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39話 一蹴

「ライ、剣士と戦う時の基本を教えてやるよ」


 今から三年も前にトットが教えてくれた基本。


「剣ってのは近距離専用武器だ、要は射程が短い。だけど俺らが使う拳や脚はもっと短い、いわば超近距離武器ってわけだ」


「それは分かるわ」


「まぁこっからよ、強くなればなるほどたった数mmでも生死を分ける。だからこそ俺たち武闘家は剣が相手でも距離を取っちゃいけねぇ」


 ジリ貧になるかよとトットは付け加える。


『なら普通に剣持った方が良くねぇか?』


「分かってねぇなぁザック〜、浪漫があるんだよなぁ拳には」


 自らの拳を見せてトットは構え拳を空に撃つ。


「まぁ真面目に言えば剣より小回り効くし、対策出来てる奴もあんまいないし、拳は剣と違って離すこととかないからな。それでいて剣に攻撃力では劣らねぇ」


「最初からそう言えよ、それで戦い方ってのは?」


 冷静につっこみ流れを本筋へ。


「あぁ、距離詰めるっても下手打ったら即お陀仏だからな。両手が空いてる利点活かしてけ」


 自分の師である武闘家は砂を持ってそんなことを駄弁っていた。






 決闘場、目の前には四代貴族、完全なる一対一、周りの観客はアーサー一色。


 こんな状況でもライは普通を崩さない、ただ悠然と構える。


「よーい、始め!」


 マチュ先生の合図と共にアーサーが木剣を振るう、高速の薙ぎ払い。


(へ〜薙ぎ払いねぇ…それは舐めすぎだろ)


 完全に剣先を見極め、間合いを一気に詰める。


 トット流 「回転パラフーゾ


 剣を避ける勢いで放つ回転蹴り、足の甲がアーサーの顔面にめり込む。


 怯むアーサーに追撃の空襲。


 トット流 「隕石メテロ


 狙うは首、折れないようゆっくりと舞って刺す。


 五体から放たれる華麗なる蓮撃、観客の目が奪われる。


 この決闘を見ている中で今目の前の現実を想定できたのはたった三人、それ以外は皆が自分の眼を疑う。


「つ、つえ〜っ!!」


 観客の誰かが言った。


 見にきていたオンドルフもシェアト達もサンドラも全員がその言葉に頷くだろう、それほどまでにライは強よかった。もし相手が四代貴族でなければ歓声が沸いていたに違いない。


 だが周りに反応とは打って変わりライとザックは困惑していた。


『よ、よわ〜。ってきり大振りは撒き餌でなんかあると思ってた俺様が馬鹿みたいじゃないか!』


(…まぁ予想外ではあるけど、弱い分にはいいだろ。それにまだ油断するには早計だろ、気引き締めろザック)


 油断など一切ない、武闘家として常に緊張感は持っておくべきととある女性に教えてもらって以来、慢心は捨てた。


 動きを見るため待っているとアーサーが突然叫んだ。


「…はは、そうか、何かしたなゴミ、勝てないからと搦手を!いいんですか先生!?こんな奴を神聖な決闘場に入れて」


 ?


 ??


 ???


『おいライやりすぎだぞ!頭おかしくなっちゃってるじゃないか』


 頭が?で埋め尽くされる、目の前の男は何を言っているのかと、先生も困惑しちゃってるじゃないかと。ライが動きを止めていると怒りの矛先は観客へ。


「なんだその目は!お前ら!降りてこい…降りてこい!」


 ライはあえて見ていなかった周りを見回す。


(結構人来てんな、あ、フィル兄も)


「ちょっと待て!何かの間違いだ!こんなゴミが僕に勝てるはずが…!先生も見てたでしょう!」


『…あいつ今自分がどんな目で見られてるのか気づいてないのか?』


(気づいてたらあそこまで痛い奴にならねぇよ)


 アーサーがこちらを血走った目で見つめる、ここでようやくライは確信する。


(演技じゃねぇなこりゃあ、じゃあなんだ?ナチュラルに弱いのか?おかしいな、闘気とか見る限りもっと強いって思ってたんだが…)


 フィル兄があれだけ言ってた生徒会長のファスカさまはめちゃくちゃ強い、ラロさんもダグ爺も四代貴族は強いと言っていた。

 身になる戦いができると思ったらこれ、期待はずれと言わざるを得なかった。


「…なんでお前そんな弱いんだ?」


 つい口から出てしまった。アーサーの顔がみるみる真っ赤になり、血管が浮き出る。


「弱い…だと…?」


 その声は震えていた。怒りか、それとも別の何かか。


「僕が…僕が弱い…だと…!」


 木剣を握る手が震え、アーサーは完全に理性を失った。


「つけあがるのも大概にしろ!!僕が上でお前は下なんだよ!これは覆らないんだ!」


 狂ったように木剣を振り回しながらライに突進する。しかし、その動きは感情に任せた無茶苦茶なもので、基本にすらなっていない。


(これは…)


 ライには全てが見えていた。右上段からの振り下ろし、次に左横薙ぎ、そして突き。


 全て単調で、フェイントも何もない。まるで素人が闇雲に暴れているようだった。


「くっそおおお」


 アーサーの木剣がライの頭上を通り過ぎる。ライは最小限の動きで避ける避ける。首を少し傾けるだけで剣先は空を切り、半歩下がるだけで突きは届かない。


 審判をするマチュは目の前の光景を見つめていた。


(冷静ねライくん⭐︎アーサーくんの攻撃は確かに単調、でも遅いわけじゃない⭐︎なのに全て避けれているのは…)


 お兄さんの影響ね⭐︎とマチュは確信していた。


 観客席からは困惑の声が漏れる。


「あれ…アーサー様が…」


「なんで当たらないんだ…?」


「あの平民おかしいぜ…」


 アーサーの剣撃は次第に大振りになり、バランスを崩し始める。


(もう終わりだな)


 ライは既に次の一手を見ていた。相手が完全に崩れた瞬間を狙って—


「うおおおおおお!」


 最後の渾身の振り下ろし。しかし力任せ過ぎて、アーサーは自分で体勢を崩してしまう。


 その隙を、ライは見逃すはずがなかった。


「よっと!」


 トット流 「飛来ティカーオ


 アーサーの顎を砕く膝蹴り、豪快な音を鳴らし愚者は崩れ落ちた。


 完全に失神したアーサーを見下ろし、ライは小さくため息をつく。


「勝者!ライくん〜⭐︎」


 マチュ先生の宣言と共に、観客席が静まり返る。


 そして—


「うおおおおおお!」


「すげぇ!平民が四代貴族に勝った!」


「あの回転蹴りやばかった!」


 観客席が爆発的な歓声に包まれる。アーサーへの同情など微塵もない、純粋に強き者への称賛だった。フィル兄が観客席から手を振っているのが見え、ライは小さく手を振り返す。


(まぁ、これで終わりだな)


 出る前にライはアーサーに声を掛ける。


「もしお前に少しでも誇りがあるなら、ちゃんとサンドラに謝るんだな」


 何も返ってこないと思っていた、ここまでズタボロに負けたんだから顔を上げるはずがないと。


「お、お前…何を捧げた…?」


「捧げた?」


 倒れたアーサーから返ってきたのは意味が分からない疑問、ゆっくりと顔をあげアーサーは言葉を綴る。


「お前は僕より才能がない…見れば分かる…体格、闘気、魔力量に魔法も全部僕より弱いのに…なぜ……そんなにも強いんだ…」


「なんでって言われてもな、お前が最初から魔法とか使って技も駆使すれば結果なんて分かんなかったろ。ただお前は使わなかっただけだろ?今言った全部をよ、俺は色々使ってお前は何も使わなかった…それだけだろ。今の方が良い眼してるぜ、お前」


 アーサーは何も言い返さなかった、ライ自身も無言で背を向ける。



『おい!俺様を褒めろよ!』


(お前何もしてねぇじゃん)


『いや〜、でも俺様の的確な指示があったからこそ…』


 うるさい相棒を無視してライは颯爽と決闘場を離れた。







 翌日、昼休み。ライとサンドラは中庭のベンチで弁当を食べていた。


「昨日は凄かったね!まさかあそこまで圧勝なんて!」


 サンドラは興奮気味に昨日の試合を振り返る。試合が終わってすぐこちらに抱きついてきたのにまだ興奮は冷めないらしい。


「次やったら分かんねぇよ、あそこまで楽に勝てたのはまぐれだ」


「それにしてもアーサーの顎の打ち砕き、くぅ〜」


 そんな他愛もない会話をしていると、突然影が差した。


「やぁ、随分と楽しそうだな」


 見上げると、顎に包帯を巻いたアーサーが立っていた。

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