちがざわめき始めた。


「あいつ、先輩に決闘を…」

「フィル君だっけ?シドルーになんでだ?」「ちょっと無謀じゃない?」


(まずいな、注目の的になるのは避けたい。決闘などせずともこんな平民は排除できる、こいつの手には乗らん)


 シドルーは冷静さを取り戻そうとした。ここで断ればいい。ただそれだけだ。


「悪いが私は忙しい。貴様の相手をしている暇は…」


「そう、残念です。てっきりシドルー先輩なら快く受けてくださると思ったんですが」


 フィルは肩を落とした。その演技がかった動きに、シドルーは違和感を覚える。


「まあ仕方ないですよね、俺みたいな平民相手じゃ、先輩の名誉にも関わりますし。それに…」


 フィルは周囲を見回した。


「大勢の前で、もし万が一にも負けたりしたら、シドルー先輩の立場がありませんもんね」


「…今なんと言った貴様?」


「いやいや、そんなことあるわけないんですけど!でも、そういう心配があるから断るんですよね?分かります分かります」


 フィルの言葉に、周囲のざわめきが大きくなる。


「あの子言うねぇ」

「三年生に随分生意気なこと言うね」

「シドルーが負けるわけないでしょ」


(安い挑発だ、そもそもそんなことをしたら貴様が責められるだけ、自ら墓穴を掘りにくるとはな)


 冷静に行け、風は自分に吹いている。


「私が負ける?笑わせるな。ただ単に…」


「シドルー」


 その一言で、食堂の空気が凍りついた。


 ファスカが、シドルーの名を呼んだ。


「ファ、ファスカ様…」


「こんな礼儀知らずの誘いをする後輩を指導するのも最高学年の役目よ」


 ファスカ様の声は穏やかだったが、そこには有無を言わせぬ力があった。ファスカ様は小首を傾げながら口を開いた。


「それとも、あなたには、後輩一人指導する余裕もないのかしら?」


 ファスカの言葉は場の流れを一気に変えた。


「確かにどんな戦いになるかは気になるよな」「三年生の力見せてやれシドルー」

「生意気な二年坊を分からせろ!」


(くっそ、外野が!まずい流れだなんとかしてこの空気を…)


「それで、どうなのシドルー、聞いているのだけれど」


「…!も、勿論ありますとも」


 シドルーは慌てて肯定した、肯定してしまった。


「じゃあ決まりね、シドルー、しっかりと戦ってあげなさい」


「…っ、承知いたしました」


 シドルーは歯を食いしばった。逃げ道が完全に塞がれた。


「えー!いいんですか!ありがとうございます、シドルー先輩!」


 フィルが嬉しそうに頭を下げる。その笑顔を見て、シドルーは気づいた。


(こいつ…これが狙いか!?…だが甘いわ)


「では、放課後に決闘場で。両者それでいいわね」


「はい、必ずや期待にお答えします」


「大丈夫です」


(逆に考えればこの決闘は寧ろチャンス、この平民を倒せばファスカ様に認められ、決闘で再起不能にすれば目的も達成出来る。大丈夫だ、風はこちらに向いている)


「ふん、決闘か…逃げないでくれよ」「逃げませんよ」


 鼻を鳴らし、シドルーは踵を返して取り巻きたちを引き連れ食堂を後にした。残った者達がガヤガヤするのかフィルはファスカ達の机に近づいた。


「ふーん、ギルもフィルも、私を利用したわね」


「ごめんなさいファスカ様、これしか思いつかなくて…」


「いいじゃないですか、可愛い後輩の為だから許して下さいよ」


 副会長の声も、どこか愉快そうに響いていた。


(くそ…完全に嵌められた)


 廊下を歩きながら、シドルーは拳を握りしめた。だが、もう後戻りはできない。


(いい、どうせ勝つのは私だ。あの転入生など、瞬殺してやる)


 シドルーの目に、冷たい光が宿った。

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