44話 友達だから
(副…会長?どうしてここに)
副会長に関して僕が知ることは少ない、というか副会長のことを知ってる人はあまり居ないと思う、理由はファスカ様が濃すぎるからだ。
三年生の代表、生徒会、最強、そこから連想されるのはいつだってファスカ様であり副会長はその陰に隠れがち、誰かと仲がいいなんて噂も聞いたことすらない。
そんなよく知らない副会長が…怒っている様に見えた。
「いやいやギルフォード副会長…後輩を虐めてるなど、勘違いですよ」
「流石にこの状況でそれは無理があるよシドルー、誰がどう見ても君達がその子をやったんだろう?」
「なら彼に聞きましょう、そしたら副会長の勘違いだということが…」
瞬間、僕の視界から副会長が消えた。
「大丈夫…じゃないか」
気づくと副会長は、僕の後ろに寄り添い怪我した所を観察していた。
「うーん、右腕の骨には少しヒビ入ってるかな?他はまぁ打撲だけど跡残っちゃうかな」
淡々と隅々まで診断されていたら、副会長は僕を抱えた。
「話すのが大変かもしれないからとりあえず医務室に行って診てもらおうか、このレベルの怪我なら充分治せると思う」
「は…はい」
(色々起こりすぎて、空返事してしまった)
突然の事態に驚いていたのは僕だけじゃない、さっきまで表面上は余裕な態度を崩さなかったシドルー先輩も焦って叫んでいる。
「は、話を聞け!」
「申し訳ないけど聞くのは後、この子を治療してそれからね。それじゃ」
そう言った瞬間、景色が変わった。
▲▽▲▽▲▽▲
(校舎裏じゃない、ここは…屋上?)
「ごめんね、色々事情がありそうだからさ、医務室に連れてったら怪我の詳細とか言わなくちゃいけないから、聞いてからにしようと思ってね。まぁとりあえず治そうか」
闇魔法 超級 「黒衣の医師団」
副会長が唱えると、鴉の羽の様なものが僕の怪我に触れる。あざは消え痛みは引いていく、闇属性の回復魔法なのはすぐに分かった。
「これで喋れるね、じゃあ色々聞かせてもらおっかな。なんであんなことになったの?」
何事もなかったかの様に、貼り付けた笑みを浮かべこちらを見つめる副会長。ここで言えばきっとシドルー先輩達のことを対処してくれるだろう、もしかしたら取られた愛銃も返ってくるかもしれない。
「な、何も無かったです。あの怪我はシドルー先輩に指導をつけてもらってできた怪我なんです」
それでもやっぱり怖い、報復されるかも知れないし何をするか分からない、そんなことされればフィルにも僕の家にも迷惑がかかる、なら我慢すればいい。きっとシドルー先輩はそうゆうことをする側の人だ。
(副会長がちゃんと対応してくれるかも分からない…頼るには不安が残る)
正直、あの状況を見てこれを信じる人はいないだろう。副会長も信じるわけないし引き下がるわけないけど僕は何も言わない姿勢を貫こうとした。
でもそれは無駄だった
「そっか指導か、なら僕の勘違いだったんだね、申し訳ないなぁ…シドルーにも謝らなきゃ」
「え…いやあの本当に何もされてなくて、口封じとかじゃなくて」
「え?うん?疑ってないよ別に、君が言うならそうなんだろうし。じゃあね、何かあったら生徒会まで」
またね、そう言って副会長は風のように去っていった。僕の予想を裏切り、それはもうあっけなく帰っていった。
座り込みながら茫然として何分か経った、すぐに帰ろうとしなかったのは身体の痛みは嘘のように消えていても心の整理が追いついていなかったから。
「…はは、帰らなきゃ…帰って謝らなきゃ…」
フィルに謝らなきゃ、許してもらえるかも分からないけど、それでも謝らなきゃ。
でも謝ったら心配するかな…いや、こんな僕のことなんて心配するわけ…
あぁ…吐きそうだ…
▲▽▲▽▲▽▲
屋上から降りてすぐに部屋の前についた。
心の整理なんてできちゃいない、身体の痛みが消えたせいでさっきよりも遥かに心が重く感じる。扉一枚挟んだ向こうがとてつもなく怖い、ドアノブがいつもより冷たい。
それでも開けるしかない、僕はいつものように、何事もなかったかのようにゆっくり扉を開けた。
「ただいま」
「なんだよホープ、遅かっ…た…」
フィルはすごくびっくりしてるみたいだ、
(そりゃそうだよね、怪我は治っていても服についた血や汚れは取れなかったから…でも気にしなくていいんだよフィル、僕なんかされる価値すらない人間なんだ)
そんな僕の気持ちとは裏腹にフィルは駆け寄って怪我をしてないか確かめてくる。
「ホープ!一体何があったんだ!?あいつらにやられたのか!」
「何も…何もなかったよ」
「何もないわけないだろ!なんだよこの傷、あいつらだろ、あいつらがやったんだろ!?」
(こんな…こんなに心配してくれる友達を僕は…)
贖罪になるかは分かんない、それでも誓うよフィル。
何があっても君の方には行かせないから…だから任せて。
「何もなかったから…今日は休ませてほしい」
「…弱味でも握られてるのか、あいつらに」
フィルの手が震えている。
フィルとは長年一緒にいたわけじゃないけど分かる、きっとフィルは本気で怒ってくれてるんだ。
「ごめんフィル、何も言えないや、これは僕自身の問題だから」
「分かった…分かったよ」
許してなんて言わない、でもこれだけは知ってほしい。僕は君に救われてたんだよ…
▲▽▲▽▲▽▲
深夜、屋上から見る学園は朝とは全く違う雰囲気だった。
風が心地よくてもどこか寂しく、心が締め付けられる気がする。それはきっとホープが自分を頼ってくれなかったからだ。
(どうすればいいんだ…何かいい手はないのか?ホープを救える一手…)
足りない頭を必死に働かせてもいい解決策が思い浮かばない、どうにかして決闘などにでも持ち込めばこちらの土俵なのだがそう簡単にはいかないことは想像に難くない。
深くため息を吐くことしかできない、夜風で身体が冷えていく、そんな時だった。
後ろから気配を感じたのは
「こんにちは?いやこんばんはだねフィル君、こんな夜中に一人でどうしたのかな?警備の人に見つかれば怒られちゃうよ」
「ギル先輩?」
綺麗な黒髪を揺らしながら、ギル先輩が立っていた。
「覚えててくれたんだ、良かった良かった。それでどうしたんだい?悩み事かな?」
自然と隣に座り込みこちらを覗き込んで来る。
「悩み事…まぁはい」
「ふーん、それってホープ君が関係していたりするかい?」
「…知ってるんですか?」
「うん、さっき虐められてる現場を見たからね、怪我は治したけど…その後の様子はどうだった?」
そんなことがあったのか、だから血がついていたのに怪我が見えなかったのか。それに虐められてる所を見たってことはやっぱりあいつらがやったってことだ…
「…ホープは何も言ってくれませんでした、俺のせいで巻き込まれたのに。俺は何もしてやれません」
「そうか、彼がシドルー達に何か言う意思があるなら生徒会副会長として色々出来る。でも言わないと僕達は何もできない、生徒会としてはね」
(そうだ、その通りだ。このことをホープが言うなら今すぐにでも生徒会は動いてくれるのに!なんで言ってくれないんだ?)
そう頭を抱えていた俺の肩に優しく副会長は手を置いた。
「悩んでるね、フィル君。なんで頼ってくれないんだ?どうして助けを求めてくれないんだって所かい?」
「はい、俺としては見てられないんです、だって俺のせいだから…ホープは友達だから…」
「なるほどね」
しばらくの間静寂が続いた、副会長は何も言わずただ目を開け夜空を見ていて、俺もなんとなく口を開くのが億劫だった。
そうして緩やかな時を感じていると、副会長の視線がこちらに向いていることに気づいた。
「僕さ、人を見るのが好きなんだ」「え?」
「よく見て、その人の性格とか今何考えてるのかとかが、小さい頃からなんとなく分かるんだよね。だからよく人を見てどんな人かなぁって予想してから話してみるんだ」
「は、はぁ」
「ホープ君の気持ち、なんとなく分かるんだよね。でもきっとそれを君に伝えるのは彼の本意じゃないし君達の問題だと思う、だから一回きちんと話し合った方がいい、大丈夫、君のことを嫌ってるとかはないだろうからね」
ギル先輩はきっと背中を押してくれてるんだと思う、悩んでる後輩に対して道を示してくれているんだと。
俺にややこしいことは考えても時間の無駄。きちんと向き合って話し合うのが最善だと理解した。
「…ギル先輩、ありがとうございます、俺…ちゃんと話してみます」
「うん、それがいい……うーん、じゃあ最後に一つだけ教えておこうかな」「?」
「ホープ君はきっと人を心の底から信じてない…いや?信じれないというべきかな、だからきっと自分一人背負ってしまうし、今までは背負えていたと思ってるんだ。だから彼に君は教えてあげなくちゃならない、友達を信じることをね」
▲▽▲▽▲▽▲
早朝、ホープは眠れていなかった。頭の中はフィルに対する罪悪感でいっぱいで、浅い眠りを繰り返しては覚醒を繰り返す。気づけば少し薄紫の空がカーテン越しに見える。
(あぁ、もう4時か…授業には出ないといけないよね、フィルはまだ…)
フィルは早起きだけど今の時刻には流石に起きない、気怠い身体を無理矢理起こして一息ついた。
「おはようホープ、早起きだな」
フィルが起きていた、予想外の出来事に返事をしようにも乾いた喉は動かない。
「なぁホープ、ちょっと話したいことあるんだけどいいか?」
とても真剣な面持ちでフィルは僕に目を合わせてきた。
(話?もしかしてフィルも離れていっちゃうのかな…)
また間違えた?今回は大丈夫だと思ったのに、何やってるんだよ僕は
「うん…いいよ」
でもしょうがない、フィルにとって僕は完全に足枷なんだから…
覚悟を決めて僕はフィルの話に耳を傾けた。
「ありがと、じゃあ一つ」
「俺を頼ってほしい、確かに、俺はホープより頭は悪いしこの学園のことも全然知らない、貴族じゃないただの平民だしホープからしたら頼りない存在かもしれない。それでも俺のことを頼ってほしい」
「何言って…」
「俺はホープのことを友達だと思ってるけど、ホープの考えてることは分からない。昔何かあったのかもしれないし、本当は俺に思う所があるのかもしれない…でも、俺は友達としてホープを助けたい」
「友達…?でも僕は…」
「俺はホープの本心を聞きたい」
「僕の本心…」
声が震える。こんなの、こんなのおかしいよ。僕はフィルを妬んで…裏切ろうとしたのに…
いつの間にか、僕は口を開いていた。
「あいつらに…フィルやレイバンが馬鹿にされてさぁ、悔しくて…本当に悔しくて…」
視界が滲んでフィルの顔がよく見えない。
「愛銃も取られちゃって…それでも何も僕はできなくて」
拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込んで痛いけど、この痛みじゃ足りないくらいだ。
「不甲斐なくて何もできない自分が嫌で…フィルに嫉妬する自分もいて、それが嫌で嫌でしょうがなくて…」
全部吐き出してしまった。本当は言いたくなかった。こんな醜い感情、誰にも見せたくなかったのに…
「こんな僕さぁ、助けてっていう資格なんて…」
「友達だろ」
フィルの声が優しく響く。
「友達なんだから、助けるのは当たり前だろ?」
フィルは僕の肩に手を置いた。その手は温かくて、力強くて。
「嫉妬なんて当たり前なんだよ。俺だって誰かに嫉妬することあるし、悔しいって思うこともある。ホープは何も間違ってない」
「でも…」
「でも、じゃないんだよホープ、お前は俺を馬鹿にされて悔しいって思ってくれたんだろ?それだけで十分なんだ」
フィルの言葉が、胸に染み込んでいく。
「愛銃のことだって、俺が必ず取り返す」
「フィル…」
「だから言ってくれよ、頼ってくれよ、友達なんだから」
フィルの目が真っ直ぐに僕を見ている。嘘も誤魔化しもない、本気の目だった。
ああ、そうか
僕は…僕はずっと
信じることが怖かったんだ
裏切られたくなくて、守るのを言い訳にして壁を作ってた。
喉が詰まる。言葉が出てこない。でも、言わなきゃいけない。今ここで言わなかったら、きっと一生言えない。僕は震える唇を無理矢理動かした。
「フィル…たすけて…」
小さな、か細い声だった。そんな声に返ってきた声はとても温かくて、勇ましくて…
「任せろ!」
ヒーローみたいだった。




