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43話 正義

 正義ってなんだろう






「ホープ!その怪我はどうしたんだ!」


 オンドルフ先生にバレた。


 オンドルフ先生は才能がないと分かっても戦い方の知識などの指導はしてくれた、戦いの専門家だからこそ僕の怪我に誰よりも早く気づいたんだろう。


「なんでもないです…」


「あまり舐めないでくれ、これが暴力で出来た傷であることは容易に分かる。問題は誰にやられたかだ」


「ただの喧嘩です」


「ホープ、君がそんなことする子の様には思えない。もし虐められてるのなら言ってくれ、ただの冒険者だが、必ず力になる」


 オンドルフ先生は本気で心配してくれていた、こんな僕に対して懸命に言葉をかけてくれる。それがひどく嬉しくて…


 辛かった…


(叶うならこの人と一緒に強くなりたかったなぁ)


 迷惑は掛けれない、オンドルフ先生はないも関係ないし両親にもだ。ただでさえ時期当主の僕がこんな能無しなのに問題を起こしたらどうだろう、そんなの許されるわけが無い。


「…何かあったらいつでも相談してくれ」


 その言葉を最後にオンドルフ先生は何も触れなくなった。そしていじめはそんなに続かず、数ヶ月程度で興味が失せたのかどこかへ消えた。


 だからと言ってクラスに馴染めるわけもない、授業を受け家に帰り指導を受けて寝る。唯一の楽しみは図書館で借りた本を寝る前に読むこと、なのに最近はもう読むのすら億劫だった。


 繰り返しの毎日、知識だけを溜め込む日々、一人ぼっちの日常。一種の自暴自棄になっていた時、ふととある本が目に入った。


希望エスペランサのヒーロー」


 図書館の奥にあった絵本、分厚くも綺麗でも無いただの絵本。それをなぜか手に取って僕は開いていた。


 内容は一人の男が隠れて色んな人を救ってく内にやがて世界も救う、なんてことない喜劇。よくある話だと普通なら思うだろう、それでも僕は読む手が止まらなかった。


 正義の心だけ人一倍の少年、成長し仮面をつけ夜な夜な身を隠しながら一人で戦うヒーローになる。


「エスペランサ…」


 読み終わって数分の間立ち止まった、衝撃を受けていた…感動とも言えるかも知れない。心にあったモヤモヤに光が差した感覚、すぐ様絵本を借りた。


『ゴミ拾いでも道案内でもなんでもいいんだ、正義に大きさなんてないんだから』


『この世界の全ての行動は良くも悪くも誰かの明日になる』


 一つ一つのセリフが心に沁みた。


 力の強さなんてあくまで一部、それが無くても誰かを助けることができる。言い聞かせていただけの言葉を真の意味で理解できた。


「ヒーローエスペランサ…ちょっと恥ずかしいな」


 憧憬が二つ、あの人に僕はきっと追いつけないけど…エスペランサにならなれると思った。だから勢いで真似したけどちょっと…いやかなり恥ずかしくて部屋で一人悶絶したのが懐かしい。


 それから毎日、街にいる人達の手伝いをした。自慢するものでもない、ほんの些細な問題を手伝って解決する。


 それだけで僕は満たされたんだ。


 だからこそ迷った。諦めてる弱い自分とヒーローになりたい自分、どちらも僕だけど本当の自分はどっちなんだろう。


「なんで…魔法が使えないんだろう…」


 戦う術が欲しかった、だって馬鹿みたいじゃないか……戦う力が無いのに魔法や魔物の勉強なんて。


(正義に大きさはなくてもやっぱり大きな魔物を倒したい…一匹の強い魔物を倒せば多くの人を救える)


 あの日の僕みたいに、無力な人を守れる様な人への憧れは強くなる一方だった。諦められないからオンドルフ先生の指導も辞めなかったし魔法の勉強もし続けた、そんな日を過ごしてたある誕生日。


「ホープ、君にこれを渡したい」


 そう言って先生は銀色に輝く物を僕の手に置いた。


「これは…銃?」


 本で知った未来国で作られた遠距離武器、その狙いやすさは弓の比ではなく誰にでも扱いやすいという利点を持っているが未来国の外に持ち出すのは厳しく制限されている。


 理由は誰でも扱える殺傷武器であり、盗賊などが使う可能性がある点。それなのに市民が護身用として持つには魔物などに効果が薄いという点が挙げられる。


 そんな物が今目の前に手渡された。


「あぁ銃だ、だがただの銃じゃない、魔銃マジック・ガンという魔力を玉にする銃なんだ。これはまだ世に出ていなくてな、知り合いに君のことを相談して譲り受けた物なんだ。きっと魔法が使えない君でもこれなら扱えるだろう」


「先生…」


 銀色の魔銃を手の中で握りしめた。ひんやりとした感触が、確かに僕の手の中にあった。


「ありがとう…ございます…っ」


 声が震えた。目の前が滲んで、オンドルフ先生の顔がぼやける。


 何処かで諦めていた、諦めなければいけないと思っていた。才能のない自分が戦う夢を見ることは、周りに迷惑をかけることだと。でもオンドルフ先生は…僕のために、こんなものを用意してくれた。


「ホープ」


 優しい声が頭上から降ってくる。


「君は聡い、感情に任せて撃つ様な子ではないと知っているからこそ渡すんだ。この銃で撃つのは魔物だけ、もし人を撃つとしたらそれは大事のときだけだ」


「はいっ、せん…せい…っ」


 もう駄目だった。涙が溢れて止まらなくなった。僕は魔銃を胸に抱きしめたまま、声を上げて泣いた。


 嬉しかった。認められた気がした。魔法が使えなくても、才能がなくても、僕はまだ戦えるんだって。


「ティア…この銃の名らしい、大切に扱うんだぞ」


「はい…!」


 その日から夜な夜な街の外へ出て、魔物を討伐するようになった。最初は小さな魔物ばかりだったけど、それでも僕は嬉しかった。戦える、誰かを守れるかもしれない。


 でもすぐに壁にぶつかった。


「くそっ…!」


 魔銃マジック・ガンの威力を上げれば少し強い魔物も倒せる。でも威力を上げすぎると反動に耐えられない。一度レベル2を一撃で粉砕する様な威力で放ったら肩が外れ、腕が痺れ、地面に転がった。


 レベル2にすら手こずるのは悔しかった。でも、戦えない頃に比べればなんてことはなかった。


 だから少しずつ、僕は前を向けるようになった。家でも以前より笑えるようになったし、オンドルフ先生も、両親も、僕の変化に気づいていたと思う。


 ただ一つだけ、変わらないものがあった。


 学校では卒業まで誰とも馴染めることはなかった。


「次は…どうしようかな」


 卒業証書を手に、僕は小さく呟いた。勉強だけは欠かさずやっていたから試験に対する不安はあまりなかった、夜の討伐で体は疲れていたけど、それでも机に向かい続けた。


 受けるは王国最高峰の学園、ノジオン。


 不安と自信を胸に受験。結果が届いたとき、僕は何度も封筒を見返した。


「合格…?」


 信じられなかった。あのノジオン学園に、魔法も闘気も使えない僕が。


「あなたは自慢の子よ、ホープ!」「ホープ!やったじゃないか!」


 母さんが泣きながら抱きしめてくれた。父さんも珍しく目を潤ませていた。


「お前は…本当によく頑張ったな」


 その言葉に、僕も涙が溢れそうになった。




 ノジオン学園を選んだ理由は色々ある。一年前から学園で教鞭を取ってるオンドルフ先生への恩返し、研究設備、コネクションを作るため、王都に行ってみたかったから。


 そんな風に新しい日常に胸を躍らせていたら入学の日がやってきた。


(ルームメイトは居ないのか…ちょっと残念だな)


 初めての王都にワクワクしつつ狭い部屋に荷物を運び込みながら、僕は部屋を見回す。


 新しい学園、新しい寮、新しい生活。


 新しい制服、新しい教室、新しい顔ぶれ。


(とりあえず第一印象は大事、大丈夫、いじめがあってももう友達は巻き込まない…僕は変わった!頑張れ僕!)


 僕は心の中で何度も繰り返し、落ち着いて教室に入る。辺りを見回すと既に何人かの生徒は集まって話していた。


(とりあえず、話しかけなきゃ)


 僕は近くにいた男子生徒に歩み寄った。相手はこちらに気づいて、少し不思議そうな顔をした。


「あの…」


 声を出そうとした。でも、喉が固まったみたいに動かない。


「ん?」


 相手が首を傾げる。


(なんで…なんで声が出ないんだ)


 頭の中では言葉が渦巻いているのに、口が開かない。心臓が早鐘を打ち始める。


 もし友達になれたとして。


 もし仲良くなれたとして。


 いじめに巻き込まれないなんて言い切れるのか?また離れていっちゃうんじゃないか?


 もうあんな思いはしたくない。


(失いたくない…まだ何も始まってないのに、失うのが怖い)


 誰かを助けたい、でも友達を失いたくない。二つの気持ちが、僕の喉を塞いでいた。


「…どうかした?」


 相手の声が遠く聞こえた。僕は首を横に振って、自分の席に戻った。


(僕は…どうすればいいんだろう)


 新しい環境でも、僕はまた一人になった。



 それから、何も変わらない日々が続いた。


 クラスメイトたちは決して僕を除け者にしているわけではなかった。むしろ、話しかけてくれる子もいたし、グループ活動では笑顔で接してくれた。


 でも僕は、どうしても一歩を踏み出せなかったんだ。


 昼休みになると図書室へ逃げ込んだ。放課後はすぐに寮に戻った。誘われても、適当な理由をつけて断った。


(仲良くなりたい…でも、怖い)


 こう思うとルームメイトが居ないのは幸運だった、一人が楽だったから。


(あぁ…本当に僕はダメな奴だなぁ)


 この学園にいる人達は凄い、僕なんかじゃ何年経っても追いつけないであろう人達しかいない。皆んな当然の様に魔法を使えるし闘気も同じ学生とは思えない練度だ。


 同学年には四代貴族のシェアト様、遠目から見た剣は今まで見た剣舞の中で一番美しかった。


 一つ上には同じく四代貴族で既にレベル5を倒す偉業を成し遂げたファスカ様。


 最高学年には王族でありながら軍師として一流のヒントル様。


 現実を分かっていたつもりで僕はなにもわかっていなかったかもしれない、壁は想像より分厚くて余りにも高くて…超えることなんて不可能だった


 一年だ、学園にきてたった一年で心は折れ掛けていたと思う、両親にも会えず誰にも相談出来ず追い詰められていた。


 休まず行った…しっかりテストでも好成績だったし研究も進めた。でももう責任感だけだった、二年生になったら今度こそ友達を作ろうかと思ったけどどうせ無理だと諦めていた。


 そんな時…君は来てくれたんだ


 ねぇフィル、僕嬉しかったんだ…夢を話すのは君が始めたんだったんだよ?何故か君にならついつい話しちゃうんだ、少しの雑談でも本当に嬉しかったんだよ


 レイバンもトニカもフィルが居なければ仲良く出来なかった、フィルがいなきゃきっと二年生もつまらないままだったんだ。だから僕は恩返しがしたい…迷惑を掛けるなんてもってのほかだから…だから…




 ▲▽▲▽▲▽▲




 校舎裏、行こうと思わなければ誰も通らない人気のない場所、そこには倒れたホープを取り囲む三人の影があった。


「ホープ…だったかな?痛いのは嫌だろ?そろそろ頼みを聞いてくれてもいいんじゃないか?簡単なことだ、今出来た怪我をあの平民にやられたと噂を流すだけでいいんだ、そうしたら俺たちが潰してやる」


「いい加減偽善者ぶるのはやめとくのが身の為、実際お前もあんな平民が調子ずくのはイラつくだろ、それをシドルー様がわざわざ追い出してくれるというのだ」


「追い出すとは人聞きが悪いが…まぁこれも秩序を保つ為、正義のためだ。協力してくれたまえよ」


(正義…?何が?フィルを潰すことが…?)


 ホープは伏しながらもうっすらと目を開き、痛みをこらえシドルーを睨みつけた。


「何が正義だ…フィルは貴方達に何もしてないでしょう…」


「はは、何もしてないはないだろう。こちらは不快な気持ちにされているのだ、それにあの様な者のせいで平民どもは調子に乗りいずれ反旗を翻すかもしれない。言ってしまえば国賊なのだ、あの男は」


「話にならない…自分勝手で自己中心的な考え方だ。貴方達にフィルを貶す権利は…!」


 言葉を紡ごうとしたホープの腹部に、鈍い衝撃が走った。


「がっ…!」


 シドルーの蹴りがホープの腹に深く食い込む。胃の中身が逆流しそうになり、ホープは思わず身体を丸めた。


「黙れッ!」


 シドルーは冷静さを完全に失っていた。


「お前のような…お前のような無能が!私に説教をするというのか!折角穏便に済ませてやろうとしてるのだ、あの平民と関わっているものなど全員潰してもいい所を!わざわざこうやってる私の優しさが分からないのか!」


 何度も何度も容赦ない蹴りが腹部、顔面に脚に肩にに叩き込まれる。ホープの身体は勢いよく地面を転がった。


「シドルー様、落ち着いて…」「やりすぎでは…」


 取り巻きの二人が戸惑った声を上げるが、シドルーは聞く耳を持たなかった。


「うるさい!お前達もこうなりたいか!こいつが…こいつさえ黙って従えばなぁ!くそくそくそ!あぁぁぁ!」


 シドルーは怒りに任せ顔面を、靴で何度も踏みつけた。


「あぐっ…!」


 頬が地面に擦りつけられ、砂利が皮膚に食い込む。それでもホープは、歯を食いしばって声を殺した。


(痛い…!痛いけど…これでいい。僕が我慢する限りこいつらはフィルに対して何もできない、ここまで躍起になるのは僕経由でしかフィルを潰せないから…!)


 それにこんなでもこの人は強い、フィルですら闇討ちでもされればきっと大変なことになる!


 僕さえ耐えればフィルに何かが及ぶことはない、僕さえ耐えればフィルもレイバンも守れるんだ!僕さえ耐えれば…


(なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ)


「ふぅ…ふぅ、ファスカ様はどうかしている、きっとあの平民に弱味を握られているに違いない。王国の盾として育てられてきた私が守って……ん?」


 冷静さを取り戻したシドルーは靴を退かしホープの顔をまじまじと見下ろした。


「くくく…なんだ貴様、泣いているのかぁ?」


「…え?」


 泣くつもりはなかった、子供の様な意地で泣かないように努めていたから。必死に押し込めていた…それでも流れていた。


「泣くぐらいなら最初から言うことを聞けばいいのだ、ようやく分かったか?」


 シドルーの声は届いていない、否、声だけじゃない。蹴られた場所の痛みも屈辱もホープの心を蝕むわけじゃなかった。今ホープの心を痛める理由はただ一つ…


(あぁ……僕は、ぼくは本当にダメなやつなんだ、本当に最低のクズなんだ。こんな状況で僕は考えてしまった…少しでも思ってしまった…)


『なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ』


『どうして僕にフィルの様な才能がないんだ』


 もしフィルの様に強かったらこんな状況にならなかった…


 もしフィルの様な才能があればオンドルフ先生と一緒に強くなれた…!


 もし…もしフィルの様に…フィルみたいになれたら僕は…



 僕はヒーローになれた



 心の関はすでに壊れた、ホープは自己嫌悪でどうにかなりそうだった。


 自分の弱さに目を背けて友達に嫉妬した。ただ一人の親友を心の中で恨んでしまった。ほんの少しだけでもフィルに責任を押し付けた。


(僕にはもうフィルといる資格がないんだ…だからもう…)


 ホープは涙を流しながら地面に身を任せていた、捨てられた人形の様に汚れて動かないホープを見逃すシドルーではない。


「さぁ、泣いてないで言え、この私に協力しますと!私の言うことを聞きますとと!早く言…ん?…これは銃か?」


「あ…」


 服の内側にしまっていた愛銃ティアがいつの間にか地面に転がっていた。毎日毎日、オンドルフから貰い受けたあの日から大切に扱い共に戦い抜けた半身。


「ん〜?ただの銃ではないな、こんな上等な物を…お前の様なものが持ってるのはよくないなぁ。そう思うだろう?」


「待って…それだけは…!」


 声が震えた。全身が悲鳴を上げていたが、それでも這うようにして前に進み手を伸ばした。


「返してください…それだけは…お願いします…!」


「ほう、随分と大事なものらしいな」


 シドルーは魔銃マジック・ガンを手に取り、まるで玩具でも眺めるように軽々と掲げた。銀色の銃身が月光を反射してきらめく。


「お願いします…何でもしますから…!」


 ホープの声は必死だった。プライドも何もかも投げ捨てて、ただ一心に懇願する。


「…それだけは返してください…!」


 地面に額を擦りつけ、土で汚れた顔を上げてシドルーを見上げた。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。


「お願いします…っ!お願い…します…!」


 シドルーは、誇りも尊厳も捨てたその姿を見下ろして口角を吊り上げた。


「ははは…あはははは!」


 取り巻きの二人も釣られるように笑い出す。


「なんて…なんて情けないんだ貴様は!大切であろう物を取られする行動が懇願とは、いやぁ…なんともまぁ恥ずかしい奴だな」


 シドルーは魔銃を弄びながら、ホープを見下ろした。


「どうしてもこれを返して欲しいか?」


「はい…っ!」


 絶望の中に突如垂らされた蜘蛛の糸、縋ることしかホープに残された選択はない。


「ならば言え。『私は噂を流します、どうか哀れな私をお使いください』とな」


 喉が固まった。


(言えば…言えば返してもらえる…?)


 でも、それは。


(いや…ありえない、そんなこと言ったら…僕は本当にフィルに顔向け出来なくなる。二度と正義に向き合えなくなる…でもそれは…)


 半身か友か


 愛銃ティアかフィルか


 どちらも大切なホープの心の拠り所


「早くしろ」


 シドルーの声が冷たく響く。


(言えば…言えば返してもらえるかもしれない)


 でも


 トニカの明るい笑い声が浮かんだ。レイバンの優しい声が聞こえた。フィルの笑顔が見えた。


 そして、オンドルフ先生の姿が…


 ホープはゆっくりと顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃの顔で、それでもはっきりとシドルーを見据えた。


「…言えません」


「何?」


 シドルーの眉がピクリと動いた。


「言わない…僕はそんなこと言わない!」


 声は震えていた。それでも、ホープは言葉を続けた。


「フィルは…僕の友達だから。そんな嘘は…絶対に言わない!」


「貴様…」


 シドルーの顔が歪む。怒りか、あるいは苛立ちが、その表情に浮かんでいた。


「本当に愚かだ。つまらん、本当につまらん奴だ…まぁいい、今日はこれぐらいにしておこう。だがこれで終わりだと思うなよ貴様、これからも私は必ず来る…断ったことことを後悔させてやる」


(いいんだ…これでいい…)


 愛銃ティアは取られたけど、それでもこの選択に後悔は無い。


(無いんだから、早くこの涙…止まって欲しいなぁ…)


「ははは、シドニー様もう行きましょ行きましょ」「そうです、今日は鹿肉を取り寄せたので楽しいディナーになることです」


「ククク、そうか、そうだな。多少はストレス解消にもなった、あのフィルとかいうやつに関しては他の方法で…」



「何してるのかな」



 声が聞こえた、この場にいる誰のものでもない声が聞こえた。決して大きな声ではないが頭に響く様な音で聞いてきた。


 うっすらと目を開き、声の主を見た。


 そこに立っていたのは、この学園にいるものなら誰もが知っている…生徒会副会長。


「ギルフォード・ラーベラル…」


「この場所いいよね、誰も来ないから黄昏たい時とか最適な場所だよ」


 場違いな笑みを浮かべるギルフォードに思わずシドルーは半歩下がる。


「だからたまに一人で休むんだ、木の上で寝たことはある?ハンモックに負けず劣らずの寝心地なんだよ」


「ま、待てギルフォード、これは…」


「寝ている時ふと声が聞こえるんだ」


「…は?」


「大勢が笑う声、そしてそれに掻き消される泣き声…いつだって笑う方がたくさん聞こえるんだ。笑い声がたくさん聞こえても僕の心は決して穏やかになれないのは何故だろうね、シドニー」


 怒気が漏れた…ギルフォードの笑顔から少しだけ。それだけで取り巻き二人は腰を抜かしシドニーは大量の冷や汗で首筋を濡らす。


「シドニー、こんな時間にこんな場所で何をしてるのかと思えば…後輩虐めとはね。いや〜」


 笑みが消える。


「覚悟は出来てるのかい?」


 深淵の瞳が敵を捉えた。

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