38話 愚者の戦い
「ライ!何考えてるの!?」
アーサーが去った後、サンドラが慌てたようにライの肩を掴んだ。
「大丈夫だって、心配すんなよ」
「大丈夫って!相手は四代貴族だよ?」
サンドラの声は震えていた。ライを巻き込んでしまった罪悪感と彼への心配からか。
「俺が勝手にやったことだ。気にすんな」
「でも…でもあたしのせいで」
「ちげぇよ」
ライはサンドラの肩に手を置いた。
「俺が腹立っただけだ。あいつに一発かまさなきゃ治らなかった」
『そうそう!あのクソ野郎、調子に乗りすぎなんだよ!』
相棒のザックも興奮気味に同意してる。
「ありがとうだけどさ、あれでもあいつ強いんだよ」
「分かってるよ、まぁ、負ける気はねぇよ」
そんな時、教室の扉が勢いよく開かれた。
「みんなー!おはよ⭐︎」
明るい声と共に現れたのは、ピンクの髪をツインテールに目隠しをした女性だった。見た目は若いが、先生らしい落ち着いた雰囲気は全く感じられない。
「私が皆の担任のマチュよー⭐︎ よろしくお願いね〜⭐︎」
彼女の登場で、教室の重苦しい空気が困惑に変わった。
『なんだこいつ、もっとマトモな奴じゃないのかよ』
「さてさて、入学初日、みんな仲良くできるかしら⭐︎まず自己紹介ね!」
マチュ先生が教室を見回すと、流れている緊張感に気づいたようだった。
「あら?なんだか空気が重いわね⭐︎ 何かあったのかしら?」
「いえいえ、なにもありませんよ先生」
アーサーが白々しく答える。
「本当ー?まぁいいわ⭐︎それより自己紹介よ!」
マチュ先生が手を叩くと、教室がざわめく。
「じゃあ、そこのイケメン君から⭐︎」
アーサーが指名され、立ち上がった。
「アーサー・ペルシオンです。四代貴族の一人として、この学園でも相応しい地位を築くつもりです。そして必ず王になる、以上」
「志が高いのはいいことよ〜次⭐︎」
マチュ先生の軽い反応に、アーサーは少し眉をひそめたが特に何も言わずそのまま順番に自己紹介が進み、自己紹介が終わると、アーサーが手を上げた。
「先生、明日の放課後、決闘の申し込みがあります」
「決闘?誰と誰かな⭐︎」
「僕と、そこの平民です」
教室がざわめく。マチュ先生は困ったような表情を見せた。
「えー、入学初日から決闘?仲良くできないかしら⭐︎」
「いえ、これは必要なことです。彼だけでない、四代貴族とそれ以外の立場、身の振り方を理解してもらう必要があります」
「うーん⭐︎ でも決闘は学園の正式な制度だし⭐︎ 分かったわ、明日の放課後ね。でも怪我しちゃダメよ⭐︎」
「承知しました」
アーサーが満足そうに頷く。
「ライ君も大丈夫?」「おう」
その後、入学式が始まった。校長の長い挨拶、各種説明、ファスカの洗礼。そして寮での生活についての案内。ライはほとんど上の空で聞いていた。
『おい、本当に大丈夫なのか?』
(分からねぇ、でもやるしかないだろ)
入学式が終わると、生徒たちは三々五々解散していく。
「ライくんにサンドラちゃん⭐︎ ちょっと残ってくれる?」
マチュ先生が声をかけた。
教室に三人だけになると、マチュ先生の表情が少し真剣になった。
「本当に大丈夫なの? アーサー君、四代貴族だからきっと強いわよ⭐︎」
「でも勝つぜ、必ずな」
「ん〜心配してるのよ⭐︎ だって初日から決闘なんて⭐︎」
「先生、あたしのせいなんです。アーサーが無理やりチームに入れようとして、ライが止めてくれて」
「知ってるわよ⭐︎ 優しいのね⭐︎でももし決闘が嫌なら私が止めてあげるわ⭐︎どうする?」
「別にいいよ、一発ぶっ飛ばしてやんなきゃ次も他のやつにやるぜ」
マチュ先生が心配そうに見つめる。
「でも決まったことだし⭐︎ 怪我しないように気をつけてね⭐︎もし何か困ったことがあったら、いつでも先生に相談して⭐︎先生、見た目はこんなだけど、結構強いのよ⭐︎」
そう言って、マチュ先生は少し誇らしげに胸を張った。
「ありがとうございます」
「じゃあ、今日はもう帰えって明日に備えるためにしっかり休んでね⭐︎」
三人は教室を出た。廊下を歩きながら、頭を悩ませる様に捻っていたサンドラがふと思い付いたかのように手を合わせた。
「そうだ!作戦会議しよう!」「作戦会議?」
「そう!アーサーの対策を考えるの!あたし、色々知ってるから!このまま見てるだけなんてやだしさ!」
さっきまでの落ち込みはどこへやら、今日一番サンドラの目が輝いている。
「あー頼むわ」
「じゃああたしの部屋で話そう!」
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サンドラの部屋は思ったより綺麗に片付けられていた。机の上にはノートと筆記用具が綺麗に並んでいる。
「さあ、座って座って」
サンドラがベッドに座りその隣を叩くもライは無視して向かいの椅子に腰を下ろした。
「…まずアーサーの固有魔法なんだけど」
「知ってるのか?」
「うん、有名だからね。『解放』って言うの」
「どんな魔法だ?」
「魔力を剣に溜めることができて、それを任意で解放して超火力でバーンみたいな」
「『……』」
大分ふわふわした説明だがライはなんとか咀嚼し理解。
(要は溜めた時間に応じた超火力技をいつどこでも撃てるってわけか、何分でどんくらいかが分かんねーと対策もクソもねぇけど限界はあるよな、なきゃヤベェけど…)
もし限界がないならば、戦うまでに溜めて始まった瞬間『解放』で勝てばいい。
『まぁ性格的にねぇだろうな』
「しかも、アーサーは剣術もかなり上手いらしい、幼い頃から最高の師匠についてるから」
ライが腕を組み頭を悩ませる。
「つまり近づけないし、近づいても剣で切られるってことか」
「そういうこと。一年最強は伊達じゃないわけ」
サンドラが指を立てる。
「そして家系魔法の『武具召喚』、これがある限り剣を奪ったとしても意味はない」
「なるほど」
「弱点のない剣士、“大砲”アーサーペルシオン」
『聞いた感じ勝ち目なしって感じだな』
ザックの言うとおり、闘気も多く、魔法も強い。勝ってるところが無いようにも感じる、だがまだサンドラは口を開く。
「そして…アーサーは一年唯一の三属性持ちなんだよ」
「やばいって感じだな」
「やばい所じゃないよ!今どれだけピンチかわかってないでしょ!退学になるんだよ?」
「それはそうだけどよ、決まったもんだから腹括るしかねぇだろ。勝つか負けるかしかないしな」
サンドラは不安でしょうがない、どうして目の前の男はこんなに余裕そうなのか、何故今のを聞いて勝てる気でいるのか。
「なんでそんな余裕なのよ?」
だからつい聞いてしまった。
「今の聞いたでしょ?市民が勝てる相手じゃないの!」
「どうしてお前の方が余裕ねぇんだよ」
「茶化さないで!」
「…茶化してるわけじゃねぇよ、ただよサンドラ」
ライはこっちの目を見つめて、一言だけ放った。
「お前俺の強さ知らねぇじゃん」
その時のライの笑顔をサンドラは忘れないだろ。
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翌日、放課後。
決闘場には多くの生徒が集まっていた。四代貴族の決闘ということで、学園中の注目を集めている。
「おい、あいつが挑戦者か」
「無謀すぎるだろ」
「アーサー様の相手になるわけない」
周りの生徒たちの声が聞こえる。
ライは決闘場の中央に立っていた。相手のアーサーはまだ現れていない。
「ライ、頑張って!」
観客席からサンドラが声をかけてくる。
『緊張するなよぉ?』「するわけねぇだろ今更」
そんな風に言い合っていると、決闘場の入口から拍手が響いた。
アーサーが堂々と現れる。手には細身の木剣を持っている。
「逃げずに向かってくるとはな、その蛮勇は誇っていいぞ。ゴミ」
「そっちこそ、ママに泣きついてるんじゃないかって心配してたんだぜ?」
アーサーがライの対面に立ち剣を向ける。
「これからその身を持って自分の弱さを晒し嘆き苦しむことになるんだ、多少の虚勢は見逃してやらんとな。僕の広い心に感謝したまえ」
「その虚勢に踊らされ、のこのここの場に出て来た可哀想な奴をエスコートしなくちゃな」
「ふっ、謝罪の一つでも言ったら一撃で終わらせてやろうと思ったのに。生きて出られると思うなよ」
「心配しなくてもちゃんと出してやるから安心しな」
マチュ先生が審判として間に入る。
「さぁさぁ過激な言い争いは終わり!それでは、決闘を始めるわよ⭐︎」
観客のざわめきが一瞬にして静寂に…
「よーい、始め!⭐︎」
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(実に愚かなゴミだ、この僕に逆らい、挙げ句の果てに歯向かうとは!)
アーサーに今まで逆らうものは誰もいなかった、同年代にも歳上にも、常に自分が上だった。
そんなアーサーに初めて逆らったのが今、目の前にいる平民のライ、初めて向けられる感情にアーサーは不愉快でなく歓喜を示した。
(自分に歯向かう奴を倒した時、どれだけ心地いいのだろう。考えるだけでワクワクが止まらない、安心しろゴミ、時間を掛けゆっくりと惨めに思えるほどに痛ぶってくれる)
剣を構えるまでもない、どうせこのゴミはただの紫閃にすら反応できないのだから。
「よーい、始め!⭐︎」
アーサーが最初に選択したのはただの大振りの薙ぎ払い。
(さぁさぁ!見せてみろ、その顔を!)
初手、大振り。なんの隙も見せてない相手に対し自ら隙を晒す悪手極まる悪手。
本人は欠片も気づきすらしなかったが、アーサーは愚かな選択をし続けた。
その意味を今、顔面に飛んできた蹴りの痛みと共に理解する。
(っな!?なんだ!なにぎゃ!)
涙と痛みから目を閉じる、だから上からの急襲に気づかない。首を狙った蹴り、直撃。
(あぎゃ!いったい!なんだ、なんなんだ!)
突如攻撃の手が止まる、アーサーは痛みを我慢し目を開く。
そこには困惑した表情のゴミが立っているだけ。
「…はは、そうか、何かしたなゴミ、勝てないからと搦手を!いいんですか先生!?こんな奴を神聖な決闘場に入れて」
「……?」
先生、観客は静かだった、まるで誰も何を言ってるか理解してないかのように。
生徒たちの視線が一斉にアーサーに注がれる。その視線は今まで向けられていた尊敬や憧れとは全く違う種類のものだった。
困惑、驚愕、そして…軽蔑。
「なんだその目は!お前ら!降りてこい…降りてこい!」
(なんだ、この視線は!?なぜみんながこんな目で僕を見る!?)
アーサーは慌てるしかできない。顔面と首の痛みがまだ残っている。
「ちょっと待て!何かの間違いだ!こんなゴミが僕に勝てるはずが…!先生も見てたでしょう!」
「いやぁ見てたけど、ねぇ」
ライが首を傾げ問う。
「あの…なんでお前そんな弱いんだ?」
この時初めてアーサーは気づいた、今この場で、誰が弱者で愚者に見られているかを。




